田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)

 人は誰もが死ぬ。しかし、死んだとき、遺体や火葬がどうなるかについてはタブー視されている面もあり、あまり知られることがない。

 葬祭系YouTubeチャンネルでも屈指の人気を誇る「葬儀・葬式ch」の主宰、佐藤信顕氏は、そんな現状に違和感を抱き、インターネットでの明瞭な価格公開な価格公開などにいち早く取り組んできた人物だ。

 6月に『遺体と火葬のほんとうの話』(二見書房)を上梓したばかりの佐藤氏に、葬儀と火葬にまつわる「本当の話」を直撃してみた。

◆火葬や葬儀をめぐるデマ
―― 佐藤さんは葬儀社を営みながら、YouTubeで「葬儀・葬式ch」という動画配信を行い、遺体や火葬などの話をわかりやすく伝えています。今回の新刊はこれらの動画配信を一冊にまとめたものです。なぜ遺体や火葬について広く伝えようと思ったのですか。

佐藤信顕氏(以下、佐藤):遺体や火葬は表だって話すにはとても生々しい内容を含んでいるため、あまり多く語られてきませんでした。そもそも火葬場は高度なプライバシーで守られた空間です。火葬場には事故や自殺で家族を亡くしたご遺族も来ますし、隣の火葬炉のお骨が見えることもあるため、撮影も禁止されています。私たちのような葬儀屋の人間でさえ、火葬場の場内で撮影したことはありません。
 こうした状況を逆手にとって、火葬や葬儀に関するデマや都市伝説を作り、不安や恐怖を煽っている人たちがいます。そうしたデマを信じ込み、不安を感じている人もたくさんいます。

 そこで、私は動画配信で、遺体や火葬などにまつわるデマに立ち向かうような話をすることにしました。書籍の中にもデマにトドメを刺すための話をたっぷり詰め込んでいます。

―― どのようなデマが広がっているのですか。

佐藤:一番多いのは、お骨の話です。たとえば、覚せい剤をやっていた人を火葬すると、黒い骨になるという話があります。しかし、骨に色がつくのは、基本的には火の回り具合や副葬品や火葬炉の材質の影響です。一緒に燃やした物の金属物質が焼きつき、それが骨についてしまうのです。焼き物などでも金属成分を使った釉薬をかけることで色をつける技法がありますが、それと同じ原理が働くわけです。

 また、死産児や腐乱したご遺体は朝一番に火葬することが多いため、火葬場では亡くなった赤ちゃんと腐乱死体が同じように扱われていると言われることがあります。

◆死産児の火葬が早朝に行われる理由
佐藤:しかし、これにはちゃんとした理由があります。火葬のバーナーの火力は最新型のものだと50万キロカロリーに達します。ものすごい火柱が上がるような、プロ仕様の中華料理のガスバーナーが5万キロカロリーですから、その10倍です。それぐらいの火力がないと、人間をお骨にすることはできないのです。

 しかし、赤ちゃんの場合、成人を想定して作られた火力で焼くと、骨が残りません。そこで、火葬炉の温度が上がっていない朝一番に火葬することが多いのです。

 他方、腐乱したご遺体の場合、棺から臭気が出て周りの共有スペースに漂ってしまうことがあります。もちろんなるべく臭いが出ないように処置をするのですが、それでも防げないことがあります。そのため、火葬炉が空いている朝一番などに火葬することが多いのです。

 このように、火葬の時間帯はそれぞれ異なる理由から決まっています。しかし、単に時間帯が一緒だというだけでデマが作られてしまっているのです。

 その他にも、残骨灰(遺体を火葬し、収骨したあとに残る骨や灰などのこと)が農業用の肥料として使われているとか、石膏ボードになっているといったデマも流れています。

 しかし、ご遺体は副葬品など様々なものと一緒に火葬されるので、残骨灰には有毒物質が多く含まれています。肥料として使われることなどありえません。残骨灰は業者によって適切に処理され、最終埋葬地に運ばれることになっています。そこできちんと供養もされています。

 遺族にとってお骨はかつて家族だったものではなく、形を変えた家族そのものです。家族にとっては我が身の半分と言っていいと思います。だからこそ、お骨が粗末に処分されているのではないかと心配になり、デマに踊らされてしまうのだと思います。みなさんには是非、そのような心配はないということを知ってもらいたいと思います。

◆葬儀不要論の背景
―― 最近では葬儀不要論のような議論も行われるようになっています。これについてはどのようにお考えですか。

佐藤:まず前提として、日本では信仰の自由が保障されているので、どのように考えるのも自由だと思います。その上で話を進めますが、この手の議論には「合理的」という言葉が頻繁に登場します。「合理的に考えれば葬儀は不要だ」というわけです。

 しかし、人間は合理的なことばかりやっているわけではありません。そんなことを言うならば、人生の節目でお祝いをする必要もありません。それでも多くの人たちがお祝いをするのは、お祝いをやったほうが心が休まるからです。

 葬儀も同様です。深い悲しみの中にいる人にとっては、合理的でなくとも葬儀やお墓の存在はとても重要です。お子さんを亡くしたご両親の前で、「お葬式やお墓は無駄だからいらない」と言えるでしょうか。

◆葬儀不要論は中国の影響
佐藤:また、私自身は葬儀不要論は中国の影響によるものだと考えています。実際、葬儀不要論の構造は、中国で行われている殯葬改革(葬儀改革)と全く一緒です。

 中国共産党は仏教や道教などの伝統的な宗教を否定し、葬儀の簡素化を進めてきました。その一貫として火葬を推進し、地方政府にも毎月これくらい火葬を行うようにとノルマを課しています。

 しかし、中国には様々な民族がおり、彼らにはそれぞれ独自の死者の葬り方があります。たとえば、江西省では伝統的に土葬が行われており、生前に棺桶を購入し、死後に備えるという風習があります。そのため、いくら火葬を押しつけても、なかなか浸透していきませんでした。

 そこで、江西省政府は暴挙に出ます。土葬してあるご遺体を掘り返し、無理やり火葬したのです。さらに、お年寄りが自分のために購入していた棺桶を徴収し、重機で破壊したのです。

 葬儀不要論も葬儀を簡素化していこうという考えから出てきたものですから、殯葬改革と同じ思想です。そういう意味では、葬儀不要論との戦いは思想の戦いでもあるのです。

―― 本書は遺体と火葬をメインテーマとしていますが、次回作の予定はありますか。

佐藤:今度はプロの火葬師や納棺師の方々からお話を聞き、「遺体と火葬のほんとうの人たち」といったものにしたいと思っています。本書でも火葬師の方と対談しましたが、その方には師匠がいるので、火葬のやり方を教える大変さなど、そういった話もできればと思います。
7月4日、聞き手・構成 中村友哉)

【佐藤信顕(さとう・のぶあき)】
1976年、東京生まれ。有限会社佐藤葬祭代表。厚生労働省認定葬祭ディレクター1級。祖父の代から続く葬儀社を20歳で継ぎ、インターネットでの明瞭な価格公開などに取り組む。2015年からYouTubeにて「葬儀・葬式ch」の配信を開始。アカデミー賞映画「おくりびと」の美術協力のほか、メディアへの出演も多数。著書に『ザ・葬儀のコツ まちの葬儀屋三代目が書いたそのとき失敗しない方法』(合同フォレスト)がある。

<記事提供元:月刊日本>

【月刊日本】
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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