(数多 久遠:小説家・軍事評論家)

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 7月25日、北朝鮮が再び弾道ミサイルを発射しました。北朝鮮は5月に、ロシアのイスカンデル短距離弾道ミサイルに類似した“イスカンデルもどき”のミサイルを発射しており、7月25日に発射されたのは、それと同じである可能性が高いとみられます。韓国軍の発表では600キロメートル飛行したとされ(当初は690キロメートルと発表)、新型あるいは“イスカンデルもどき”改造型の可能性も考えられます。

 なお、7月31日に発射されたと報じられた飛翔体は、北朝鮮の朝鮮中央放送によると新型の多連装ロケットだった模様であり、イスカンデルもどきとは明らかに別のものです。

 7月25日のイスカンデルもどき、正式には「KN-23」と呼ばれるミサイルの発射に対して、防衛省は、領海や排他的経済水域(EEZ)に到達していないことから、「我が国の安全保障にただちに影響を与えるようなものではない」とコメントしました。そして発射から4日後の7月29日になって、岩屋防衛大臣がようやく「わが国の国防という観点から言えば脅威に違いない」と非難しました。

 しかし、長らく弾道ミサイル防衛に関わってきた者の目から見ると、このコメントは、オブラートが厚すぎます。確かにただちに脅威とは言えないものの、このイスカンデルもどきは、我が国の弾道ミサイル防衛に重大な難題を突き付けるものなのです。

 それは、単に最大射程で撃てば我が国にも届くというレベルに留まりません。その難題とは、北朝鮮がこのイスカンデルもどきと関連技術の開発を進めた場合、「日本政府はイージスアショアの配備を急ぐべき」と考えられる一方で、「イージスアショアの配備を見直すべき」とも考えられ、この難題が二律背反であるということなのです。

 以下、北朝鮮が開発を進める“イスカンデルもどき”ミサイルに焦点を当てて、日本が対応を検討する際に直面する二律背反の命題を検証してみます。

発射前の破壊は極めて困難

 まず、このイスカンデルもどきが「イージスアショアの配備を急ぐべき」という結論を導き出す理由について検証します。

 このイスカンデルもどきは「ディプレスト弾道」と呼ばれる、野球で言うライナーのような低い弾道(最大射高50キロ)で発射されました。このミサイルを、角度45度程度の最も遠距離まで到達させることのできる弾道(最小エネルギー弾道)で発射した場合、射程は800キロ以上となる可能性があります。この射程だと、北朝鮮南部から撃てば、東京には到達できないものの、西日本の広い範囲を収めることが可能です。

 さらに韓国軍の当初発表のとおり、690キロメートル飛翔したのであれば、最小エネルギー弾道で飛翔させた場合には、最大射程は1000キロメートルにもなり、日本にとって大きな脅威であるノドンミサイルと変わらない飛翔性能を持っていることになります。

 その上、イスカンデルは、従来北朝鮮が保有していた弾道ミサイルと異なり、燃料が扱い難い液体ではなく固体燃料です。また制御システムも自動化された最新のものであるため、発射準備にかかる時間が極めて短くなっています。このため、ノドンミサイルの場合と異なり、日本政府が策源地(後方基地)攻撃を行い、このイスカンデルもどきをミサイルの発射前に破壊しようと考えても、その実行は極めて難しいのです。

 グローバルホークを用いて北朝鮮を常時監視したとしても、ミサイルの運搬、発射を行うTELと呼ばれる車両は小型で、発見すること自体が困難です。たとえ、発見できたとしても、発射までの時間的猶予は短時間であるため、F-35を装備し、北朝鮮の防空網をかいくぐれるとしても、発射前に破壊可能であるとは考え難いのです。

 そのため、このイスカンデルもどきが大量に配備され、最大射程となる最小エネルギー弾道で日本を攻撃する可能性を警戒しなければならない場合、対抗手段はイージスSM-3ミサイルによる迎撃しかありません。

 北朝鮮が公開した写真などを見ると、発射車両は試験用の簡易なものではないため、このイスカンデルもどきは、おそらくすでに大量生産体制に入っているでしょう。このことを考慮すれば、イージスアショアの配備は急務と言えます。

ディプレスト弾道のミサイルは迎撃できない

 次に、このイスカンデルもどきが「イージスアショアの配備を見直すべき」との結論を導く理由について説明します。

 イスカンデルもどきの特徴は、基本的に「ディプレスト弾道」で使用されるミサイルである点です。

 元祖イスカンデルは、ソ連がINF条約の成立を機に開発したと言われています。1990年に起きた湾岸戦争において、米軍のパトリオットPAC-2ミサイルが、イスカンデルと射程が同規模のスカッドを、確率は低いながらも撃墜しました。ソ連はこのことから最小エネルギー弾道で飛翔する短距離弾道ミサイルは迎撃されてしまう可能性があるということを念頭に置き、迎撃が困難なディプレスト弾道で飛翔するミサイルを開発した経緯があります。

 ディプレスト弾道を取ることにより迎撃を回避する手法は、パトリオットに対しては、その後にPAC-3が開発配備されていることもあって回避能力は一定に留まりますが、イージスに対しては完璧、100%回避できるのです。

 イージスSM-3ミサイルは、終末期の誘導が赤外画像誘導であり、大気による熱が終末誘導を阻害するため、最低迎撃高度が70キロとなっています。つまり、常に70キロメートル以下の高度で飛翔するディプレスト弾道のミサイルは、どうあっても迎撃できません。当然、今回発射されたイスカンデルもどきに対しても、イージスSM-3ミサイルは無力です。

 イスカンデルもどきの射程が600キロだとすると、山陰地方の日本海岸付近など、日本の極めて一部にしか到達しません。しかし、北朝鮮は、イージスSM-3による迎撃網を突破するために、ディプレスト弾道が有効であることをしっかりと認識しています。だからこそイスカンデルもどきの開発と発射実験を行っているのです。

「ムスダン」改造でイージスを無力化?

 今後、北朝鮮は、高度70キロ以下を維持することでイージスでの迎撃を回避しながら、日本に到達可能なミサイルの開発を行うでしょう。

 しかも、これはそれほど難しくない可能性があります。北朝鮮は、そのために必要な飛翔性能を持つミサイルを既に保有しているからです。そのミサイルにイスカンデルもどきの開発で培った制御技術を盛り込み、後述する問題を解決することができれば、すぐにでも開発が可能と見込まれます。

 そのミサイルとは、北朝鮮がグアムを攻撃するために保有していると見られている「ムスダン」ミサイルです。

 次の図は、4年以上前に筆者が別のメディアで執筆した、ムスダンを使用し、ディプレスト弾道で日本を攻撃するシミュレーションです。この図は、沖縄の嘉手納基地を攻撃するシミュレーションですが、ほぼ同距離の東京に対しても、ほぼこの図のとおりの飛翔で攻撃が可能です。このシミュレーションでの最大高度は約55キロとなっており、今回のイスカンデルもどきの飛翔とほぼ同等です。

 制御技術については、イスカンデルもどきとほぼ同等でしょう。改造を行えば、北朝鮮が現在保有している技術で可能だと思われます。

 課題があるとすれば、それは熱と構造耐力です。

 イスカンデルもどきの飛翔速度は、マッハ10に満たない速度ですが、ムスダンはマッハ20にも及ぶ速度で飛翔します。ムスダンを最小エネルギー弾道で飛翔させた場合は、この高速で大気圏内を飛ぶ時間は、着弾直前の極めて短い時間、数秒に過ぎません。しかし、ディプレスト弾道で飛翔させた場合は、飛翔中のほとんどの時間を非常な高熱にさらされることとなります。この高速飛行による高熱は、空気の摩擦熱だと言われることがよくありますが、実際には中学で習う断熱圧縮によるものです。そのため発熱自体を抑えることは不可能です。ミサイルを高熱に耐える素材で作るしかないのです。

 ちなみに、ロシアや中国が進めている、このディプレスト弾道による弾道ミサイル迎撃を回避する方法よりもさらに一歩進んだ極超音速滑空飛翔体でも、最大の技術課題はこの耐熱性能だと思われます。

 また、空気抵抗による激しい震動と強い応力にも、現在配備されているムスダンでは耐えられない可能性があります。同様の事例として、湾岸戦争において、イラクが急造したアルフセインミサイルが、大気圏への再突入後に応力に耐えきれず空中分解した例があります。そのための構造耐力の強化にも、高度な素材が必要となるでしょう。

 これらの課題さえクリアすれば、北朝鮮はムスダンの改造により、イージスSM-3による弾道ミサイル迎撃を無力化できるのです。これが、イージスアショアの配備を見直すべきと考える理由です。

イスカンデルもどきの開発を助けた国は?

 では、日本は、この二律背反となる命題にどのような答えを出すべきでしょうか? 策源地攻撃での破壊が困難なイスカンデルもどきに対して、イージスアショアの配備を急ぐべきか、はたまた、イスカンデルもどきの技術を転用した弾道ミサイル防衛網を突破するミサイルの出現を予期してイージスアショアの配備を見直すべきでしょうか?

 答えの鍵は、上記の技術課題、耐熱と構造耐力の強化がいつ可能になるのかにかかっていると思われます。残念ながら、その時期を明確に占う方法はありません。しかし、その要素から考察し、今、何をなすべきかを考えることは可能です。

 その要素とは、イスカンデルもどきの開発を誰が助けたのか、という問題です。

 もちろん、誰の助けも借りず、北朝鮮が独自に開発したという可能性もあります。しかし、私がここで“もどき”と書くように、その外形はロシアのイスカンデルに酷似しています。北朝鮮オリジナルと考えることは困難です。

 つまり、第1の可能性は、ロシアです。

 イスカンデルは、ソ連が開発し、現在はロシアが製造運用しています。当然、ロシアは北朝鮮にイスカンデルに関する技術支援が可能ですし、他のミサイル開発でも、ロシアが協力したと思われる情報が多数あります。耐熱、高耐力構造材についても、極超音速滑空飛翔体の開発を進めているロシアは、十分な能力を持っているでしょう。ロシアが北朝鮮を支援しているのであれば、対ロ制裁をより強化することで、北朝鮮への支援を牽制しなければなりません。なお、イスカンデルは、ベラルーシやシリアが導入を検討したことがありますが、実際に売り渡されてはおらず、これらの国が協力した可能性は低いと思われます。

 そして、ロシア以上に問題なのが、第2の可能性です。それは、なんと韓国です。

 上記のように、イスカンデルは外国に売り渡されてはいません。ですが、イスカンデルもどきと呼ぶべきコピー兵器は、北朝鮮よりも先に韓国が開発しているのです。韓国が保有している玄武-2ミサイルは、韓国の国家情報院がスパイ行為を行い、ロシアから盗み出したイスカンデルの部品をリバースエンジニアリングして開発したものだと見られています。韓国は北朝鮮よりも先に玄武-2としてイスカンデルもどきを開発、配備していたのですから、支援を行おうと考えれば当然可能です。

 文在寅が大統領に就いたのは2017年5月ですが、ここから支援を開始したのだとすれば、ちょうど2年が経過した今年(2019年)5月に北朝鮮製イスカンデルもどきが発射されたことになります。時期的にも符合します。

日本の素材が使われる可能性も

 ムスダンをディプレスト弾道ミサイル化するのには、イスカンデルもどきよりも高度な耐熱、高耐力構造材を必要とするでしょう。

 韓国は、電子製品などでは高度な技術を持っていますが、素材技術に関してはまだまだです。玄武-2や北朝鮮製イスカンデルもどきには、韓国が日本から輸入した耐熱素材などが使用された可能性も考えられます。弾道ミサイルと同様に極めて高速で飛翔する弾道ミサイル迎撃ミサイルであるイージスSM-3(ブロックIIA)は、高温にさらされる先端部のノーズコーン部を、軽量な素材を使って日本が製造しています。

 北朝鮮製イスカンデルもどきでさえ、日本の製品が韓国を経由して使用されている可能性があります。その上、今後、日本が世界に誇る素材技術を使って、日本に到達可能なディプレスト弾道でのミサイルが製造される可能性が考えられる以上、日本は半導体関連だけでなく、こうした素材についても輸出管理を厳格化し、北朝鮮の弾道ミサイル開発を助ける結果とならないようにする必要があるでしょう。

 日本政府は、当然こうしたことも考慮し、関連情報を収集していると思われます。そして、その上で、イージスアショアについても検討を進めていることでしょう。状況によっては、大きく政策が変更される可能性があるかもしれません。

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北朝鮮が短距離弾道ミサイル発射したことを伝える韓国のテレビニュース(2019年7月25日、写真:AP/アフロ)