アイドル界の行く末を案じる男、平成ノブシコブシの徳井健太が、日本全国のアイドルを訪問して歩く番組「徳井健太のアイドル理論」(dTVチャンネルのひかりKawaiian for ひかりTVで配信中)。異常なまでのアイドルの深掘りと少々の旅気分が味わえると好評な同番組で、芸人の顔とはまた違った一面を見せる徳井健太にアイドル好きの本音やアイドルが売れるために必要なことなどを聞いた。

【写真を見る】「お客に媚びてるようなアイドルは好きじゃないんです。どうやっても売れなくて絶望しているグループがいっぱいいるんです」と笑い飛ばす徳井健太

■ アイドル好きですが、こだわりがあるんです!

――まず、この番組のコンセプトから聞かせてください。

実は、基本的なものは何も決まってなかったんです。元々アイドルの番組を作っていた方が、この番組の演出をされていまして、僕とは長い付き合いがあった関係から、僕をメインにしてアイドルが出る番組を作ろうということになりました。ルールは、地方に行って、そこでアイドルとおしゃべりをすること。つまり、それだけの番組なんです。

――徳井さんがアイドル好きの芸人ということでできた番組なんですね。

僕は確かにアイドルが好きなんですが、何と言いますか、言い方は悪いんですけど、お客に媚びてるようなアイドルは好きじゃないんです。今の時代、お客に媚びる、そう例えばハグしたり、客席に向かって「大好きだよ」って言っていれば簡単に人気って出ると思うんです。でも、この番組では、そういう子じゃなくて、本気で一生懸命努力している子をキャスティングしてくれとお願いしています。

――正統派アイドルが好きなわけではないんですね。

う~ん、どっちが正統派なんでしょうね(笑)。僕は、可愛くてきれいな衣装を着て、手を振って歓声を受けているようなアイドルには正直あまり興味がありません。地方に行くと、一生懸命やっていても壁にぶつかって、どうやっても売れなくて絶望しているグループがいっぱいいるんですよ。そんな子たちの話を聞いてあげて、「もっとこうした方がいいんじゃないの」というようなアドバイスをしています。

――媚びてないアイドルっていうと、例えばどんな子たちですか。

スイッチを入れて始まるプロアイドルのような子はいっぱいいると思いますが、僕はあまりそういうのは求めていません。芸人も一緒ですが、番組だから面白いんじゃなくて、普段から変な奴、やばい奴で、普通の世界では生きていけないから芸人をやっている。その方が面白いんですよ。

それと同じで、普段から魅力的なんだけど、それが偶然アイドルをやっていてもやっぱり魅力的だった、というのが好きなんです。僕が注目している「フィロソフィーのダンス」は媚びてないし、事務所にも可愛がられて大事にされているアイドルですね。

――そもそも徳井さんがアイドル好きになったきっかけは何ですか。

2人目の子供が生まれる頃、今から8~9年位前のことになりますが、嫁が出産で里帰りしたんです。僕は嫁と21歳から付き合って、そして結婚したので、一人暮らしの経験がないんですよ。それでそのとき初めて一人になってすごく寂しくなってしまって。

そんな時に、ドランクドラゴンの塚地さんと、はんにゃの金田に爆発直前のももクロ(ももいろクローバーZ)を教えてもらいました。それこそ擦り切れるくらいDVDを観ましたよ。それからですかね。ももクロから始まって、それからエビ中(私立恵比寿中学)やAKB48に興味が出て、それをテレビで語っていくうちにいろいろな情報をいただくようになりました。

――ではアイドルに目覚めたのは最近なんですね!

そうなんです。ももクロからですから、目覚めたのは遅いんですよ。それに元々が“ガチ恋”という感覚がゼロなので、可愛いとか気にしません。だから顔なんかあまり見てないんですよね。

――徳井さんから見て、アイドルになるために生まれてきたと思える存在は?

それは(ももいろクローバーZのリーダー)百田夏菜子だと思います。彼女は太陽から零れ落ちたと思っているんで。

――では、日本経済や社会に影響を与えるようなアイドルは?

僕は、欅坂46平手友梨奈ビートルズジョン・レノンに見えるんです。オーラがあって圧倒的なカリスマ性を感じます。今は不満があっても嫌だと言えない人がたくさんいますが、そういう不満を抱えた人たちの反逆の代表のような存在が平手友梨奈なんだと思います。

――ちなみに、徳井さんが子供の頃、好きなアイドルって誰でしたか?

いたかなぁ。ああ、一人いました。華原朋美さんが好きでした。その頃は、今と違って恋愛感情を持って熱心に見ていましたね。真剣に会いたい、付き合いたい、結婚したい、という感情がありました。

■ 完成されたアイドルは苦手なんです!

――若くて、素人に限りなく近いアイドルと語り合う秘訣はあるんですか?

そこに関して僕は何かしらの長けている部分があると思うんです。でも、何でなのかなぁ、僕自身がノーガードでしゃべっているからなのかもしれませんね。だから相手も勝手にノーガードになると思うんですよ。それに僕は基本的に嘘をつかないので、相手もオープンになってくれるのかもしれませんね。

逆に、完成されたアイドルとは何をしゃべっていいのか分からないし、苦手なんです。空中戦と言いますか、ガードが固すぎて15ラウンド戦って判定で終わる感じですね(笑)。

――無名のアイドルが求めているものは何だと思いますか。

そこが難しいところで、やっぱりみんなそれぞれ求めているものが違います。本人たちはそれを言おうとしませんが、僕はまず、最初にそれをつかむようにしています。

例えば、武道館に立つのが目標なら、武道館までのしごきをするし、テレビに出てスターになりたいのならもっと厳しく指導します。地方に行けば行くほど、口では「売れたいです」って言うんですよ。じゃあ、家族にも会えない、彼氏も作れない、お金もないで5年間頑張れるのかといえば、みんな本音では嫌だと思っている。それでも頑張る、ほんの一握りの子には厳しく言います。

ただちやほやされればいいんです、って感じの子には、可愛いねって言うだけにして厳しくはしません。そういう姿を見て、徳井さんはあの子にだけ優しいって言う子もいますよ。僕にしてみたら逆なんですけどね。まぁ、今はハラスメントだ何だと言われる時代ですが、最高を目指すなら死ぬ気でやらないと話にならないと思います。

――無名の女の子が有名になるために必要なことって何ですか。

それは運です。可愛い子でちょっと人気が出たとしますよね。金儲けだけを考える運営だったら、死ぬほどライブに出して握手券やチェキ券を売れるときに売れるだけ売るわけです。1年間だけなら何千万円にもなると思いますよ。でも、その子の10年後を考えたら、ダンスや歌や演技の基礎練習にもっと時間を使うべきなんです。つまり、運営サイドが、どう動くかってことですね。そうやってちゃんと先まで考えてくれる事務所と出会うのは、まさに運なんです。

■ アイドルの世界は、まるで芥川龍之介の世界

――“地下アイドル”という言葉がありますが、それに代わる徳井さんなりのネーミングは何かありますか。

なるほど、地下アイドルに代わる言葉ですね。アイドルと言ってもいろいろな子がいますから…頑張っている子もいれば、頑張っていない子もいて、前向きに頑張っても報われない子もいるし、そういうのが混ざり合ってうごめいているというところから僕は地獄だと思っているので、“地獄アイドル”ですかね。まさに芸能界の地獄ですね(笑)。

這い上がろうとしている人に抱きついてくる人もいるし、みんなで地獄でいいじゃんって感じでいる人もいますしね。せっかく蜘蛛の糸が何本も降りてきているのに1本を取り合って落ちていったり、急に光が照らされて昇っていく人もいるし、まさに芥川龍之介の世界ですよ(笑)。

――その子たちは、なぜアイドルになりたいと思うんですか。

ちやほやされたいという子もいるし、人を感動させたいと思うアーティスト系の子もいます。スポットライト症候群って言うんですかね、一度辞めても帰って来る子が多いんです。恋愛したり遊んだりして自由になっても1年ぐらいしたら虚無感に襲われるんですよ。そんなにいい世界じゃないと分かっているはずなのに帰って来ちゃう。知らなきゃ帰って来ることもないので知らない方がいいんですよ。

――ご自分のお子さんがそんな世界に入りたいと言ったらどうされますか。

うちの息子は芸人になりたいって言ってますけど、運しかないし、運が悪けりゃ終わりだよ、100人中10人も残らないよ、とは言いましたけど、若者には伝わらないですね。

アイドルも運だと思います。そりゃ続けてやっていればいつかは花開くかもしれないけど、それが80歳になってからかもしれないし、花が開く前に死んじゃうかもしれない。もし僕に娘がいてアイドルになりたいと言ったら絶対に反対します。

■ 素顔の徳井健太とは

――こうしてアイドルのことを語る徳井さんの姿を、相方の吉村さんはどういう思いで見ていますか。

気持ち悪いなと思ってるんじゃないですか(笑)。まぁやりたいことをやっているので、そのままやりたいことをやれば、と思ってるんじゃないですかね。

――徳井さんのように、素の部分や変態的な部分を表に出すって勇気がいることですよね。

僕はあまり欲がないんです。“モテたい”とか“金持ちになりたい”とかという気持ちがないと、それを隠す必要がないんですよ。逆になさ過ぎて申し訳ない時もありますね。

一応タレントなので、もう少しいい服を着た方がいいとか。でも本音を言えば、裸足と裸で生きていきたいぐらいなんです。

――そんな徳井さんを応援している方もいらっしゃるのでは。

応援してくれている人なんて見たことないですね(笑)。嫁もアイドルに関わる仕事については応援していませんからね。あ、運営さんかな。運営さんは信頼してくれています。それも一世代前の運営さんですね。若い運営さんとは正直、話が合わないところがあります。

――運営さんとしっかり信頼関係ができているんですね。

目の前の金だけを稼ぎにいって、この子たちの10年後を見ていますか、といった運営さんもいますよ。そういう方々とは話が合わないからあまりしゃべらない。いい運営さんだと思えるのは、30代、40代の元ミュージシャンや元タレントの方々で、自分たちが同じように苦労してきたので、頑張っているアイドルたちの未来をちゃんと考えてくれています。

甘い世界じゃないから基礎をしっかりつけさせようという考えを持っているので、僕が意見を言ってもしっかり聞いて受け入れたりもしてくれますね。

――徳井さんはプロデューサーのような目線でアイドルたちのことを真剣に考えているんですね。

そうですね、気がつくとそんなふうになっていました。まぁ、頑張った人が頑張った分だけ幸せになれる世の中になったらいいと思うし、それを少しでもお手伝いできたらいいなと思います。

――これからのアイドル業界はどういう方向へ行くと思いますか。

これからもインスタントなアイドルは生まれ続けると思います。単純計算で、10人組を作って、一人5人のファンがついて、一人チェキ5枚撮って、週末2回まわせば簡単に飯は食えると思います。それを嫌がるような子はクビにして新しい子を入れればお客はまた入る。そんな事を平気で繰り返している悪人を、善人の運営さんが取り締まってちゃんとアドバイスをしてあげられるようになればいいんですけどね。

――これまでこの番組をやってこられて手応えみたいなものはありますか。

マジで手応えはないです(笑)。手応えはないんですけど楽しいです。この番組は2時間ぐらいしゃべるんですけど、面白いかどうかよりもアイドルも運営さんも何か気づけて少しでも前に進むことができる番組になればいいんじゃないかと思います。

――徳井さんが楽しそうにやっているのが伝わってきます。

僕は単純に楽しんでやっています。一人旅番組みたいなもので寂しい時もありますけど。でも本当に楽しいから遠くに行く時は自腹でホテルに泊まって飯食ったりしてるんですよ(笑)。

――これからもっと人気番組になるにはどうしたらいいですか。

サカ(坂道シリーズ)と、ももクロに出てもらうのが一番なんですが、今のところ可能性はゼロですね(笑)。

――視聴者に向けて一言お願いします。

アイドル番組と言うよりは、説法とか哲学とか倫理の番組に近いと思うので、アイドルに興味がない方もドキュメンタリー的に見てもらって、ああ、こういう人生もあるんだなとか思ってくれたら嬉しいです。とにかく夢のある番組です。

とくい・けんた●1980年9月16日生まれ、千葉県出身。お笑いコンビ、平成ノブシコブシのツッコミ担当。(ザテレビジョン

まさに秘境のような、知られざるアイドルの世界を徳井健太が探訪し真実を伝える