第1子妊娠を公表していたブロガー・作家のはあちゅうさんが「妊娠糖尿病」と診断されたことを7月上旬、自身のブログで明かしました。現在、妊娠8カ月のはあちゅうさんは妊婦健診で血糖値測定を受けたところ、再検査の基準値である140を大きく超える200という数値が出たといい、「赤ちゃんへのリスクが増えると聞いて、悲しくて泣いた…」とコメントしています。

 これについて、ネット上では「私も2人目のとき妊娠糖尿病になった」「食後に血糖値を測っていました」といった経験者の声が上がる一方で、「初めて知った」「赤ちゃんへの影響が気になる」「普通の糖尿病とは違うの?」などのコメントも寄せられています。妊娠糖尿病が母体と赤ちゃんに与える影響について、糖尿病専門医の市原由美江さんに聞きました。

流産や早産、妊娠高血圧症候群などの影響

Q.「妊娠糖尿病」とは、どのような病気でしょうか。

市原さん「妊娠糖尿病の定義は、『妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病に至っていない糖代謝異常』です。妊娠期後半に、血糖値を下げるホルモンである『インスリン』の効きを悪化させるホルモンが、胎盤から産生されます。健康な妊婦では、このインスリンの効きの悪さに対抗し、インスリンの分泌を増やして血糖値の上昇を防ぎます。しかし、インスリンの分泌が十分でないと血糖値が上がり、妊娠糖尿病となります」

Q.妊娠糖尿病の診断基準と検査を教えてください。

市原さん「妊娠糖尿病の診断基準は、75グラムのブドウ糖を摂取する前後での血糖値によって決められています。妊娠初期や中期にスクリーニングとして血糖測定を行い、スクリーニングに引っかかった妊婦が『75グラム経口糖負荷試験』という検査を行います。この検査により、次のいずれかを満たした場合に妊娠糖尿病と診断します」

(1)空腹時の血糖値が92mg/dl以上
(2)ブドウ糖を摂取して1時間後の血糖値が180mg/dl以上
(3)ブドウ糖を摂取して2時間後の血糖値153mg/dl以上

Q.妊娠糖尿病になる妊婦はどのくらいいるのでしょうか。

市原さん「全妊婦に75グラム経口糖負荷試験を行った場合の妊娠糖尿病の頻度は約12%で、8人に1人の割合です」

Q.妊娠糖尿病の母体への影響は。また、具体的な症状を教えてください。

市原さん「母体への影響は、流産や早産、妊娠高血圧症候群、誘発分娩率の上昇、羊水過多、巨大児による難産(帝王切開率の上昇)など、さまざまです。一方で、妊娠糖尿病は『糖尿病には至っていないが、血糖値が正常ではない妊婦』のことなので、糖尿病で血糖コントロールが悪いときに起こりやすい口喝(口や喉が異常に乾く)、多飲・多尿、倦怠(けんたい)感、やせてくる、などの明らかな症状がないことがほとんどです」

Q.妊娠糖尿病と通常の糖尿病(1型・2型)に何らかの違いはありますか。

市原さん「通常の糖尿病の診断は、食前血糖値126mg/dl以上、または随時血糖値200mg/dl以上と血糖値が異常であることと、1~2カ月前からの血糖値の平均を反映する『HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)』という検査項目が6.5%以上であることが条件です。先述の通り、症状も違います。通常の糖尿病は、口喝や多飲・多尿、倦怠感などの症状がありますが、妊娠糖尿病は明らかな症状がないことがほとんどです」

糖尿病の家族歴がある人は要注意

Q.妊娠糖尿病になりやすい条件や特徴はありますか。

市原さん「糖尿病の家族歴があること(特に、父親か母親が糖尿病の場合)、肥満、35歳以上、尿糖尿性、巨大児の分娩歴、先天性奇形児の分娩歴、流産・早産・死産歴があることなどです。また前述のように、妊娠後期に血糖値が上がりやすくなります」

Q.妊娠糖尿病による出産時のリスクや、胎児への影響は。

市原さん「先述したように、妊娠糖尿病によって巨大児になる可能性があり、その場合は難産になるので帝王切開が必要になるケースがあります。また、出産時に母体の血糖値が高いと、生まれた子どもが出生後に低血糖になることがあります。さらに、妊娠糖尿病の母親から生まれた子どもは、将来的に糖尿病はもちろん、肥満やメタボリック症候群になりやすいことが分かっています」

Q.治療法と、治療に必要な期間について教えてください。

市原さん「妊娠中は血糖値を下げる薬は飲めないので、食事療法で血糖値が改善しない場合はインスリン注射による治療になります。血糖値の上がるタイミングによって、インスリン注射の回数は1日1~4回程度に分かれます。また、血糖値を自分で測ることでより、血糖値を細かく管理します。

出産すると、すぐにインスリンの必要量は低下するので、妊娠前のようにインスリン注射が必要なくなることがほとんどです。ただし、妊娠糖尿病になった人はそうでない人に比べて将来的に糖尿病になるリスクが約7倍と高いので、出産後も定期的な検査が必要です」

Q.妊娠前や妊娠中にできる予防法はあるのでしょうか。

市原さん「妊娠前に肥満傾向があれば、食事や運動を見直して減量に努めましょう。妊娠中は体重が増えすぎてもよくないので、バランスのよい食事を心掛け、間食はなるべく控えましょう」

Q.妊娠糖尿病という病気について「初めて知った」という声も少なくないようです。

市原さん「あまり聞き慣れない病気かもしれませんが、決して珍しい病気ではありません。妊娠糖尿病と診断されても、症状が特にないので自覚はあまりないかもしれませんが、赤ちゃんや母体に悪影響を及ぼす可能性が高いのできちんと通院し、血糖値の管理をしっかりと行うことがとても大切です。

また、出産後も糖尿病になるリスクは約7倍と非常に高いので、家族に糖尿病の人がいる場合は特に食事や運動などの生活習慣に留意し、体重が増えすぎないように注意します。体重が増えてきたり、逆にやせてきたり、口喝や多飲、多尿、倦怠感などの症状が出てきたりしたら糖尿病になっている可能性があります。早めに病院へ行きましょう」

オトナンサー編集部

「妊娠糖尿病」が与える影響とは?