死者35人、戦後の「殺人事件」としても最大の犠牲者をだした京都アニメーション放火火災から、もうすぐ1か月がたつ。そんななか、亡くなった方の実名を公表するか否かが、俄かに注目を集めている。

8月2日京都府警は“公益性”があるとして、「らき☆すた」監督の武本康弘さん(行年47)ら10名の名前を公表したが、残りの被害者25名については、遺族感情を重視して公表のタイミングを計っている。

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8月12日朝日新聞デジタルによれば、「京アニ側は7月22日、『プライバシーが侵害され、ご遺族が甚大な被害を受ける可能性がある』として実名公表を控えるよう文書で府警に要望」したという。また、世論も被害者遺族の感情に沿うべきという意見が多数を占めている。それだけに、京都府警としても様子見せざるを得ない、というところなのだろう。

犯罪被害者の実名報道の是非自体は様々な角度から議論されており、筆者はいまここでそれを問おうとは思わない。しかし、京アニ放火事件被害者の実名報道がこれだけ議論されているのを見ると、どうしても思い出してしまう出来事がある。それは、2017年12月17日に起きた大宮におけるソープランド火災だ。

当時筆者は、5人の犠牲者を出したこの事件を本サイトで取材し、記事にした。的確な避難誘導を怠った店側の姿勢に、長年風俗取材を重ねている身として、改めてその危うさを感じたものだったが、今回の京アニ実名報道から想起したのはそのことではない。これだけ被害者配慮の声が大きいご時世で、犠牲者であるソープ嬢の実名をなんら躊躇なく公表した埼玉県警と、それに追随した新聞を始めとする大マスコミの見識である。

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京アニの実名公表で被害者側代理人が懸念をしめしいると同様に、いやはっきり言えばいまだ根強い職業差別を鑑みれば、大宮の犠牲者遺族たち(と犠牲者の名誉)が被る苦痛が甚大であることは誰にでも想像できる。つまり、警察・大マスコミはそれについて一顧だにしなかった、と言ってもよいだろう。

前述の朝日新聞記事は、

「~~犯罪被害者等基本計画では、被害者の実名を公表するかは『総合的に勘案しつつ、個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮する』と規定。決定権は事実上警察に委ねられた」とも述べる。この伝で言えば、大宮のケースは埼玉県警の責任であり、それに無条件・横並びで追随した大マスコミには責任がない、ということなのだろうか。

大宮ソープ火災被害者の実名報道は、早い段階でネットが反応した。もちろん、興味本位で煽るグロテスクなものもあったが、その多くは実名報道に関する警察、特にマスコミへの批判であった。ここら辺りに、テレビ・新聞などの大マスコミとネットを中心とした世論の乖離を感じざるを得ない。「マズゴミ」批判もむべかるかな、である。(取材・文◎鈴木光司)

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辺りはまだ焦げ臭く、ひっそりと静まり返っていた