養鶏会社の男性社員が未払い残業代約970万円の支払いを求めて、福岡地裁で裁判を起こしたというニュースが話題になっている。深夜(22 時〜5時)の割増賃金のみしか払われていなかったという。

なぜ残業代を払っていないのか。真っ先に報じた7月22日朝日新聞デジタルによると、この養鶏会社は畜産などについて、割増賃金などの支払いを適用除外とする規定(労働基準法41条)を根拠としているという。

農業や水産業は天候に左右されやすく、雨が続けば、晴れの日の労働時間が長くならざるを得ない。そういう配慮から生まれた規定だ。

一方、男性側は、鶏卵の生産数や重量などのデータ管理が主な業務で、天候に左右されることはないと主張している。

割増賃金の支払いが除外されている仕事は、ほかにどんなものがあるのだろうか。それは時代遅れにはなっていないのだろうか。白川秀之弁護士に聞いた。

●労基法の適用除外

ーー割増賃金の支払いが免除されている仕事にはどんなものがありますか?

「労働基準法41条では(a)『農業、畜産・水産業の事業に従事する者』、 (b)『監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者』、(c)『監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けた者』については、労働時間に関する規制が適用除外となっています。

『農業、畜産・水産業の事業に従事する者』が対象外となっているのは、天候等の自然に影響されることが多く、季節的な繁閑の差が大きいためとされています」

ーー労基法では41条のほか、116条で「船員」らについても残業の割増賃金などを適用除外としています

「労基法が定める労働時間の規制が適用除外となった場合には、三六協定を結ぶことなく1日8時間、週40時間以上労働させることが許されています。

ただ、何でも適用除外となるわけではなく、例えば有給休暇に関する規程、深夜労働で割増賃金を支払う規程はこれらの業務でも適用があります」

●実態を見て判断すべき

ーーたとえば、この男性のように「農業」などの職業が当てはまれば自動的に適用除外となるのでしょうか?

「今回問題となっている労基法41条は、1947年に施行されてから全く変わっていませんが、農業も技術革新によって、自然的条件に左右される度合いが低下しているケースもあります。

もともと、労基法41条が適用除外を定めた趣旨が、天候等の自然に影響されることが多く、季節的な繁閑の差が大きいことが理由である以上、その趣旨になじまない業務については適用対象とならないと解釈すべきです。

この事例では、『男性のおもな業務は鶏卵の生産数や重量などのデータ管理で、コンピューターを使っての作業になる』(朝日新聞)とありますので、一般的な事務労働者と似ていて、天候等の自然に影響されたり、季節的な繁閑の差があったりするとは考えにくいと思います。

そのため、私は男性の訴えが認められる可能性はあると思います」

ーーそもそも適用除外の場合、所定労働時間を超えていても賃金は発生しないんでしょうか?

「労働時間の規制が適用除外となったとしても、例えば1日の所定労働時間を8時間と契約していたところ、1日9時間働いた場合には、『農業、畜産・水産業の事業に従事する者』であっても1時間分の時間給を支払わなければなりません。

また、賃金を所定労働時間で割った1時間あたりの賃金額が最低賃金以上となっていなければなりません」

【取材協力弁護士】
白川 秀之(しらかわ・ひでゆき)弁護士
2004年弁護士登録。一般民事事件を幅広く行っておりますが、労働事件を専門的に取り組んでおります。日本労働弁護団常任幹事、東海労働弁護団事務局次長、愛知県弁護士会刑事弁護委員会
事務所名:弁護士法人名古屋北法律事務所
事務所URL:http://www.kita-houritsu.com/

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