生後5カ月の赤ちゃんがクリニックを受診しました。顔から首、そして胸にかけて、肌が乾燥して赤くなっています。

「先生、うちの子アトピーでしょうか」

アトピー性皮膚炎は慢性疾患のことをいいますから、まだ、そう決めつける必要はありませんよ。ちょっと肌が弱いだけですから、保湿剤と非ステロイド系の炎症を抑える軟膏(なんこう)を使ってみましょう」

 軟膏の塗り方を説明すると、お母さんが質問してきました。

「近所のおばあちゃんの家によく行くのですが、日焼け止めと軟膏はどういうふうに塗ればいいのですか」

 なるほど。8月のこの陽気ですから、紫外線が気になるのですね。

日焼け止めは6カ月を過ぎてから

 私は昭和40年代に少年期を過ごしましたが、その頃の子どもたちは、夏休み明けに登校してくると、全身の肌が小麦色にばっちり日焼けしていました。やがて、皮(古い皮膚)がぼろぼろと剥がれるようになります。クラスのみんながそうでした。現代とは隔世の感があります。

 今は「オゾン層が破壊されているから紫外線が届きやすく、子どものうちに皮膚を守らないと将来、皮膚がんになる」などといわれています。本当にそうでしょうか。統計上、皮膚がんは増加していますが、その最大の理由は高齢化です。紫外線は「可能性」としてはありますが、はっきりした「証拠」はありません。また、皮膚がんというのは「希少がん」で、肺がんや大腸がんと比べるとはるかに少ないといえます。

「お母さん、日焼け止めって肌によくないんですよ。この子は5カ月なので、まだ使ってはいけません。早くても、日焼け止めは6カ月を過ぎてからです」

「では、日差しはどうしたらいいのでしょうか」

「お出かけの時間帯を工夫してください。午前10時から午後2時は避けた方がいいです。可能な限り日陰を歩いてください。ベビーカーを使っていますね? しっかり庇(ひさし)を伸ばして直射日光をさえぎってください。今は日焼け止めを使わないで、まずは保湿剤と軟膏で肌を丈夫にしてください」

 お母さんが話を変えてきました。

「3歳の兄がいるんですけど…」

「帽子をかぶって、七分袖の服を着て」

 それから私は、日焼け止めの使い方を説明しました。

紫外線を防ぐ「SPF」「PA」とは

 紫外線を抑える数値は2種類あります。一つは「SPF」。これはUVBと呼ばれる「中波長」紫外線に対する防御効果です。中波長紫外線は、肌の表面に作用して肌を赤くします。また、シミ・そばかすの原因になります。その防御の強さは、「1」から「50+」までの数字で表されます。

 もう一つは「PA」です。これはUVAと呼ばれる「長波長」紫外線に対する防御効果です。長波長紫外線は肌の奥に到達し、シワなど肌の老化に関係します。防御の強さは、「+」から「++++」の4段階で表されます。

 子どもの場合、SPFは15あれば十分です。PAは「++」か「+++」で十分です。強過ぎる日焼け止めは、肌に炎症を起こしてしまうことを知っておいた方がよいでしょう。

 また、日焼け止めの成分には、紫外線の「散乱剤」と「吸収剤」があります。吸収剤は、子どもの肌に炎症を招くことがあります。吸収剤が入っていないものを「ノンケミカル」というので、これを使ってください。また、お風呂で日焼け止めをしっかりと洗い流すことも、とても大事です。9月いっぱいまでやれば十分です。

 1998年、母子手帳から日光浴を推奨する記載が消えたことは有名です。しかし、最近になって、日光浴不足から骨がもろくなる「くる病」が増加していると注意喚起をする小児科の先生もいます。紫外線対策は、やり過ぎないことが重要です。

小児外科医・作家 松永正訓

日焼け止めは子どもの皮膚に悪影響?