坂本勇、亀井…G戦士の争い 決め手はwRAA

 オールスターまでの巨人独走状態から一転、混戦となった7月のセ・リーグ。7月の月間成績は以下の通り。

DeNA 15勝8敗 打率.257 OPS.722 本塁打24 防御率3.25
巨人 13勝10敗 打率.285 OPS.794 本塁打27 防御率4.02
広島 11勝12敗 打率.253 OPS.743 本塁打27 防御率3.92
中日 10勝13敗 打率.274 OPS.691 本塁打11 防御率4.14
阪神 9勝12敗 打率.254 OPS.655 本塁打14 防御率3.66
ヤクルト 9勝12敗 打率.240 OPS.686 本塁打18 防御率4.65

 7月もDeNAの勢いが止まらず、月間勝率.652のハイアベレージで首位巨人に肉薄。広島は7月前半に9連敗を喫するものの、後半戦に9連勝で相殺するというダイナミックな展開を繰り広げました。巨人は前半8勝1敗と独走態勢に入ろうとしたものの、後半に4連敗を2度喫するなど大失速。7月16日時点で2位に10.5ゲーム差をつけていましたが、8月4日時点で1位から5位までが9ゲーム差に詰まりました。

 そんなセ・リーグの月間MVP8月7日に発表されます。野手の候補は10人で、中でも有力選手はこの3人になるでしょう。

亀井善行(巨人)
打率.404 36安打 本塁打4 打点16 得点圏打率.417 四死球4 三振12

坂本勇人(巨人)
打率.355 33安打 本塁打7 打点20 得点圏打率.345 四死球14 三振16

鈴木誠也(広島)
打率.360 32安打 本塁打4 打点12 得点圏打率.261 四死球7 三振11

 月間MVPの選出基準は原則、NPB公式記録が用いられます。最多安打かつ月間打率が唯一の4割超え、得点圏打率も4割を超え、月間5度の猛打賞という成績が評価され、公式の月間MVPの最有力候補は亀井となりそうです。

 ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わないので、個人の選手がどれだけチームに貢献したかを示す指標による評価は、公式のMVPとは異なることもあるはずです。

 そこで、セイバーメトリクスの指標による7月の月間MVP選出を試みます。

7月月間MVP セ・リーグ打者部門

坂本勇人(巨人)
wOBA 0.458 wRAA12.20 RC27 10.72 出塁率.444
(すべてリーグ1位)

 セイバーメトリクスの指標による評価は以下の通り。

亀井善行
OPS1.072 出塁率.432 長打率.640 wOBA.457 wRAA10.76 RC27 10.16

坂本勇人
OPS1.068 出塁率.444 長打率.624 wOBA.458 wRAA12.20 RC27 10.72

鈴木誠也
OPS1.020 出塁率.424 長打率.596 wOBA.439 wRAA9.62 RC27 8.81

 出塁率長打率を足して評価するOPSでは亀井が上位ですが、各プレーの得点価値を累積して算出するwOBA、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりもどれだけその選手が得点を増やしたかを示すwRAA、選手の得点創出能力を測るRC27といったセイバーメトリクスの指標によると、坂本勇が月間1位となります。亀井も坂本勇も23試合中20試合で安打を放ち、22試合で出塁する活躍でしたが、打席数が反映されるwRAAにおいて坂本勇の数値が高くなり、より貢献度が高いということで7月の月間MVPに推挙します。

 気の早い話ですが、坂本勇は8月4日現在で通算1835安打。今年は1試合あたり1.265安打を放っているので、このペースならシーズン終了時には1892安打に達する。通算2000安打まで残り108安打となり、このペースでいけば来季の85試合目での達成が期待できます。ただ、榎本が持つ「最年少2000安打」の記録を更新するには、東京オリンピックによるリーグ戦休止前に達成しなければなりません。85試合目が休止前にやって来るのかどうか微妙なところですが、雨による中止が少なく、着実に打席数を重ねていけば、記録更新もあるでしょう。

投球回数少ないが、RSAA抜群の高橋遥

7月月間MVP セ・リーグ投手部門

高橋遥人(阪神)
登板3 1勝0敗 FIP1.69 RSAA4.65 K/BB3.57 防御率1.77 WHIP1.18 奪三振率11.07 QS率66.7%

 公式の月間MVP候補の有力選手は以下の3人と考えられます。

クリス・ジョンソン(広島)
登板5 2勝2敗 完封1 防御率1.74 奪三振26 奪三振率 7.55 被打率.198

山口俊(巨人)
登板4 3勝0敗 防御率4.25 奪三振37 奪三振率11.22 被打率.193

浜口遥大(DeNA
登板5 2勝0敗 防御率1.84 奪三振25 奪三振率7.67 被打率.184

 勝利数と奪三振の成績で見れば、山口俊が優位。ただ、防御率4点台がどう評価されるか。防御率1点台はジョンソンと浜口ですが、2勝負けなしで被打率リーグ1位、月間首位のDeNA所属ということもあり、浜口の方が有力であるとの見方もあります。しかし、高橋の成績も上記の3人と比較して遜色はありません。

高橋遥人
登板3 1勝0敗 防御率1.77 奪三振25 奪三振率11.07 被打率.230

 なぜ高橋遥が公式月間MVPの有力候補から外れているかというと、月間の規定投球回数(22イニング)に達していないから。ですが、その貢献度をセイバーメトリクスの観点で評価すると、前述の3選手に引けを取らない好成績であることが分かります

高橋遥人 FIP1.69 WHIP1.18 QS率66.7% HQS率66.7% K/BB3.57 RSAA4.65 被本塁打0

クリス・ジョンソン FIP2.96 WHIP0.94 QS率80% HQS率40% K/BB3.71 RSAA2.73 被本塁打2

山口俊 FIP3.19 WHIP0.94 QS率50% HQS率25% K/BB5.29 RSAA1.86 被本塁打4

浜口遥大 FIP3.63 WHIP1.06 QS率60% HQS率20% K/BB1.92 RSAA0.39 被本塁打2

 高橋遥は被本塁打、与四死球、奪三振のみで投手を評価するFIPリーグ1位に匹敵する数値。6イニング以上で自責点3以内に抑えた割合を示すクオリティスタート(QS)率は66.7%でジョンソンの80%を下回っているが、7イニング以上登板で自責点2以内に抑えた割合を示すハイクオリティスタート(HQS)率では高橋遥の方が上になります。

 つまりQSを達成した試合は全てHQSを達成している。そして(リーグ平均FIP-選手個人のFIP)×投球回数/9という計算式によって、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標RSAAにおいて、高橋遥はリーグ1位になります。RSAAは投球回数に依存しており、投球回数が少なければ不利になりますが、高橋遥のRSAAはそれを凌駕する。よって高橋遥を7月の月間MVPに推挙します。

 入団2年目の今季、開幕当初は2軍でしたが5月5日の今季初登板からここまで先発ローテーションの一角を担っています。左腕で最速152キロの直球を投じ、ツーシームカットボールを駆使して三振の山を築いている。ちなみに、7月の奪三振25のうち見逃し三振は9で全体の36%を占めています。この見逃し三振の多さは「奪・見逃し三振王」こと岸孝之(楽天)に匹敵。ストレートツーシームでの見逃し三振が多いですが、ストレートで空振り三振も取れる力も備えています。ただ、ここまで援護に恵まれず、8月4日時点でシーズン援護率は2.03と防御率2.65を下回っている。この援護のなさは山本由伸オリックス)の2.20を凌いでいます。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データ統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカーゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

巨人・坂本勇人【写真:Getty Images】