殺人の罪などで10年間服役した鹿児島県の原口アヤ子さん(92)が無実を訴え、再審を求めている「大崎事件」で、原口さんの再審請求を棄却した最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)の決定に抗議する集会が7月23日、都内であった。

弁護団はすでに4度目の再審請求をすると明かしている。鴨志田祐美弁護士(弁護団事務局長)は同時並行で「再審法も変えないと、こんな悲劇を救えない」と語気を強めた。

大崎事件は、1979年鹿児島県大崎町で男性の遺体が見つかった事件。殺人として扱われてきたが、原口さんは一貫して否認してきた。弁護側は、事故死の可能性を示唆する法医学鑑定書などを新証拠として提出していた。

●相次ぐ検察の抗告の問題性

大崎事件では、2002年(鹿児島地裁)、2017年(鹿児島地裁)、2018年(福岡高裁宮崎支部)と3回も再審開始を認める決定が出ているが、検察の抗告によって覆されてきた。開始方向の決定が3回出た唯一の事件だ。

今回の最高裁決定の特徴は、検察の特別抗告を「理由がない」と退けつつ、職権による調査で「破棄自判」(下級裁判所の決定を破棄して自ら判断)している点にある。

集会で発言したジャーナリストの今井恭平さん(なくせ冤罪!市民評議会)は、今後の再審手続きで検察の抗告が相次ぐ可能性を懸念した。

「抗告の理由があろうがなかろうが、抗告しなさい。最高裁が救ってやる、というサインにほかならないじゃないですか」(今井さん)

再審をめぐっては、法律上の決まりが少ないとされる。今年5月に結成された「再審法改正をめざす市民の会」では、諸制度を整えるとともに、検察官抗告の禁止なども求めている。

最高裁の破棄自判はアリか?

最高裁はそもそも「法律審」といって、法令問題のみをとりあげ、事実問題には原則かかわらないとされている。

「もともと法律審ですから、憲法や判例に違反していないかをチェックする場所であって、証拠に照らして事実がどうかということは普段やっていない」(鴨志田弁護士)

下級裁判所に差し戻すならまだしも、事実の取り調べも行わず、「強制終了」にしてしまったのは、「最高裁に与えられた権限や能力を超えている」と鴨志田弁護士は批判する。

再審はそもそも「無辜の救済」のためにおかれている。「人権救済の最後の砦」とされる最高裁が、再審請求について申立人の不利益になる方向で職権発動することは適切と言えるのだろうか。

刑事裁判の鉄則に反する?

再審開始を認めた2018年3月の高裁決定では、弁護側が提出した新たな法医学鑑定書(吉田鑑定)が評価された。死因は出血性ショックであった可能性を示すもので、事故死であったかもしれないことを示唆している。

最高裁は、有罪判決の決め手となった証言については、当事者に知的障害や精神障害、供述の変遷などがあったにもかかわらず、十分な根拠を示さないまま「推認」によって信用性は強固と認めている。

一方、弁護側が提出した吉田鑑定については、「一つの仮説的見解を示すものとして尊重すべき」としつつも、再審開始を認めるのに足りないと判断した。

旧証拠を所与のものとし、新証拠だけでその証明力を覆すことを求めているとも解釈でき、再審のハードルを高くしていると言える。

再審の手続きをめぐっては「疑わしきは被告人の利益に」の原則が再審制度にも適用されるとした白鳥決定があるが、「白鳥決定が想定していた『新旧全証拠の総合評価』ということは非常に厳しいです」と鴨志田弁護士は嘆く。

この点をめぐっては、刑事法学者92人も「刑事裁判の鉄則に反する」などとする声明を7月12日に発表している。

●全員一致の衝撃

今回の決定は、裁判官5人の全員一致。再審開始を認めた決定を取り消さなければ「著しく正義に反する」と結論づけた。

原口さんの長女・西京子さんは、「誰一人、意見する裁判官がいなかった」「一人の人間の人生をめちゃくちゃにして、よくそういう立場の職務についていられるなと腹立たしい思いでいっぱい」などと怒りを綴った手紙を寄せた。

「大崎事件」無実を求める戦いは続く「再審法も変えないと救えない」