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今週は「身もだえる人」を2人見た。

メダカがオスかメスかで迷う田中圭と、結婚相手がビアンカフローラかで迷う千鳥・大悟だ。

田中圭の「激しく悩むも当たる」プレイ
田中圭が身もだえていたのは、『クイズあなたは小学5年生より賢いの?』(8月8日放送:日本テレビ)でのことだった。2007年にアメリカで誕生したクイズ番組「Are You Smarter than a 5th Grader?」の日本版であり、全11問に全問正解したら賞金1000万円、しかも出題範囲は小学5年生までの教科書から、というフォーマットである。

小学5年生なんて楽勝じゃんと思うのだが、「10dlは何ml?」という問題に「デ、デシリットル……!?」と頭を抱えたりするのがこの番組の肝。挑戦者も石原良純東国原英夫、松丸亮吾とインテリ芸能人をキャスティングしており、「高学歴なのに小学生の問題がわからない」という絵を描こうとしているのがわかる。そこで求められる振る舞いとして、田中圭は完璧だった。

田中圭も有名進学校である渋谷教育学園幕張高校出身であり、「神童と呼ばれていた」というエピソードの持ち主。こんなの余裕ですよ!というノリで登場するが、1問目の「ヲ」の書き順を答える問題からさっそく「救済システム」(スタジオの小学生に助けてもらう、『クイズ$ミリオネア』のライフライン的なもの)に助けられてしまう。

以降、問題が出るたびに身もだえて悩む田中圭。「70億÷500は?」という問題には出題された瞬間「なんだよっ!」と嫌そうな顔をし、童謡「虫のこえ」の歌詞穴埋めでは、選択肢にある「まつ虫」に「まつ虫ってなんですか!?」「正解じゃなくて、まつ虫が何か知りたいんです!」とスタジオを巻き込んで叫ぶ(しかも結局「まつ虫」で正解する)

極めつけは「次の2つのうちオスのメダカは?」。選択肢は2つのメダカのイラストで、違いは背ビレと腹ビレの形が微妙に異なるだけ。既に救済システムは使い切り、50%の確率で選ぶしかない。田中圭はスタジオの小学生に「オスとメスどっちが好き!?」と謎の質問をし、悩んだあげく「背ビレが切れてるのカッケーから」という理由で選ぶが、なんとそれで正解。

田中圭は最終問題で敗れるまで「激しく悩みながら正解し続ける」というプレイで魅了した。10問分の挑戦を最後まで飽きさせず見せ、悩む様子には「やっぱりこっちなのかも……?」と見る側に迷いも与える。クイズ番組とはいえ、「いかに正解するか」より「いかに身もだえるか」が見どころなのだった。

初めてのドラクエに入り込みすぎる大悟
千鳥・大悟が身もだえていたのは『テレビ千鳥』(8月5日放送:テレビ朝日)の「佐藤健の映画を勝手に宣伝 ドラクエがしたいんじゃ!」でのこと。以前、佐藤健がなんの告知も無しに番組に来てくれたので、そのお礼に佐藤健が声優を務めるドラクエの映画を勝手に宣伝しよう、という大悟発案の企画である。

宣伝のため大悟は「ドラクエをやる」というのだが、ドラクエ自体全くの未経験。PS2版ドラクエVを始めるが、「ぼうけんのしょをつくる」を選ぶ時点で操作がおぼつかない。コントローラーのボタンを見ながら「これ下(押す)?」と言う大悟に「おじいちゃんや……」とつぶやくノブ。

主人公の名前入力に「普通はみんな自分の名前をつけるの? その方が入り込めるってこと?」と「だいご」と入れ、ゲームスタート。画面に台詞が出るが「誰が誰にしゃべりかけてんの?」と理解が追いつかない。パパスとマーサの子どもに「だいご」と名付けられるシーンに「わしじゃ!」と驚く。完全にドラクエのプレイヤーとしてレベル1の大悟。

さすがにこのまま最後までプレイはできないので、番組ではいくつかの名シーンまで進めたセーブデータを用意。そのうちひとつが「結婚相手を選ぶ」。主人公と幼なじみビアンカと、冒険で出会ったお嬢様フローラのどちらかを結婚相手にする名場面である。

もちろん、そのシーンに行き着くまでにはいろいろある。あるのだけど、ノブからキャラクターの説明を受け、「フローラと結婚するために必要な水のリングを、ビアンカと取りに行ったところ」と聞いた大悟は、即座に「ビアンカの気持ちはどうやねん!」と嘆く。ビアンカの「私はただの幼なじみで……」という台詞にも「強がってるやんこんなの……!」とすっかり入り込んでしまった。

大悟「長いこと生き死にを共にして戦ってきたんやろ? この青い姉ちゃん(フローラ)は城におったかもしれんけど、ビアンカのことを守ったり、ビアンカがだいごのことを守ったりしてきてくれたわけやろ?」
ノブ「だいぶハマっとるな!」

フローラの「もしやビアンカさんは だいごさんをお好きなのでは?」という台詞には「お前 言うなよ!」「ビアンカの立場考えろ!」と身もだえる大悟。物語はいよいよ結婚相手をどちらにするか、一晩考えて決める流れに。夜中に目が覚めた「だいご」が、フローラが寝ていることを確認し、ビアンカが起きていることに気がつくと、大悟はコントローラーを投げ出して後ろに倒れ「こんなもん、明日待たずに後ろから抱きしめて終わりやん……」と真顔で言い放つ。

翌朝、「わしが好きなのはお前じゃ〜!」と、ビアンカを選ぶ大悟。ルドマンの許しを得たのち、花嫁の支度を整えに向かうビアンカ。そこでフローラが「待ってください! 私もお手伝いしましょう」と申し出る。

大悟「えっ……!? 好きな男が違う女と結婚する、その結婚式を、手伝う!? ……フローラにすればよかったぁ〜〜!

大悟の頭にノブがこぶしをこすりつけてツッコみ、大悟のドラクエV初プレイは終わった。手元もおぼつかなかった状態から、あっという間に物語にすっかり入りんでしまった大悟。ビアンカフローラかを迷い身もだえるのではなく、ビアンカの気持ちに共感して身もだえていた。

クイズに入り込みすぎて身もだえる田中圭ドラクエに入り込みすぎて身もだえる大悟。番組も企画もキャラクターもなにかも違うのだけど、身もだえる姿には小さなドキュメンタリーがあった。人が本気で葛藤する姿は人を引きつける。それがメダカでも、ゲームでも。

取り急ぎご報告したいことは以上です。
(井上マサキ タイトルデザイン/まつもとりえこ)
with(ウィズ) 2019年 09 月号