『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、トランプ政権の対北朝鮮交渉について語る。

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米トランプ政権は北朝鮮の核の完全廃棄ではなく、核・ミサイル開発の「凍結」で折り合いをつけようとしている――。米ニュースサイト『AXIOS(アクシオス)』が米朝協議の"裏側"をすっぱ抜いた記事が物議を醸しています。

米政府のスティーブビーガン北朝鮮政策特別代表が政府専用機内で語ったオフレコ話のリークを元にした内容で、ビーガン本人は後に否定したものの、どうやら本当にそう言ったらしいとの後追い報道も出ています。

この話が現実となるなら、北朝鮮ウラン濃縮活動などを停止しさえすれば、米側はすでに保有している核・ミサイルの完全廃棄は求めない。言い換えれば、北朝鮮を事実上の核保有国として認めることになります。

実はアメリカのリベラル派や、元CIA幹部など一部の専門家の間にも、この方向性を支持する声が少なからずある。特に、北朝鮮で実際に人道支援などの活動をしたことのある人々ほど強くそう主張する傾向にあります。

北朝鮮は核を完全廃棄するつもりはなく、それを条件としている限り、朝鮮戦争は終結しない。このままでは飢餓に苦しむ女性や子供など、北朝鮮の弱い立場にいる人たちを救うことができない――と。

確かに、それも一理あります。しかし、この「凍結シナリオ」を、中国やロシアも以前から盛んに主張してきたこともまた事実です。

もし「凍結」で済むなら、北朝鮮はそれと引き換えにICBM(大陸間弾道ミサイル)の開発をやめ、米本土に対する核攻撃のオプションを破棄するでしょう。

その一方で、現在米軍基地が置かれている日本を射程に収めるミサイルは保持し続けるはずです。ここまでは常識的に考えればわかる話ですね。

問題はこの先です。日米安保を含む東アジアでの影響力維持を"負担"と考えるトランプ大統領からすれば、アメリカに火の粉が飛ばないなら、たとえ日本や韓国にミサイル危機が残っても「そんなの自分でなんとかしろ」というのが本音でしょう。

それより、形だけでも朝鮮戦争を終結させたという実績や、中国との貿易交渉の進展という"実利"を取りにいく可能性は十分にあります。

一方、北朝鮮はほかの核保有国と同様に、"核を突きつけた外交交渉"を基本路線とするでしょう。日本に対しても、過去の戦争における賠償の話や経済援助の話など、相当強気に迫ってくるはずです。

問題は、米メディアの報道を見ても、トランプ本人の言動を見ても、まるでやじろべえのように奇妙に均衡した東アジアの微妙なパワーバランスをアメリカが本当に理解しているとは考えづらいということです。

仮にアメリカが北朝鮮への敵対政策を解いたとして、それで人道的・政治的な"正しい道"が開け、朝鮮半島に平和が訪れるかといえばかなり疑わしい。

金正恩キム・ジョンウン)体制が飢えた人民に"分け前"を本当に届けるのか? 韓国がそういったことを本当に厳しく監視できるのか? クエスチョンマークはいくつも浮かびます。 

そして、北朝鮮が「核保有国」となることを、日本国内では急進的な改憲派や核保有論者が利用しようとするでしょう。それが現実となってから急に議論を始めてもパニックになるだけです。今からさまざまなシナリオを想定し、タブーなき議論が広く行なわれることを期待します。

モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。日テレ系情報番組『スッキリ』の木曜コメンテーター。ほかに『報道ランナー』(関西テレビ)、『水曜日のニュース・ロバートソン』(BSスカパー!)などレギュラー多数。本連載を大幅に加筆・再構成した書籍『挑発的ニッポン革命論 煽動の時代を生き抜け』(集英社)が好評発売中!

「仮にアメリカが北朝鮮への敵対政策を解いたとして、それで人道的・政治的な"正しい道"が開け、朝鮮半島に平和が訪れるかといえばかなり疑わしい」と語るモーリー氏