上野樹里演じる新米法医学者・万木朝顔と、時任三郎演じる刑事の父・平が遺体に残された謎を解き明かしていく月9ドラマ「監察医 朝顔」(毎週月曜夜9:00-9:54、フジテレビ系)。WEBサイトザテレビジョンでは、演出を務める平野眞氏に、本作に対する思いやこだわりなどをインタビュー。さらに、上野が出演していたドラマ「エンジン」(2005年、フジテレビ系)にも演出として携わった平野氏から、上野の印象や成長、変化についても話を聞いた。

【写真を見る】真摯(しんし)に遺体と向き合う朝顔(上野樹里)

■ 「決してふざけて作ってはいけない」

――「監察医 朝顔」はどのような思いで作られている作品ですか?

東日本大震災を扱っているドラマなので、決してふざけて作ってはいけないと思っています。一切ふざけず、真面目に真摯(しんし)に取り組もうというのが、俳優もスタッフも共通の認識です。

――原作との相違点が多いですが、どうしてこのような変化が生まれたのですか?

東日本大震災を描くということをベースに考え、扱う事件やキャラクターを変化させました。特に第1話と第2話は、「震災で母の遺体が見つかっていない朝顔が、この事件で思うことはどういうことなんだろう?」という事件を取り入れました。

■ 「食べるって人間がおろそかにしてはいけない部分」

――朝顔と桑原(風間俊介)の恋の展開はとてもスピードが速いですね。

確かに展開は早いんですが、なんの嫌らしさも感じないですよね(笑)。恋愛面を細かく描写するドラマもありますが、この作品ではすがすがしいカップルを描こうと思っているので、ちょっとしたスキンシップで表現しています。

第2話(7月15日放送)で桑原が朝顔に触れたり、抱きついたりするシーンがありましたが、いやらしさなく、相手のことを思いやる2人が表現できていると思います。

――朝顔と平が食事をするシーンが印象的ですが、なぜ必ず描かれているのですか?

陸前高田市議会議員の福田利喜さんに話を聞いた時に、震災後最初に何を食べたか質問したら、「おにぎりを食べた。うまかった」っておっしゃっていたんです。それを聞いて、食べる部分を表現しようと思ったんです。

食べるって人間がおろそかにしてはいけない部分だと思うので、意識して撮影しています。役者たちにも「ちゃんと食べて!」と伝えていて。口の中に入っていても、飲み込んでから喋ればいいと思うんです。聞き取りづらかったら、聞き返せばいい。それが日常だと思っています。

――2人が食べているメニューはどのように決めていますか?

僕が決めてます。朝顔と平が一緒に食べるときもあるけど、それぞれが一人のこともあるので、その人が何を食べたらシーンに合うかを考えてメニューを決めています。

第2話の最後で平がカレーを食べているんですが、「最初にスプーンですくう時は、がっつり多めにいってください」ってお願いしたんです。

そしたら食べきれなかったんだけど、あれは時任さんの計算だったんじゃないかなぁ。拭いたりするしぐさが、桑原と付き合っていることに反対している中でも、ちょっと舞い上がっている雰囲気が表現できていて。なので、「時任三郎すごいな」って思いました(笑)。

■ 「無駄な演出をやめ、丁寧に描くこと」

――この作品では震災だけでなく、刑事・法医学者として事件に関わったり、朝顔と桑原の恋が描かれたりと、要素が多い印象ですが、工夫などはされていますか?

1つだけ「カメラが演出しない」ということにこだわっています。固定カメラのみで撮影しているので、カメラが動いての演出が一切ないんです。

その中で、視聴者の方がキャラクターの感情を読み取れるようにお芝居をしてもらうのをメインにしています。カメラが動いちゃうと主張し過ぎちゃって、このドラマには向いていないと思って、ここにこだわっています。

これをやっていることで、訴えたいことがお芝居のみになるんです。お芝居が表現できていれば、訴えられると思っています。

初めから考えていたこだわりなので、どんな場面であれ、そのシーンの言いたいことを伝えられる力のある役者さんがそろっていますね。

――“月9”という枠のイメージと比較すると、テンポが穏やかな作品ですね。

この間ネットに「こんなにゆっくりな刑事ドラマ初めて見た」って書いてありました(笑)。確かにゆっくりですね。

でも、そのイメージは逆行してもいいと思ったんです。“スピード感”も演出の一種なのかなって思って。無駄な演出をやめることが、震災を丁寧に描くことにつながっていると思います。

亡くなった方やご遺体を扱うので、見ている方の中には「こういう場面経験したことがある」という人も多いと思うので、すべてのシーンでふざけてはいけないと思います。

■ 当時から「すごく頼ってました(笑)」

――「エンジン」の撮影から約14年たっていますが、上野樹里さんの演技に変化は感じられましたか?

「エンジン」の時は、主演の木村拓哉さんに突っかかっていく子どもたちの代表みたいな役だったから、上野樹里さんを撮っていれば子どもたちが伝えたいことを代表できていたんです。なので、すごく頼ってました(笑)。

別の子の事件でも、上野樹里さんと台本を元にすり合わせをしていましたね。彼女は覚えているか分からないけど…。何かを表現したい時は、必ず彼女のリアクションは撮っておこうって思っていました。

最初にお会いした時は、「こんなに若いのに、セリフの言葉の語尾まで、言い方のパターンを考えられるのはすごいなぁ」という印象を持ちました。

もしかしたら、あの当時はセリフが少なかったからこそ、そういうふうに取り組んだのかもしれないけど、今もそこは変わっていないですね。

印象はあの当時のままですが、すごく頼りにしていたのを思い出しました(笑)。

――震災のシーンでは、山口智子さんの役柄が特に印象的ですね。

山口智子さんが演じる茶子は、衣装や部屋が少し遊んでいますよね。正直「どこまでやって大丈夫なのかな」って思ってたんです。

でも震災のシーンの山口智子さんのパワーがすごかったんです。人を思いやる気持ちや、「助けたい」という感情をきちんと表現できていて。

震災のシーンの中でも山口智子さんのセリフは、相手を励ますということと、遺体に対して敬意を持って接するという思いが含まれているんです。

そんな中、こんなに振り幅が広い表現をできる方はいないです。芯がある人ですね。

あと、アイデアマンなんです。イヤリングがカツ丼だったりスイカだったり、毎回変えているんです。本当は衣装のつながりとか考えているんですが、これに関しては気にしなくていいと思ってます(笑)。

――「監察医 朝顔」を通して、伝えたいことを教えてください。

もちろん震災を忘れないという気持ちも大きいです。ただ、「震災」だけでなく、みんなそれぞれに背負っているものがあるので、いろいろな思いをしっかりと受け止めて、前を向いて生きていってほしいと思っています。見終わった後、過去も未来も大切にしたいと思っていただける、そんなドラマにしたいですね。(ザテレビジョン

「監察医 朝顔」で演出を務める平野眞氏