好きな女子の体操着を盗んでしまった中学2年生の春日高男(かすが・たかお)は、それを見ていた同級生の女のコ・仲村佐和(なかむら・さわ)から“契約”を迫られ、次々と変態的な行為に手を染めていく……。

こんな背徳的な内容が話題を呼び、今月からアニメスタートすることになったマンガ惡の華』。作者の押見修造は、思春期のモヤモヤや“こじらせ”を徹底的に描ききる「青春マンガの名手」として、今、注目を浴びている。そんな彼に、自身の青春時代や、『惡の華』の“元ネタ”まで聞いた。

■彼女に「作文」を書かされて

―『惡の華』の主人公・春日くんは、いつも教室で難しい本を読んで自分の殻に閉じこもっている少年ですが、押見先生自身も似たような中学生だったとか?

押見 そうですね。僕の場合は、中1のときに父親からルドン(フランスの画家)の絵や、萩原朔太郎(はぎはら・さくたろうロマン主義的な作風で知られる詩人)の詩を教えられて、それまで知っていた世界がガラガラガラッと崩れてしまう“自意識ビッグバン”が起こったんです。

それからは、教室でずっと『ドグラ・マグラ』(夢野久作[ゆめの・きゅうさく]の怪奇小説。日本三大奇書に数えられる)を読んだり、家にあった『ガロ』(1964年創刊の伝説的サブカルマンガ誌)のバックナンバーを読みあさったりしていました。周りの友達からも「押見の様子がなんかヘンだ」と思われだして、だんだん話も合わなくなり……。ただ、本のカバーの上にわざわざ自分でその本の題名を書いて、「俺はこんな作品を読んでいるんだぞ」って周りにアピールだけはしていましたけど(笑)

―「俺はほかのヤツとは違う」という意識はあったんですか?

押見 はっきり言ってしまえば、「みんなバカだ」と思ってました。高校生の頃なんか、2年の修学旅行まで誰とも話さなかったですから。ただ、その修学旅行の夜に、『犬神博士』(実際の事件を元にした夢野久作の小説)のエピソードアレンジした怪談を話したら、けっこう盛り上がりまして、少し話せる友達ができたっていう“イイ話”もあるんですが(笑)

―ちゃんと他人と関われるようになったのは、いつ頃ですか?

押見 上京して大学に入ってからですね。地元にいた頃と違って、サブカルな話をする友達もできたし、なんといっても初めてちゃんとした彼女ができたことが大きかった。彼女も少し変わった人で、『14歳フォーティーン)』(漫画家楳図かずおの代表作)が読みたいって言って僕の家に来たのがきっかけです。それまで僕は、「こんなサブカルなものを知ってる自分は偉い」と思っていたんですが、彼女から「おまえ、恥ずかしいな」と言われて。

―強烈ですね。

押見 まぁ、それは僕が般若心経プリントされたTシャツを着ていたから言われたんですけどね(笑)。僕と違って、サブカルメジャーも分け隔(へだ)てなく接していた彼女と出会って、それまで自分が抱いていた自意識や他人をバカにする気持ちがすべて壊されました。その彼女が今の妻です。

―『惡の華』のヒロインモデルは、お知り合いだとか?

押見 実は『惡の華』の仲村さんって、妻がモデルなんです。仲村さんは他人やこの世界に対して「クソムシ」と毒づきますが、あれはケンカしたときに、妻から送られてきたメールに書いてあったことで。ほかにもすごい長文で「おまえはクズだ」「クズ鉄だ」って罵倒してくる。サービス精神のない“ドS”というか(苦笑)。でも、自分がなぜこんなに人を怒らせているのかを考えなきゃいけないから、そこで初めて他人と関わることができた気がします。仲村さんが春日くんに「作文を書いてこい」と命令するシーンがありますけど、これも実際に妻から言われたことです。

―作文とは、またどうして?

押見 実は、中学のときに少しだけ付き合っていた女のコがいたんです。特に何をするでもない、子供の付き合いだったんですけど、僕は大学に入って初めてできた彼女に対して「自分のすべてを知ってほしい」みたいな思考が働いちゃって、聞かれてもいないのにそのコのことをネチネチ言ってたんですね。そうしたら、彼女がキレて「おまえはなんなんだ。セックスもしてない元カノのことをいつまでもダラダラ言いやがって。おまえがいかに間違った人生を送ってきたか、一回ノートに全部書け」と。

―それで、書いたんですか?

押見 書きました。キャンパスノートに半分くらい、びっしり(笑)。でも、それで自分を客観視できるようになったし、初めてちゃんと自分と向かい合うことができた。今、こうして自分の過去を思い出しながらマンガを描いていますが、そうした創作の練習をさせてもらったみたいなところもありますね。妻からは「おまえは私がいなかったらマンガなんて描けていないんだからな。今頃野垂れ死にしていたはずなんだから、感謝しろよ」と言われてますけど(笑)

■自分は加藤智大と同じだと思った

―押見先生は大学に入ってからマンガを描き始めたそうですが、それによって救われた部分はあるんでしょうか?

押見 うーん。マンガはもちろんなんですけど、やっぱり東京に出てきて、新しい友達や妻に出会えたことが大きいでしょうね。僕、(秋葉原通り魔事件を起こした)加藤智大(ともひろ)と同じような経験があるんです。彼は中学のとき、好きな女のコがいたそうなんですが、彼の母親が介入してきて「うちのコは勉強で忙しいから、あなたとは付き合えません」って引き離したそうなんです。僕も、中学の頃に少し付き合っていたその彼女と、同じように別れさせられた。そして、それに反抗できなかった自分にもジレンマを感じていた。あのまま地元に住んでいたら、ダークサイドに落ちて、親を殺していてもおかしくないなって思います。

―それはものすごくドロドロしていますね……。

押見 でも、そういう思春期の感情って、すごく普遍的なものだと思うんです。『惡の華』は、変態マンガと言われることもありますし、それがきっかけで読んでいただくのはうれしいんですが、最終的には春日くんが思春期をくぐり抜けて成長する“青春マンガ”にしたいと思って描いています。

―思春期から抜け出せず、大人になっても“こじらせ”ている人もたくさんいます。

押見 そうですよね。僕は、居場所のなかった中高生時代のことをこのマンガで描くことによって、大人になってからやっと今の場所を見つけることができた。同じように、つらい学生時代を過ごしたという経験のある方に『惡の華』を読んでもらえれば、きっと「自分のことが描かれている」と感じてもらえるんじゃないかなと思います。

それから、逆にすごく楽しい学生時代を送ったという人でも、社会に出て自分の居場所を失ったように感じてる方っていると思うんです。誰だって、一生のうちに必ず、居場所がなくなってしまうときが来る。僕は、思春期の人間に限らず、誰でもいつかは持ち得るそんなときの感情を描いているつもりなので、たった今“こじらせ”ているような大人の読者にも読んでほしいです。

―とても説得力のある話だと思います。本日はありがとうございました

押見 あっ、そうだ。仲村さんの顔って、実は週プレによく出てた仲村みうさんモデルなんです。週プレさんから取材を受けたら、これを必ず言おうと思ってたんですよ(笑)

(取材・文/西中賢治 撮影/髙橋定敬)

●押見修造(おしみ・しゅうぞう)



1981年生まれ、群馬県出身。2003年、『別冊ヤングマガジン』(講談社)掲載の『スーパーフライ』でデビュー。代表作に『デビルエクスタシー』『ユウタイノヴァ』(ともに講談社)、『漂流ネットカフェ』(双葉社)など

■『惡の華



押見修造の最高傑作がついにアニメ化。本作では実在の風景や人物を撮影、それをもとに作画を行なう「ロトスコープ」という技法を採用。リアルで痛々しい“青春アニメ”が生まれた。TOKYO MXほかで放送中

青春の“ヒリヒリ”を描く名手、押見修造先生が自らの思春期を明かす!