まぶしい太陽、抜けるような青空、爽やかな夏風。いつにも増して心が躍る夏の休日。

【写真を見る】青い空と海に映える黄色い車体

「久しぶりに休みが合ったね」

裕美と千里。今日は幼馴染の2人が久々にすごす大切な一日。今2人が住むのは福岡と鹿児島。同じ九州とはいえ、近いようでやっぱり遠い。仕事のこと、家族のこと、恋のこと…話したいこと、聞きたいことは山ほどある。

だからこそ、今日は特別な日にしたい!と、2人が選んだ旅先は、水の都・長崎県島原。そして何より!今回の目玉は、島原鉄道『しまてつカフェトレイン』だ。

「裕美、観光列車に乗りたいってずっと言ってたもんね」

念願の観光列車とあって、裕美は満面の笑み。つられて千里もニッコリ。

「島原って初めて」「私も!」

島原はどんなところ?『しまてつカフェトレイン』はどんな列車?いくつもの“初めて”に胸が高鳴る。荷物と一緒においしい予感もバッグに詰めたら、島原旅のはじまりはじまり!

■ キュートな車体は幸せの黄色。『しまてつカフェトレイン

車窓から望むのどかな風景や、どこかほっとする親しみやすさが魅力の観光列車『しまてつカフェトレイン』。運行開始以来、鉄道ファンだけでなく多くの観光客にも人気を博しており、毎週土曜日限定で諫早~島原間を結ぶ。夏休み期間となる8月は、土曜日だけでなく日曜日も一部運行。ファミリー層にとって朗報だ。

「あ!きたきた!」

諫早駅のホームに現れたのは、鮮やかな黄色い列車。初めて間近で見る『しまてつカフェトレイン』に、思わずテンションが上がる2人。

2両編成の列車はとってもキュート。島原鉄道のイメージキャラクターで、島原駅の特別駅長を務める全国唯一の鯉駅長『さっちゃん』と助役の金魚たちがプリントされている。プシュっと扉が開くと、はやる心を抑え切れず足早に乗り込む2人。『しまてつカフェトレイン』がいよいよオープン!

■ 社員一丸となって作り上げたアットホームな観光列車

『しまてつカフェトレイン』は、毎日走っている普通列車を運行日に改装。テーブルや所々にあしらわれた花や飾りなども手作りならでは温かみにあふれている。

笑顔が素敵なトレインアテンダントの女性も島原鉄道の社員なのだとか。アットホームな雰囲気もこの列車の魅力にほかならない。

このあたりでまずは特製コーヒーと100円クレープでおなじみの『パオクレープMILK』のクレープミックスフルーツ)でほっとひと息。

「あれ、もう食べちゃったの?」「…え?(笑)」

笑顔を交わす2人の声が、列車のカタンコトンと揺れる音と響きあう。

■ 待望のランチが登場!8月のメインは『雲仙ロコモコ

しばらくすると、車内においしそうな匂いが立ち込めてきた。思わず目を輝かせる2人。

そう、お待ちかねのランチタイムに突入!

ランチメニューは月替わり。島原半島の食材を使ったメニューや、地元の人気店がプロデュースしたメニュー、スイーツなどがそろう。

8月は古部駅そばにある、列車と海が見えるお茶カフェ『ぽっぽや茶葉』特製の『雲仙ロコモコ』。地元産の野菜や卵、雲仙あかね豚のハンバーグなど食材はその土地ならではのものを厳選。旨味がしっかりしたハンバーグとお茶カフェならではの『ほうじ茶ライス』との相性も抜群だ。

また、車窓からの眺めもごちそう。のどかな田園風景や夏の有明海、諫早湾の潮受け堤防。高校サッカーの強豪校として有名な長崎県国見高校の最寄り駅である多比良町駅では、サッカーボール像が立ち、国道沿いにはサッカーボールを模した街灯が目を引く。

「こんなに景色をゆっくり眺めるのって久しぶりかも」

見知らぬ土地の見知らぬ風景。何気ないはずの景色すら、車窓の外を流れると記憶に残る旅の思い出となる。

■ 幸せいっぱいの「しまてつ」。列車は終点・島原駅へ

お腹もいっぱいになった頃、列車は大三東(おおみさき)駅へと到着。ここでしばらくティータイムといこう。

ほうじ茶と一緒に味わうのは、雲仙市のアイスソルベ専門店『アール サンク ファミーユ』のアイスソルベ。色鮮やかなフルーツをふんだんに使った『フルーツミックス』は程よい甘さとフルーツの香りがベストマッチ。

ここ大三東駅は、日本で一番海に近い駅として有名な場所。また、幸せの黄色いハンカチに願い事を書いて祈願できる今話題の“幸せスポット”でもある。

駅と海の間に遮るものはなにもなく、青い空と海、潮風にたなびく黄色いハンカチのコントラストが美しい。

駅のホームには、黄色いハンカチのガチャガチャ(1回300円)が設置してある。願い事や大切な人へのメッセージを書いて、ホームにある所定の場所に掲げよう。

「何お願いする?」「内緒!」

諫早~島原間には、ここ大三東駅以外にも幸(さいわい)駅、愛野駅、吾妻(あづま)駅など、思わず愛を叫んでしまいそうな駅が。特に愛野駅と吾妻駅を繋げると「愛しの吾(わ)が妻」となることから、カップルや夫婦に大人気。幸せを叶えたい、もっと愛を深めたい人はぜひ訪れてみて。

大三東駅の停車時間は45分。その間に車内販売も行われ、ポストカードやキーホルダーなどオリジナルのしまてつグッズを購入できる。明るいスタッフとの会話も楽しもう。

大三東駅を出れば、次は終点島原駅。別れを惜しむように雄大な雲仙普賢岳を眺める2人。10分ほどで島原駅へ到着。気がつけばあっという間の2時間だ。

「しまてつカフェトレイン、まもなく閉店です」

トライアテンダントのアナウンスがちょっと寂しい。でもそんな寂しさを吹き飛ばしてくれたのが、駅のホームで出迎えてくれた鯉駅長の『さっちゃん』。

島原駅の駅長室では、“本物”の『さっちゃん』が勤務中。記念撮影はお忘れなく!

毎月最終土曜(8月は31日)は『しまてつカフェトレイン ジオスイーツ編』も運行する。『雲仙野菜ぷりん」』や『ちぢわロール』、郷土スイーツの『かんざらし』、島原半島のジャガイモを使ったキャラメルジャガメル』、『温泉レモネード』など、島原半島の魅力が詰まった甘い誘惑が盛りだくさん。女性必見のスイーツ列車となっている。また『しまてつカフェトレイン』には、運行日の翌日まで有効の島原駅~諫早駅の片道切符もついているので、1泊してゆっくり島原観光を楽しむのもおすすめだ。

■ 歴史情緒と名水が待つ島原観光へ!

『しまてつカフェトレイン』にはお得に島原観光を楽しめる特典がついていることも見逃せない。なんとチケット呈示で『島原城天守閣』と『湧水庭園 四明荘』に入場できるのだ。これを利用しない手はない。

『島原駅』を出ると、七万石坂というゆるやかな坂道の向こうに堂々とした天守閣がそびえる。この町のシンボル日本100名城の一つに数えられる『島原城』だ。

『島原城』は、松倉重政が1618(元和4)年から着工し、約7年の歳月をかけて築いた城。五層の天守閣を中核に大小の櫓を要所に配した壮麗な城で、島原天草一揆では一揆軍の猛攻をしのいだ堅城でもある。

現在の天守閣は、1964(昭和39)年に復元されたもの。土日祝は「島原城 夜の陣」と銘打ち、暗い城内を懐中電灯片手に見学することができる。普段とは違った『島原城』と出合えそうだ。

城を後にし、夏の涼を求めて新町付近へと向かおう。古くから水の都といわれる島原のなかでも、新町一帯は特に湧き水が豊富なエリア。町のあちこちを流れる水路にはたくさんの鯉が泳いでいる。“鯉の泳ぐまち”と呼ばれる所以だ。

その新町にある『湧水庭園 四明荘』は、豊かな湧き水を利用して造られた住宅庭園。四方を明るく見渡せることから、『四明荘』と名づけられたそうだ。

主屋から望む庭園はまるで絵画のよう。池にせりだすように設えた縁側に腰かけ、蝉の声、小鳥のさえずり、風の音に耳をすます。会話はなくとも、この穏やかなひと時を共有していることが何より心地良い。

晴れの日はもちろん、雨の日も“味”がある。屋敷のひさしから均等間隔で落ちる“雨のれん”も情緒たっぷりだ。

島原城下町の観光を終え、2人は再び島原駅へ。旅はそろそろ終わりを迎える。復路は普通列車諫早駅へと戻る。

「また来るね」

いつかの再会を鯉駅長『さっちゃん』に約束。旅のはじめはおいしい予感で膨らんでいたバッグは、今おみやげと思い出でいっぱいだ。

[島原城] 長崎県島原市城内1-1183-1 / 0957-62-4766 / 9:00~17:30、夜の陣(土日祝限定)18:30~21:30 / 大人540円、小中高生270円 、夜の陣大人700円、小中高生400円 / 無休

[湧水庭園 四明荘]

長崎県島原市新町2 / 0957-63-1121 / 9:00~18:00(最終入園17:30) / 大人300円、小中高生150円 / 無休

[しまてつカフェトレイン]限定70名・事前予約制【諫早~島原】8月度運行日:8/3(土)、4(日)、10(土)、11(日)、12(祝)、24(土)、25日(日) / 大人(13歳以上)5000円、小学生3000円、未就学児1000円(専用メニューあり) / 10:50までに諫早駅島原鉄道のりば集合

[しまてつカフェトレイン ジオスイーツ編]限定70名・事前予約制【諫早~島原】8月度運行日:8/31(土) / 大人(13歳以上)5000円、小学生3000円、未就学児1000円(専用メニューあり) / 12:50までに諫早駅島原鉄道のりば集合

【九州ウォーカー編集部/文=前田健志(パンフィールド)/撮影=鍋田広一(パンフィールド)/提供=島原鉄道株式会社】(九州ウォーカー前田健志)

かわいい『しまてつカフェトレイン』をバックに「いってきまーす」