2019年上半期(1月~6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。社会部門の第4位は、こちら!(初公開日 2019年2月5日)。

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 先日Twitterを見ていると、タイムラインに「お金に余裕がなくて困っているシングルマザーが、収入をアップするためにプログラミングスクールに通おうとしたが、200万円の学費がすぐに用意できず、早くお金を貯めるために仮想通貨に投資している」という話が流れてきました。

 そのツイートのリプライ欄にはたくさんのコメントが付いていたのですが、驚いたのは、そのシングルマザーに対して「頭が悪い」「常識がない」「自己責任だ」などと批判する人が非常に多かったこと。確かにその部分だけ切り取ってみると、彼らの言うことは一見すると間違っていないように思えるかもしれませんが、本当にそうなのでしょうか。

多重債務者ほど株式投資やFXなどに手を出す

 これは、「情報弱者の貧困層がうまい儲け話に飛びついた。自業自得だ」なんて、そんな単純な話ではないのです。

 実は、私も以前は似たようなケースを目の当たりにしたとき、「彼らがどうしてそのような選択をしてしまうのか」が分からなかった経験があります。私が司法書士事務所で働いていた頃、借金に苦しむ人々からの相談に乗る機会が多くありました。そして彼らの話を聞くうちに、多重債務者ほど株式投資やFXなどに手を出し、結果的に大きな損失を抱えてしまう傾向があることに気が付いたのです。

 彼らのほとんどは家庭を持っていて、何らかの事情で貧困に苦しんでいたことが借金の理由でした。一人では動くことができないほど重い障害を持った子どもがいるため思うように仕事ができず、生活に困って借金をした人。精神を病んで働けなくなり、親族からの金銭的援助も得られなくて借金をした人。様々な事情を持つ人たちが生活に困窮し、借金の返済に追われ、すがるような気持ちで行き着いたのが「投資」だったのです。

人間の精神をじわじわと蝕んでゆく

 貧困は、非常に複雑で、解決が難しい問題です。「お金がない」ということは、人の心を簡単に破壊しうる要因になります。今月家族を養うためのお金すらない。収入を増やしたくても、事情があって思うようにいかない。こうした焦りは、実際に貧しい生活を経験した人にしか分からないかもしれませんが、人間の精神をじわじわと蝕んでゆくのです。

「貧すれば鈍する」という言葉があるように、追い詰められた人たちの中には、精神を病み、正確な情報を得ることが困難になり、物事を正しく判断できない状態に陥ってしまう人が少なからず存在します。個人の勉強不足うんぬんではなく、もっと複雑な「思考能力自体が低下している、いわば正常ではない状態」なのです。

あれだけ利益が出ていることをアピールしておきながら

 そこで大きな問題となるのが、判断能力が著しく低下した状態にある彼らを狙って、搾取しようとする輩です。みなさんの中にも、覚えがある方は多いのではないでしょうか。

 仮想通貨が大きく話題になっていたとき、「まだ仮想通貨やってないの?」「仮想通貨の市場規模は拡大し続けるから、長期投資をすれば順調に資産は増えますよ」などと煽り、ポジショントークを繰り広げていた人間たちがいたことを。今、その人間たちは仮想通貨への投資を続けているでしょうか。あれだけ利益が出ていることをアピールしておきながら、今や仮想通貨の「儲け話」をしている人はまったく見なくなりましたよね。しかも、散々仮想通貨を持ち上げていた手前言いづらいのでしょうか、その人たちは誰にも「これからは仮想通貨は儲からないだろう」と発言することもなく、静かに足を遠ざけたのです。もちろん、最後まで仮想通貨に投資するリスクについての説明をすることもなく。

 これってすごく無責任な話だと思いませんか。彼らは自分のポジションを確立したり、ブログのPVを稼いで収益を得るため“だけ”に、知識を十分に持たない人たちを焚きつけ、利用したと言っても過言ではありません。事実、彼らのポジショントークを信じて仮想通貨に投資をしたり、彼らが主宰するオンラインサロンに入って失敗した人はたくさんいました。その中には、貧困に追い詰められ、焚きつけられて、判断能力が欠如してしまっている状態で藁にもすがるような思いで投資をした方もいたでしょう。

だます側が儲かり、だまされる側が搾取される

 消費者問題に詳しい紀藤正樹弁護士に、「リスクを隠してオンラインサロンへの加入や、投資を呼びかける行為」についての問題点を聞きました。

「事業や投資にはリスクはつきものです。あえてリスクを隠す形で事業や投資に勧誘して契約させる行為は、消費者契約法上の取り消し理由にあたる場合があります。アフィリエイト広告や連鎖販売のように、勧誘者に利益が得られる場合もあり、いきおい勧誘文言が『必ずもうかる』『必ず成功する』『今しかない』などと断定的になりがちで、だます側が儲かり、だまされる側が搾取される構造がそこにあります。こうした断定的な勧誘の中には詐欺などの犯罪事案もあり、安易な儲け話には特に気を付けるべきです」

 こうした図式がある以上、失敗してしまった人を「馬鹿だ」「自己責任だ」と無闇に叩くのは、私としてはおかしいと思うわけです。「失敗してしまった人」の裏側には、常に「搾取する側の人間」がいるということを知ってほしいのです。

 貧困者や何らかの事情により判断能力が低下している人々を利用した「搾取」のケースは、仮想通貨の斡旋だけにとどまりません。最近では「インフルエンサー」と呼ばれる有名人たちが「脱社畜しろ!」「稼ぎたければフリーランスになれ!」「オンラインサロンに入れ!」とひたすらに煽っているのを見るたびに「またやってる……」とついつい頭を抱えてしまいます。

本当に血が通った人間なのか、お前は

 先日、実際に「今後はブログが稼げるぞ! 会社や大学を辞めてブログ収益で生きていけ!」というインフルエンサーの言葉を信じた女子大学生が「現在ブログ収益0円ですが、これからブログで食べていくと決めたので大学を辞めてブログに専念することにしました!」と宣言していたのを目の当たりにしました。

 彼女の決断に対しては、私が口出しをする気は毛頭ありません。自分の人生ですから、よく考えた結果なら、他人がどうこう言う問題ではないでしょうし。しかし、まだ世間の右も左も分からないような若者に対して、大学を中退するよう促した挙句、そのリスクについての説明もまったくせず、それを信じた人たちが失敗したときにケアもせず見捨てるような大人のことは、絶対に許してはいけないと思うんですよ。「おっw いいですね! やれやれー!」じゃないんだよ。本当に血が通った人間なのか、お前は。

 結局この人たちは、すべて自分の利益になるからやっているだけのことなんですよ。そこに、誰かを救いたいだとか、困っている若者に手を差し伸べたいだとか、そういう親切心は1ミリもないと思うんです。本当に親切な人は、弱っている人や判断能力が低下している人の弱みに付け込むような真似はしませんから。一種の洗脳だと思いますよ、本当に。

「もう考えるのも疲れた。死にたい

 この原稿を書いている私自身も貧しい家庭で育ったのですが、母はいつもお金に困って精神的に追い込まれていました。母は96歳のオーナーが経営する理容室で17年勤めていますが、職場環境もかなり劣悪で、出勤しているにも関わらず給与をもらえない日がけっこうな頻度である状況です。週5でフルタイムで働いても月に数万円しか稼げませんし、誰がどう考えても転職した方がいい状態なので娘の私から何度も転職を薦めたのですが、「もう考えるのも疲れた。死にたい」「転職先を調べたり、新しい環境に慣れるまでが億劫だ」「転職するだけの気力がない」と言い続け、しまいには発言力のある人から「儲かるよ!」と勧誘され、マルチ商法に手を出した時期もありました。

 母はもともとは思慮深く利発な女性だったのですが、仕事を頻繁に辞めてしまう夫と家庭内暴力で金銭をせびる息子に悩まされ、お金に困るようになってから次第に人が変わったようになりました。精神を病み、いつもぼーっとしていて、はたから見ていても判断力が著しく低下している、思考力が働いていないような状態になってしまいました。現在も、母は新しい職に就くことができていません。

 これから先、誰かに対して「馬鹿だなぁ、どうしてそんな失敗をしたんだ」と思うことって多分あると思うんですが、そんなとき、無条件にその人を攻撃するのではなく、一度この話を思い出してもらえれば幸いです。その背景にあるものは、一体何だと思いますか。

(吉川 ばんび)

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