もう退職して3年近くになりますが、とある司法書士事務所で働いていた頃は耳に入ってくる「怖い話」があとを絶たず、「やっぱり一番怖いのは人間だな」と、戦々恐々とした毎日を送っていたものです。

にでも起こりうる借金問題の「怖い話

 私が勤務していた事務所はほとんど「借金問題」を専門にしており、依頼者の返済にかかる負担を軽減したり、相談しながら債務を完済するまでの収支計画を立て、代理人として債権者と和解交渉を行うのが主な業務内容でした。消費者金融や信販会社などの債権者とモメにモメて電話越しの大ゲンカに発展することも多くありましたが、それを差し引いても、依頼者の方が負債を一掃し、新たな一歩を踏み出す手助けができるのは非常にやりがいを感じられるものです。

 依頼者はほとんどが多重債務を抱えていて、毎月の返済額が家計を大きく圧迫、場合によっては利息分だけでも10万円近くになるなど、なかなか過酷な状況に置かれていました。彼らが借金をする理由は、例えば突然失職してしまったためにやむなく生活費を借り入れるケースから、妻に隠れて愛人にブランドバッグをプレゼントするためにローンを組んだり、投資やギャンブルに大金をつぎ込んで溶かしてしまった末の借金など、様々です。

 しかし、過去に何があろうと依頼者はいずれも「人生をなんとかやり直したい」という切実な気持ちで相談をしてくれますし、私たちとしても全力でサポートをさせてもらいます。ほとんどの方が借金を完済して、最終的に「お世話になりました、もう借金はしません」と言いながら旅立っていく姿を見送るのは嬉しい体験でした。

 一方で、多重債務者の中には借金でてんてこまいになりながらも、生活費や返済をさらなる借金で補填しようとする人たちも少なからずいます。通常、多重債務の状態、または債務整理をしている場合は審査が下りづらく、新たな借り入れをすることは難しいのですが、あえてそんな状況にある人たちをターゲットにした、いわゆる「闇金」業者も存在するのです。

近年の「闇金」業者の実情

 闇金とは、貸金業の登録をせずに高金利で貸付を行う違法業者のことを指します。世間一般に、闇金という言葉自体を耳にすることはあっても、実際にどういうものなのかはあまり知られていないように思います。私自身、この仕事を経験するまでは闇金とは無縁の生活をしていましたし、とにかく「絶対関わってはいけない」ことだけは分かっていたので、そもそも実情を知る由もなかったわけです。

 当時、事務所では闇金トラブルの対応もしており、「闇金からお金を借りてしまった、どうすればいいか」という相談に乗ったり、代理人として闇金業者と連絡を取ることもありました。近年では、おそらく闇金と呼ばれる業者のほとんどは実際に客と会うことはなく、電話やメールのやりとりのみで済ませる形式が主流であるように思います。理由としては、違法な貸し借りのために店舗を持ったり客と会ったりすることは、闇金業者にとっても身バレや警察による捜査につながる可能性があり、非常にリスクが大きいことが考えられます。

 しかし、稀に「実際に業者に会って貸付を受けた」という人もいます。こうした場合は暴力団関係者による貸付である可能性が高く、司法書士では対応ができないばかりか、介入することでかえって本人の身に危険が及ぶこともあり、とくに慎重に対応する必要があります。

優しい言葉に惑わされ……悪質な手口

 相談者に闇金から借金をした経緯を聞くと、多くの人が「向こうから突然電話(もしくはDM)が来た」と答えますが、これは個人情報が何らかの形で闇金業者の手に渡ってしまっているためです。破産をすると、国が発行している「官報」に氏名・住所が記載され、闇金業者はそういった情報を悪用して「破産者リスト」を作成したり、売買したりするのです。これまでに破産した人の情報を収集、個人を簡単に特定できる状態でネットに公開し、物議を醸した「破産者マップ」もまた、官報を利用して作られたものです(現在サイトは閉鎖)。

 一般的な感覚で言えば、知らない人から「融資しますよ」と連絡があっても明らかに怪しいと分かりますし、真面目に話を聞こうともせず、すぐに電話を切るでしょう。しかし、他ではお金を借りることができない、さらに生活に困窮している人たちは周りから敬遠されたり孤立したりしがちで、助けてくれる人がいないこともざらにあります。

 そのため、たとえ突然かかってきた電話だとしても、闇金業者の優しい言葉に惑わされ、藁にもすがる思いで「少額だけなら……」と融資を受けてしまうのです。また、誰もが知っている大手有名会社の名を騙ってDMを送ったり、チラシを作ったりすることで「あの会社のグループであれば大丈夫だ」と相手を信用させ、そこに付け込む手口も多く存在するので注意が必要です。中には、ホームページに堂々と「ソフト闇金」と記載されている業者もあって個人的に大爆笑してしまった経験もありますが、闇金にソフトハードもありませんので、こちらも引っかからないようにしてください。

頼んでもいない出前が大量に届く「闇金あるある

 融資を受けるには、はじめに「審査」という名目で、相手方に身分証明書の写真、住所、勤務先・学校、家族や親族の氏名、電話番号の情報などを送るよう指示されます。

 審査は30分ほどで終わり、口座には融資額から「手数料」、「信用を作るための実績費用」などが引かれた金額が振り込まれ、だいたい10日前後を目安に返済日が設定されます。例えば2万円の融資を受ける場合、手数料で5千円を差し引かれ、実際は1万5千円しか入金されていないにもかかわらず、10日後には融資額の2万円+利息分で3万円の完済金を要求されるということもあるのです。ここでもし3万円を用意できなければ、利息分1万円だけを支払う「ジャンプ」をすることも可能ですが、元金がそのまま残ってさらに利息が付く形になるので、次回の返済の際にまた3万円の返済を求められ、毎回利息だけを支払い続ける人も少なくありません。

 順調に返済が進んでいるうちはいいのですが、返済日に利息分すら支払えないという場合、闇金業者は優しい口調から一転、突然態度を豹変させます。実際に相談を受けた中では、返済日に入金の確認ができなかった業者から電話がかかってきて「お前の住所分かってるんだから殺しに行くぞ」と脅され、実際に相手方が夜に自宅にやってきたケースもあったようです。また、闇金業者からの執拗な嫌がらせに困り果てて事務所に相談を持ちかけてくる人も多くいます。一番よくある嫌がらせは本人の職場や、配偶者や兄弟の職場、子どもの通う学校へのイタズラ電話で、悪質な場合は救急車消防車を家や勤務先に何台も呼ばれたり、頼んでもいない出前が大量に届くことも「闇金あるある」です。

 お金を借りた本人にとっては身内や職場にバレることがもっともダメージが大きく、死に物狂いで返済金を用意しようとするので、闇金側からするとこれらは非常に「効果的な回収方法」であるというわけです。

攻撃の矛先がこちら側に向くことも

 司法書士は、代理人として闇金業者とコンタクトを取り、問題解決に向けて話し合いを進めます。大体の業者は司法書士や弁護士が介入した時点で手を引くことが多いものの、相手方がたいへん好戦的である場合は、攻撃の矛先がこちら側に向くことも少なくありません。覚えている限りでは、複数人が何台もの電話を使ってお客様対応用のダイヤルにひっきりなしに電話をかけてきて、電話に出れば大声で怒鳴る、ゲラゲラ笑う、「おいブス! ブーーース!!」などと口汚く罵るなどし、仕方なく事務所の電話回線を一時停止せざるを得なくなったこともあります。

 また、嫌がらせで事務所に突然大量のピザが届いた際、ピザ屋さんには申し訳ないながらも「頼んでいませんので」とお断りをしようとしたところ、「嫌がらせをしたい闇金 VS 絶対に受け取りたくない弊事務所 VS なんとしてでも受け取ってもらわなければ店長からギタギタに怒られるピザ屋の店員」という三者間の抗争が発生し、事態が大変厳しいものになったこともありました。

「このような輩が社会から一掃されてくれれば」とは思うものの、闇金業者の多くが使用している携帯電話、銀行口座は「融資の条件」として一部の客に契約させて送らせたものであるため、いざ警察が介入したとしても(そもそも民事不介入なので、通常は警察に闇金からの借り入れについて相談をしてもなかなか取り合ってもらえない)、足がつきづらいのが現状のようです。なお、業者に携帯電話、銀行口座を売ったり送ったりすると、犯罪に加担したとみなされ、警察の捜査が及んだ際に口座が凍結される上、刑罰を受ける可能性もありますので絶対にやってはいけません。

闇金からお金を借りることのリスク

 闇金からお金を借りるのは、今後の人生にも関わる大きなリスクを背負うことです。一度借りてしまうと、業者の間では「顧客リスト」として個人情報の売買が行われますし、たとえ大金を支払って完済したとしても、闇金にとっては単なる「金づる」でしかなく、その後も複数の業者から執拗に営業の電話がかかってくることになります。仮に電話を無視していても「押し貸し」といって、自分の銀行口座に勝手に少額が振り込まれて「融資したから10日後までにいくら払え」と因縁をつけられる、非常に悪質なケースも多く報告されています。

 もちろん弁護士や司法書士に介入してもらうには依頼料がかかりますし、他者が介入することでかえって嫌がらせが激化する恐れもあります。相手がどういった対応をするかも分からないので、100%問題が解決する保証もできません。また、人並みの倫理観を持った方であれば絶対にやらないと思いますが、「闇金から借りたお金は返す必要がないので、うまくやれば借金を踏み倒すことができる」と主張する人もいます。たしかに闇金からの借金は「不法原因給付」に該当するので法律上返還義務はありませんが、そんなことをすれば相手の激しい怒りを買うことになり、どのような事態になるかは予測ができません。色々と申し上げましたが、少しでも「怪しい」と思った業者との接触は、絶対に避けることをおすすめします。

 このような話をするたびに「借りる方がバカだ、自業自得だ」と言われることも多くありますが、以前「『貧困は怠慢だ』と言っている人が知らない『見えざる弱者』の実情」という記事でも書いたとおり、極度の貧困状態にある人は孤独で、誰からも見放され、精神的に追い詰められて判断能力が正常に機能しなくなる傾向にあります。本当に狂っているのは、批判されるべきは、彼らを利用し、搾取する側の人間です。

 この記事を読んだあなたには、間違っても「貧困は自己責任だ」と言わないでほしいのです。社会制度の狭間に取り残されてしまった彼らがどうしてそうなってしまったのかを、少しでも気に留めていただくきっかけとなれば幸いです。人々を食い物にする反社会的なビジネスは、我々にとっては心霊やもののけの類よりも現実的で、誰にでも起こりうる「怖い話」なのです。

(吉川 ばんび)

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