ディズニー超大作ライオン・キング』が公開されている。本作は全編をデジタルで描いた作品で、劇中には人間の俳優はおろか、本物の動物も登場しない。しかし、ライオンのシンバやナラを“演じている”人間は確かに存在する。声はドナルド・グローヴァービヨンセ・ノウルズ=カーターら豪華キャストが担当した。そしてMPC社のアーティストたちが演技と表現を担当。シンバを“演じた”のは彼らだ。

MPCは“Moving Picture Company”の略で、ロンドンで生まれたVFXスタジオだ。これまでに数々の大作を手がけており、近年だけでも『アクアマン』や『ブレードランナー 2049』『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』など複雑なショットの多い作品を次々に担当している。同社で15年以上活躍し、『ライオン・キング』ではVFXスーパーバイザーを務めたエリオットニューマンは「私たちは作品を担当するごとにツールソフト、仕事への向き合い方、プロダクションの関係を前進させ、更新しようと務めてきました」と力強く語る。

中でも『ライオン・キング』は彼らにとって特別な作品になった。2016年アカデミー視覚効果賞を受賞した『ジャングルブック』と同じくジョンファヴローが監督を務める作品で、映画の一部ではなくキャラクターも背景もすべてデジタルで制作。予算も創作期間もたっぷりと用意された。

「この作品は私たちが大きく飛躍できるチャンスでした」とニューマンは振り返る。「作品にかける予算と時間が大きいので、これまでに実現できなかったシステムを新たに開発することができました。最大の革新は、VR技術を使って、ロスのスタジオにいながらサバンナで実写映画を撮影しているのと同じことができるツールを開発・導入したことですね。さらに動物の毛をこれまで以上に繊細に描くツールや、動物の筋肉の動きをより正確にキャラクターに反映するシステムを新たに開発しました」

その結果、劇中に登場するライオンハイエナたちは本物の動物と見分けがつかないほどリアルに描かれているが、彼らは現実の動物を“スキャン”したり、現実の動物のデータを“コピー”することはしていない。「本作はドキュメンタリースタイルで描かれてはいますが、シンバやムファサは言葉を話すし、歌も歌うわけですからね(笑)。私たちがこの映画で目指したのは、視覚的にリアルでありながら、オリジナルの『ライオン・キング』に最大限の敬意をはらってデザインすることで、観客に“画面にいるのはシンバだ! 隣にいるのはムファサだ!”とすぐに反応してもらえるキャラクターを描くことでした。記録映像などで実際のライオンの群れを見ると、実はそれぞれに大きな個性があるわけではないんです。でも、この映画ではリアルに描きつつ、オリジナルキャラクターの要素を継承しなければならない。そのバランスは本当に難しくて、かなり複雑なデザインプロセスを経てキャラクターを設計していきました」

さらにデザインしたキャラクターは画面の中で動かさなければならない。つまり、物語や感情に沿って“演技”させなければならない。「そうですね。“どんな見た目にするのか?”だけでなく“どう動かすのか?”が重要になってきますし、“演技”の側面が大きな割合を占めることになりました。もちろん、事前に実際の動物の肉体や動きを徹底的にリサーチして正確に動かしています。その上で、声を入れた俳優たちのセッション映像も参考にしながら、何もないところからアニメーションを作り出していくわけです」

ジョンファヴロー監督は自身も俳優で、実写の世界を中心に活躍しており、CGだからと言って専門家に“丸投げ”することなく、ロバートダウニーJr.やドン・チードルと映画を作る時と同じようにシンバやムファサを“演出”している。「ジョンは基本的に実写映画と同じように演出をします。カメラを置いて、俳優のたち位置を決めて、キャラクターの歩く速度や動き、表情の変化を細かくチェックします。私たちは何度も何度も出来上がった映像を一緒に観て、修正して、また一緒に観て……本当に密にコラボレーションしていったわけです」

ポイントになったのはファヴロー監督と『ジャングルブック』を共につくりあげたMPCメンバーの存在だ。「今回の映画では『ジャングルブック』とほぼ同じスタッフで仕事にあたることができましたから、ワークフローツールの進化以上に、スタッフそれぞれの能力や経験値アップしていきました。そこは大きかったですね」

そうしてキャラクターが描かれ、精巧な背景が描かれ、最後に光があてられる。ニューマンは「この映画では“空”が作品のキーポイントになることがわかっていたので、制作の初期の段階から周到に準備を進めた」と語る。

「現実のスタジオやロケ地で撮影するとなると、照明機材が物理的に置けないなどの限界がありますが、今回の作品はすべてがデジタルで描かれていますから光を完全にコントロールすることができるわけです。この映画では空をどう描くかによってライティングの方向性が定まるとわかっていましたから、リサーチでケニアを訪れた際に空や太陽のデータ、写真、動画を時間の許す限り集めて、得たデータをそのままレンダリング(さまざまなデジタル情報を束ねて最終的な映像を生成する作業)のソフトに組み込んで、太陽のサイズ、明るさ、光の量、空や雲の色を正確に描き出すことができるようになりました。その上でジョンと撮影監督がより映画的なライティングを追及していったわけです。その結果、まだ誰もやっていなかった新しい扉を開くことができましたし、物語を綴り、映画的な質感をもたらす照明が設計できたと思います」

ライオン・キング』を観て“これならサバンナに行って、実際に動物を撮影すればよかったじゃないか”と思った人もいるかもしれない。しかし残念ながら、サバンナカメラを置いて何日待っても、本作のような映像は描けない。映画監督と、彼とタッグを組んできた“演技”のできるCGアーティストと、時間をかけて開発されたツールと、素晴らしい物語が組み合わさって『ライオン・キング』の映像はできている。

ライオン・キング
公開中

『ライオン・キング』の撮影風景