テロとみられる予告や脅迫により中止となった、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」の企画展「表現の不自由展・その後」。インターネット上ではその余波が続いている。

 渦中にあるのが、芸術監督を務める津田大介氏。中止が決定し、「僕がとにかくこの企画を75日間やり遂げるというのが最大の目標だったので、今の心境を一言でいえば断腸の思い」と神妙な面持ちで語ったが、いまネットで炎上している発言がある。

 それは今年4月、あいちトリエンナーレについてニコニコ生放送で語った内容。出演者は津田氏と同展の企画アドバイザーを務める東浩紀氏。7時間に及ぶ生放送の中の一場面だった。

 「公立美術館で撤去されたものを、表現の不自由展という展覧会をもってくる体にして全部展示してやろうという企画で、おそらくみんな全然気付いてないんだけど、これが一番ヤバイ企画になるんですよ。政治的には」

 今回の展示を「政治的にヤバイ企画」と形容した津田氏。東氏が「やっぱり…天皇が燃えたりしてるんですか?」「天皇制にはどんなお考えですか?」と質問すると、「天皇というひとつのタブーになって撤去されるという事例があって、それは広く知られているので展覧会でもモチーフになる可能性はあります」と答える。

 津田氏が示唆したとおり、今回の企画展では昭和天皇とみられる肖像が燃やされたような作品が展示されていた。

 放送で東氏は「税金でそういう展覧会やるのはどうなんですかね」と疑問を呈するが、「2代前になると、人々の記憶も『2代前だし歴史上の人物かな』みたいな。そういう捉え方もできるかもしれない、とかね。あるいは、どうしても炎上しがちな韓国絡みの」と津田氏。

 展示内容の危うさを茶化したような2人のやり取りが、今回の中止騒動を機に拡散。「言い方がいい加減に見えるからダメなんだよなあ」「これは最初から政治的炎上狙い」と批判が殺到している。インターネット事情に精通し、数々の炎上に触れてきた津田氏だが、過去の発言まで遡りここまでの騒動になるとは想定できなかったようだ。

 今回の2人のやり取りを見た、現代アートと社会の関係に詳しい千葉大学の神野真吾准教授に話を聞くと、「番組の雰囲気の中での軽さに合わせてしまったというところはあると思うが、東さんが今の時代状況の中で『それを見せちゃうのはどうなの?』ということを、ユーモラスな表現ではあるものの核心をつくような質問をしたのに対して、津田さんが正面から受け止めたような対応をしていないというのが一番残念。その部分に対して答えてもらいたい。扇情的にあおるということだけでなく、立ち戻ってもう1回発言しなおしてほしい」と苦言を呈した。

 さらに、アートと炎上の関係について、東氏は津田氏に次のように語っている。

 「芸術とか哲学の重要性、どこにあるかというと、炎上するものをどう炎上させないかにあるのよ。アートにしてもジャーナリズムにしても、社会のヤバイ問題に触れると、『炎上するからダメだ』となると、アートも死ぬしジャーナリズムも死ぬに決まってる。かといって『アートやジャーナリズムだから触れて炎上してもOKだ』というのは違うに決まってる。炎上するはずのものが、この人がしゃべると炎上しなくなるということにアートとかジャーナリズムはあるんですよ」

 この意見にBuzzFeed Japan記者の神庭亮介氏は「東さんは示唆に富んだ、非常に有益なアドバイスをこの時点で贈っている。津田さんも肯定する相槌を打っていたが、結果的にはすべて逆を行ってしまった。天皇制などのテーマを扱うにしては言葉が軽く、むしろ『炎上上等』の姿勢にも見える」とコメント

 また、「あらゆるアートは政治性を帯びているが、政治やイデオロギーのためにアートが道具として使われるのは違うと思う」とした上で、「津田さんが、アートよりも政治を前面に押し出したことで、展示を見た人たちもアートは二の次となり、政治問題として反応した面があるのではないか」との見方を示した。

 今回の展示中止を受けて、あいちトリエンナーレに参加したアーティスト72人がコメントを発表している。

 「私たちの多くは、現在、日本で噴出する感情のうねりを前に、不安を抱いています。私たちが参加する展覧会への政治介入が、そして脅迫さえもが行われることに深い憂慮を感じています。その上で『表現の不自由展・その後』の展示は継続されるべきであったと考えます。私たちアーティストは、さまざまな方法論によって、人間の抱く愛情や悲しみ、怒りや思いやり、時に殺意すらも想像力に転回させうる場所を芸術祭の中に作ろうとしてきました。私たちが求めるのは暴力とは真逆の、時間のかかる読解と地道な理解への道筋です。個々の意見や立場の違いを尊重し、すべての人びとに開かれた議論と、その実現のための芸術祭です。私たちは、ここに、政治的圧力や脅迫から自由である芸術祭の回復と継続、安全が担保された上での自由闊達な議論の場が開かれることを求めます。私たちは連帯し、共に考え、新たな答えを導き出すことを諦めません。あいちトリエンナーレ2019 参加アーティスト 72名」(抜粋)

 こうした表現の自由への訴えに神庭氏は「脅迫や公権力の検閲が許されないのは大前提。今回の事態を教訓にして、次の議論につなげていかないといけない」と指摘。

 「見た人に“!”マークではなく“?”マークをもたらすのがいいアート。自分と似た主義主張ばかりを目にするうちに、それがすべてだと思ってしまう『フィルターバブル』という概念があるが、アートにはその『泡』を突き破っていく可能性がある。今回の展示も、同じ政治主張の人だけでなく、異なる立場の人にも届く言葉、響く表現があればよかったが、残念ながらそうはなっていなかった。前段階で芸術監督が果たせたはずの役割は、すごく大きかったと思う」と見解を語った。
AbemaTV/『けやきヒルズ』より)
 

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