佐々木倫子原作、石原さとみ主演の火曜ドラマ「Heaven? 〜ご苦楽レストラン〜」。墓地にあるフレンチレストラン「ロワン ディシ―」(この世の果て)を経営する変人オーナーとワケありの店員たちが織りなすレストランコメディーだ。

コメディーといっても、日本の作り手は感動の物語や人生訓なんかを付け加えがちだが、このドラマにはそれがない。美味しそうな料理とドタバタと石原さとみがいればそれでいい。そういうドラマである。佐々木倫子の原作がそうだから仕方ない。ただ、原作が持っている「味」をどう再現するかが問題なのだが……。

第2話の視聴率は9.2%。けっこう踏ん張ったと思う。

食べてみたい「ミッドナイトランチ
「シェフは弱気になると味が薄くなるのよ」

2話でフィーチャーされていたのは、シェフの小澤(段田安則)。かつて三つ星レストランに勤めていたこともある小澤には、ある不吉なジンクスがあった。それは、彼がかかわる店はすべて何らかの理由で潰れるというものだ。

そして、自信がなくなると、たちまち塩の量が減ってしまい、料理の味にパンチがなくなってしまう。腕はたしかで、料理も美味しい。だけど、味が薄い。そのことにオーナーの黒須加名子(石原さとみ)は大いに不満を抱えていた。

なぜなら、彼女は自分が客として美味しいフレンチを食べたいと思っていたから。あと、まかないも。

小澤が自信を失っている理由はハッキリしていた。店に客が少ないのだ。予算面でもさまざまな制約を課せられて、小澤はますます自信を失っていく。名優・段田安則は中年男のしょぼくれた状態とバリバリの状態(中年男のバリバリだからたいしたことはない)を見事に演じ分けていく。

伊賀観(福士蒼汰)が提案した起死回生の策は「ミッドナイトランチ」。2500円でハーフポーション(半分の量)コースがいただける。川合太一(志尊淳)が言うように、めっちゃお得やん。これなら食べに行ってみたいぞ。

ハーフポーションのコースを採用しているフレンチレストランは少なくない。あまり量が食べられない中高年の客がメインになっているからだ。気張って女性をフレンチにデートに誘うような(たくさん食べる)若い人はもう少なくなっているということだろう。

仮名子が流した「味は絶品だが次々と店を潰してしまう伝説のシェフ・小澤」の記事の効果もあって、ミッドナイトランチは大好評。しかし、小澤の自信は乱高下を続けるのであった。

これが5万円の自由よ!
そんな折、料理だけで1人5万円のコースの予約が入る。しかも16人分! とある会社の創立30周年の会食らしい。そんなことしてくれる会社があるのか……。

しかし、店のやりくりで苦労ばかりしてきた庶民派シェフの小澤は、原価率20%のメニューを考えるのがやっと。しかし、原価率20%では5万円の料理らしくない。せめて原価率30%は欲しいが、小澤は原価率30%のメニューが思い浮かばなくて呻吟する。このシェフ、今の時代に合っているなぁ。

苦しむ小澤を仮名子が励ます。

「5万円に意味なんてない。5万円は自由の値段。ただ、それだけ。シェフの才能が5万円で買われたのよ?」

発想の転換だ。5万円という予算を有効に使わなければいけないと思って窮屈になっていた。そうではなく、予算の範囲でシェフのやりたいことをやればいい。なんなら食材を余らせたっていい。お金があるっていいことだ。「これが5万円の自由よ!」と仮名子。それでも失敗を恐れる小澤に対して、さらにこう言う。

「自分が心から満足いくものができたら、たとえ失敗しても後悔はしないし、絶対に心は折れないものよ」

発奮した小澤は、高級な食材をバンバン発注。さらに客が初めて自分のファンだと言ってくれた会社社長の丘野(石橋凌)だと気づき、そのとき食べていた「ウサギのバルブイユ(フランスベリー地方やニヴェルネ―地方に伝わる赤ワイン煮込み)」にクルジェット(ズッキーニのこと)をあわせた料理をメインで出す。丘野はいたく満足して店を去り、さらに店の宣伝までしてくれていた。SNSでお願いした川合くん、グッジョブ

結局、食材を余らせまくって原価率は70%に達していた。また別の料理に使えば結果的に原価率は落ちると考えていた小澤だが、仮名子がアワビや伊勢エビなどの高級食材を勝手に焼いて食べ始めていましたとさ、というオチ。仮名子が小澤を励ましていたのも、自分が高級食材を食べるためだった。

トリッキーな演出という「味」
初回は「生首演出」をはじめとする木村ひさしによるトリッキーな演出が賛否両論を招いたが、今回は小澤の自信を表現するために段田安則のお面をかぶった力士が登場。塩を撒きつつ、画面にコマンド画面と塩分パラメータが表れる。……うーん、これって面白い?

もちろん、「生首」や「諦観」もあったが、2話はとにかく「力士」押しだった。野間口徹がボケて、全員で「ズコッ!」とコケるシーンもあったが、あんなの久しぶりに見た。

料理の中の塩は必要不可欠なもので、それで料理全体の味の印象も大きく変わってしまうが、「力士」や「生首」の演出は場面の説明にとどまっており、物語の中で必要不可欠な「味」ではない。雑味が乗っかっているようなものだが、その雑味がドラマ全体の印象を決めてしまっているような気がする。素材を活かした美味しいフレンチにおかしな調味料ふりかけたら、その調味料の味しか印象に残らないのと同じだ。

本日放送の3話はオーソドックスな「母もの」。さあ、どうなる? 今夜10時から。
(大山くまお

Heaven? ~ご苦楽レストラン~」
出演:石原さとみ福士蒼汰志尊淳、勝村政信、段田安則、岸部一徳舘ひろし
原作:佐々木倫子 『Heaven?』(ビッグスピリッツコミックス刊)
脚本: 吉田恵里香
音楽:井筒昭雄
主題歌:あいみょん 「真夏の夜の匂いがする」
演出:木村ひさし、松木彩、村尾嘉昭
プロデュース:瀬戸口克陽
製作著作:TBS

イラスト/まつもとりえこ