「建物の設備点検業務の工数が半減する」と謳う日本ユニシスの設備点検サービス「まるっと点検」への引き合いが増えている。同サービスはセンサーを活用して設備の稼働状況を管理し、故障の予兆をとらえたり、故障発生時期を予測したりするもの。加えて、タブレット端末やスマートグラスなどのモバイル機器を使い、設備点検時の作業効率の向上や省力化を図れる。

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 2019年4月、ビルやマンションの管理会社の利用を想定してスタートしたサービスで、新事業創出部PFイノベーション室第2グループの勘米良俊暢グループリーダーは「エネルギー関連を含め公共性の高いインフラ設備の管理・点検を手掛ける企業からも問い合わせが寄せられている」と話す(写真1)。

 多くの建物では今も点検要員が現場で設備の検査やメンテナンスにあたっているが、点検要員は人手不足が深刻化している。ところが、この分野はこれまでITシステムがあまり浸透していなかった。それがIoT(モノのインターネット化)やAI(人工知能)技術の進展によって大きな注目を集め始めている。

点検回数や報告書作成時間を削減

 まるっと点検は大きく三つの機能で構成する。一つめは、センサーデータを基に設備を遠隔監視する「まるっと点検モニター」である。給水ポンプや排水ポンプ、照明の灯火・消灯を制御する電灯盤の稼働状況を常に監視するとともに、異常の早期検知や故障時期予測を行うことで、安定稼働を確保しつつ定期点検の回数を減らす効果が期待できる。

 例えば、給水ポンプに加速度センサーや漏水センサーを取り付け、計測した振動データなどをクラウドに送信する(写真2)。通常と異なる大きな振動や不規則な振動、あるいは水漏れを感知すると設備点検要員に稼働状況の確認や修理を促すアラートをメールで送る。また、振動データから算出した設備の累積稼働時間を基に故障時期を予測し、定期点検時期にとらわれずに適切なタイミングで部品交換や入れ替えを計画できる。

 二つめは、設備点検の現場で報告書を自動作成する「まるっと点検リポーター」だ。点検要員がタブレット端末の画面をタップして点検結果を登録するとともに、タブレット端末で撮影した写真をクラウドに送る。すると所定の報告書が自動で作成されるため、点検要員はすぐに次の現場に向かえる(写真3)。これまでは点検要員が現場から戻ってきて報告書を作成していたが、この機能を利用すれば、点検終了後すぐに管理者が点検内容を確認・承認できるようになる。

 まるっと点検を導入したマンション管理会社では、同モニターによって定期点検回数を年間4回から1回程度に減らせる見込みだという。また、報告書作成や承認の作業に以前は月間100時間程度を要していたが、同リポーターの活用で約8割減の20時間程度に減らすことに成功した。

スマートグラスで点検作業を遠隔支援

 3つめの機能は、カメラや通話機能を備えるスマートグラスを用いて点検要員の作業を遠隔支援する「まるっと点検コミュニケーター」である。前述した二つが主に点検作業の効率を向上させる機能なのに対し、三つめは限られた人数の熟練者の知見を、点検だけでなく修理作業にも効果的に活用するための機能である。

 点検要員がスマートグラスを装着して設備の前に立つと、カメラで撮影した映像が遠隔地にいる技術者のモニター画面に映し出される(写真4)。技術者は映像を確認すると同時に点検要員から設備の状態を聞き取り、点検箇所を指示。故障部位を特定したら、留意点を踏まえながら具体的な修理手順を伝えていく。

 ビルやマンションの設備修理は、点検要員と設備に詳しい専門技術者の最低2人で行うことが多いという。だが「コミュニケーター」を使えば現場に向かうのは点検要員1人で済む。しかも、遠隔地にいる技術者は複数の現場を並行して担当できるようになる。

 日本ユニシスは今後、自動ドアの開閉センサーなどを追加し、まるっと点検モニターで稼働監視できる設備の種類を増やしていく予定だ。併せて、各種センサーで計測した設備の稼働データや点検報告書のデータ、修理記録をAIに機械学習させ、熟練の技術者とは違う新たな切り口で設備の故障を的確に予測する機能を実装する。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  車載センサーからのデータで故障発生を予測へ

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日本ユニシスの「まるっと点検」を利用した設備点検のイメージ(出典:日本ユニシスが公開しているYouTube動画)