8月3日愛知県で開催中の国際的な現代美術展覧会「あいちトリエンナーレ」の一企画展「表現の不自由展・その後」の展示の中止が発表された。8月1日の開催からわずか3日間での出来事だった。

表現の不自由展・その後」が展示されていた愛知芸術文化センター
 作品はすでに撤去されているが、企画展では従軍慰安婦の女性を象徴とした「平和の少女像」や昭和天皇モチーフにした作品などが展示されていた。

 開幕日には200件に及ぶ抗議の電話が殺到。また、犯人はすでに逮捕されているものの「ガソリン携行缶をもってお邪魔する」という脅迫めいたFAXが届くなどしていた。展示中止の理由について、実行委員会会長の大村秀章愛知県知事は「安全な運営が危惧されるため」と説明した。

 現在も見ることができるその他の展示はどうなっているのか、騒動後の会場の様子はどうなっているのか、記者が現地に足を運び確かめてみた。

全体のコンセプト「情の時代」

あいちトリエンナーレ
※あいちトリエンナーレの公式サイトより
 あいちトリエンナーレ2010年から3年に一度の期間で開催されている芸術祭で、2019年で4回目の開催となる。愛知県を挙げた一大事業で本年度は約12億円以上の予算が割かれた。

 芸術監督にジャーナリスト津田大介氏を迎え「情の時代」をテーマ100組弱のアーティストが参加。絵画、インスタレーションアート、写真、ライブパフォーマンス、映像などの作品を、名古屋市内を中心とした「愛知県立芸術文化センター」「四間道・円頓寺」「名古屋市美術館」「豊田市美術館豊田市駅周辺」4つのエリアで展示している。

 津田氏はあいちトリエンナーレの公式ホームページで、“情には「感情」「情報」「思いやり(なさけ)」主に3つの意味がある”とし、なぜ「情の時代」というテーマを掲げたのかについて、以下のようなコメントを寄せた(一部抜粋)。

「人間は、たとえ守りたい伝統や理念が異なっても、合理的な選択ではなくても、困難に直面している他者に対し、とっさに手を差しのべ、連帯することができる生き物である。いま人類が直面している問題の原因は『情』にあるが、それを打ち破ることができるのもまた『情』なのだ。

(中略)われわれは、情によって情を飼いならす(tameする)技(ars)を身につけなければならない。それこそが本来の『アート』ではなかったか」

津田氏肝いりの「表現の不自由展・その後」

 こうしたテーマのもと、あいちトリエンナーレには国内外から多数のアーティストが集められた。その中でも中止となった企画展「表現の不自由展・その後」は、ネット番組ニコニコ生放送内で津田氏が「今回の僕のこだわりはこれです」と紹介するなど、津田氏肝いりのものだった。

 企画展は、さまざまな理由で国内の美術館で展示が撤去、拒否されてきた作品を集め、その経緯とともに展示したものである。津田氏が8月3日に開いた記者会見によれば「議論が分かれる『表現の自由』という現代的な問題について議論するきっかけにしたい」という思いがあったそうだ。

表現の不自由展・その後」に賛否両論が寄せられることや、抗議があることは想定内だったという。だが結果として予想をはるかに超える事態に発展したことが中止の契機となったようだ。

あいちトリエンナーレの今

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チケットカウンターの前には展示中止を告げる案内が
 とはいえ、「表現の不自由展・その後」は、あいちトリエンナーレの一企画展に過ぎない。割かれた予算も約420万円で、総予算のごく一部だ。

表現の不自由展・その後」が展示されていたのは名古屋市の中心部栄駅から徒歩5分ほどの場所にある「愛知芸術文化センター」だ。一時期は街宣車が並び、抗議活動を行ったといわれるが、取材日(2019年8月8日)には騒動の名残は感じられなかった。

 会場内は平日ということもあり大盛況というわけではなかったが、夏休み中の学生や仕事中に抜け出してきたと思しきサラリーマン男性、若いカップル一眼レフを背負った高齢の男性や、子連れの家族など、男女問わずさまざまな年齢層の姿が見られた。

 展示コーナーには、ポスターにも採用されているスイスアーティスト、ウーゴ・ロンディノーネ氏の45体のピエロ像を使ったインスタレーション作品「孤独のボキャブラリー」や、ゲームデザイナー・伊藤ガビン氏の映像作品など領域、国籍を超えたさまざまなアーティストの作品が並ぶ。

 また、2階にある大ホールでは人気ロックバンドサカナクションによるライブイベント「暗闇 -KURA YAMI-」が開かれており、開場を待ち望むファンたちの列が出来ていた。

 来場者はじっと作品を見つめたり、手で触れてみたり、一眼レフを持ち込んで写真撮影にいそしんだり、ライブの感想を言い合っていた。体験型の展示では子供が思い思いに遊ぶ姿も見られ、一連の報道やSNSで感じる物騒な雰囲気はまるでないように感じた。

(編集部注:あいちトリエンナーレ内で撮影した写真の掲載について、同イベント実行委員会事務局へ何度も許諾を試みたが、電話は保留音が鳴り続けるだけで繋がることはなかった)

展示中止騒動。来場者はどう思う?

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 ある程度落ち着きを取り戻しているようにも思えるが、来場客は「表現の不自由展・その後」に関する騒動についてどう思っているのか、鑑賞を終えた数名に聞いてみることに。

「3年に一度なのでせっかくだから子供を連れて見に来たんです。騒動のことは残念だったと思いますが特に気にはしていないですね」(30代男性)

 このような「特に意識はしていない」という意見が多く聞かれた。実際に来場してくる人の中には、騒動を特に気にしていない人も少なくないようだ。一方では厳しい意見も聞かれた。

「なんというか、迷惑ですよね。騒動になるのがわかっていたなら、なんでやめたのか。やめるくらいならやらないほうがよかったんじゃないかと思いますよ」(50代男性)

 展示中止騒動をめぐっては参加アーティスト87名(8月10日時点)や「表現の不自由展・その後」実行委員会、日本文化政策学会、美術評論家連盟など各種団体や識者が相次いで本企画に対する圧力や恫喝、脅迫行為に対して抗議するとともに、展示再開を求める旨の声明を発表、企画展再開に向けた動きもみられている。

 だが一方で、公的資金や補助金を使った事業に、特定の政治性を想起させる展示がされることに対し「政治的プロパガンダではないか」などの批判が見られたことも事実だ。

 実行委員長を務める大村知事は8月13日、自身のツイッターで検証委員会を設置、公金を使った芸術作品の展示や危機管理体制のあり方などについて、今後の芸術祭に向けて提言することを目指すことを発表した。初会合は8月16日に開催されるという。

<取材・文/bizSPA!取材班>

【bizSPA!取材班】

「bizSPA!フレッシュ」編集部の若手記者が、20代ビジネスマン向けに、“身の丈世代”が気になる世の中のホンネを徹底した現場主義で伝えます。

チケットカウンターの前には展示中止を告げる案内が