先日、注目を集めたのはイケメン2世議員(38歳)と人気ニュースキャスター(41歳)の電撃結婚。想像だにしなかった組み合わせのカップルというだけでなく、女性は既に妊娠5カ月。二重の意味で驚かされたのですが、世の中は完全に祝福ムード。入籍、出産、そして結婚生活。全てが全てうまくいくことに何の疑いも持たれていませんが、少し気味が悪いと思いませんか。賛否の「賛」しかないありさまに。

 他のカップルなら「できちゃった婚」だと揚げ足を取り、「順番が違うでしょ」「計画性がない」「できていなかったら結婚しないでしょ」というバッシングの雨嵐だったはず。また、税金でメシを食う議員はささいなことでも批判の対象になります。議員を褒めたたえることは非常に珍しいのに今回は特別なのでしょうか。

 ただでさえ、議員は立場の不安定さ、家族の負担の大きさ、プライバシーの低さなど、一般人とは異なる部分が多いです。例えば、年間2200万円の歳費(国会議員)は落選すればゼロだし、選挙の応援に親戚一同を駆り出すのは当然。あらゆる個人情報(自宅の住所や子どもの学校、妻の容姿など)は筒抜けだし、選挙区に住む議員は常に監視されるので、心が休まる暇がありません。

 議員が「ごく普通の家庭」を持ち、続けるのは一般の会社員に比べてはるかに難易度が高く、まともな人生を送るのはほとんど無理ゲーだと言わざるを得ません。それなのに、先日の結婚報道は随分浮足立っていると感じませんか。今回は、筆者のところの相談事例から、夫が選挙に立候補したせいで夫婦が離婚したケースを紹介しましょう。

<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)>
小野順平(46歳) 国会議員秘書(年収1000万円)
小野里穂(39歳) パートタイマー(年収80万円)
小野大也(17歳) 高校生

傍若無人な夫に我慢を重ねてきた妻

「どんな手を使っても当選しないといけない! とにかく議員になることがお前らのためなんだ!!」

 今回の相談者・小野里穂さんの夫は、8年前から国会議員の秘書を務めていたのですが、8年間もでっち奉公を我慢してきたのは自分が議員になるため。そして、待ちに待った市議会議員選挙が公示され、念願の立候補に踏み切ったのです。

 夫は元甲子園球児で大学野球でも活躍したエリート中のエリート。「自分以外は、ばかばっかり」という感じで人を見下している節があり、特に家庭内で傍若無人の限りを尽くしてきたのです。結婚生活20年間、里穂さんは我慢に我慢を重ねてきたのですが、今回の選挙で堪忍袋の緒が切れ、ついには離婚を決断したのです。

 選挙告示の10カ月前、夫は「今度の市議会議員の選挙に出馬したいんだ」と里穂さんに相談したそうです。里穂さんは「選挙を手伝いたくない」とはっきりとは口にしませんでしたが、乗り気ではありませんでした。なぜなら、17歳の息子さんがちょうど受験の真っ最中だったからです。

 里穂さんは息子さんへの影響を懸念して、「お金は大丈夫なの?」と聞いたのですが、夫は「(金は)そんなにかからないよ。20万くらいでやった人もいるし、車も選挙カーを借りるし、それにカンパを募るつもりだから。選挙事務所には来なくていいよ」と半ば強引に里穂さんを丸め込んだのです。

「(移動用のレンタカーの)車を運転してよ。嫁なんだから当たり前でしょ?」

 それなのに、夫は選挙戦に突入すると前言をすっかり忘れていたようで、里穂さんにいろいろと頼んできたそう。もちろん、里穂さんは選挙を手伝うつもりはなく、「免許持ってるんだから自分で運転すればいいじゃない」と言い放ったのです。

 さらに、夫は「中学や高校の名簿を出してよ。選挙が始まったら電話するから。特に親しい友達を教えてくれよ」と命じたのです。里穂さんは「あんた(夫)が(友達に)借りを作れば、私が(友達に)返さないといけないじゃない。昔のクラスメートと今はほとんど付き合いもないし…好きなようにやっていいけど、私たち関係ないから」と苦言を呈したのです。

 それでも、里穂さんは見るに見かねて、性能の良い拡声器と旗竿などの備品をネットで安く買いそろえてあげたそう。

自宅の住所や家族写真が公開

「うちを事務所にするなんて聞いていないわ! (息子が)ストーカーに遭ったらどうするの?!」

 里穂さんは夫を問い詰めたのですが、たまたま事務所のホームページを見たところ、「選挙事務所が自宅になっていること」「自宅の住所が公開されていること」「家族写真が掲載されていること」を知ったのです。全て里穂さんには内緒でした。

 それなのに、夫は「子どもの写真は小さい頃のだから分からないでしょ!」「まだ事務所が見つからないなんだから仕方がないじゃないか!」「家を事務所にしたって誰も来ないよ!」と反論したのですが、翌日には秘書仲間や後援会のメンバーが自宅を次々と訪れたようで早々にボロが出てしまった格好。「やっぱり事務所として使ってるじゃない!」と里穂さんはあきれてものも言えなかったそうです。

 結局、夫はあくまでうそを認めず、「(夫のことを)手伝いに来てくれているんじゃないか? ちゃんとお礼を言ったのか? 『夫がいつもお世話になっています』くらい言えよ! お前は本当にダメな奴だな!! 特別なことじゃない。議員の先生の奥さんはみんなやっているぞ」と逆ギレし、その場を乗り切ろうとしたのです。里穂さんは開いた口がふさがらなかったそう。

 里穂さん夫婦の場合、夫が一切協力しない育児や家事の「ワンオペ」状態。里穂さんは心身ともに追い詰められている中、さらに夫の選挙活動に振り回された揚げ句、「ダメな奴」呼ばわりをされたのだから怒り心頭。最終的には「私は政治には一切興味がないし、政治家なんで嫌い! もう絶対に手伝わない!!」と夫を見放したのです。

「私たちも住んでいるだから、断りもなく勝手にポスターなんか貼らないで! 今すぐ剥がして!!」

 夫は自宅の塀や外壁はもちろん、居間や客間にもポスターを貼ったそう。思春期で反抗期、そして受験生の息子さんが嫌悪感を抱くのも無理はありません。そこで、里穂さんは息子さんの気持ちを代弁したのですが、夫はまたもや「選挙妨害で訴えてやる!」「党の力で潰してやるぞ!」と大きな声でまくし立てたのです。

「訴えるんだったら訴えればいいわ!」

 里穂さんはそう言うと、廊下にずらっと貼られていたポスターを剥がし始めたのですが、廊下にはポスターやチラシ、たすきや腕章などが大量に置かれており、足の踏み場もない状態。

 夫は売り言葉に買い言葉で「金かかってんだよ!」「もう、お前が出て行ってよ! 今すぐいなくなれ!!」「絶対に許さないからな!」と激怒し、里穂さんの腕をつかんだのですが、夫は元甲子園球児。体が大きく、筋肉も多く、腕力も人一倍なのでちょっと腕を払っただけでも威力が違います。足場が不安定なせいで里穂さんはおかしな転び方をして、高く積み上がったチラシの角におなかを打ち付けてしまい…みぞおちを抑えて「痛い、痛い!」と泣き叫んだそうです。

落選、秘書へ復職、そして離婚…

 里穂さんの悲鳴を聞いた息子さんも部屋から出てきて、夫に「絶対に許さないからな!」と吐き捨てたのです。しかし、夫は実の息子に対しても一切容赦せず、「てめー! 何様のつもりだ!! くそ野郎が生んだ子どもはくそ野郎だ」「(学費を)自分で払って自分で行きゃいいじゃないか! 特待生は1円も払わないよな?! 〇〇を目指しているなら特待生くらい取れるだろ、ええ!!」と吐き捨てたのです。

「子どもにツケを回さない!」。これは夫の選挙期間中のキャッチフレーズですが、自分の子どもの学費すら出そうとしない人間が連呼するのだからうそ八百です。

 候補者が選挙期間中に家庭内でDV事件を起こした…万が一、そんなふうにメディアで報じられたら、さすがに致命傷です。当選の目も消えてなくなるでしょう。そこで夫は悪知恵を働かせ、近くに住む里穂さんの母親を呼び出し、脅迫めいた口調で言いくるめようとしたのです。

「警察に行っても、僕は党員だからまともに取り合ってくれないぞ。病院にも行くなよ。通報されたら一貫の終わりだからな!」

 こうして、里穂さんと息子さんは実家でかくまってもらったのですが、結局、妻子不在のまま投票日を迎えたのです。いくら外づらが良くても、有権者に「本当の姿」を見透かされたのでしょうか。奮闘むなしく、夫は落選の憂き目に遭ったのです。それでも、夫は外づらは良いので、前職の議員が「いつ(秘書として)復帰してもいいぞ」と誘ってくれ、退職前と同じ待遇(年収1000万円)で迎え入れてくれたのは不幸中の幸いでした。

 投票日の翌日。里穂さんは夫の落選を見届けると、ちゅうちょなく三くだり半を突きつけてきたのです。夫はプライドの高さが邪魔をして、今までの苦労をねぎらったり、過去の悪行を悔い改めたり、「考え直してほしい」と泣きついたりできなかったのでしょう。「議員になれなかった僕は用なしってことか? 『離婚してくれ!』だなんて血も涙もないな。むしろ、こっちから願い下げだよ!」と強がるのが精いっぱい。

「勝手にしろ! ばか!!」と捨てぜりふを吐くと署名済みの離婚届を里穂さんに渡してくれたのです。そして、息子さんの養育費として毎月14万円(家庭裁判所が公表している「養育費算定表」によると、子どもが15歳以上、妻の年収が100万円以下の場合の相場)を支払うことを約束してくれたのです。結局、仕事や収入が元に戻ったので今回の選挙で夫が失ったのは妻子だけだったのです。

「議員」という職業の特殊性

 ここまで、夫が選挙に立候補したせいで離婚した里穂さんのケースを紹介してきましたが、議員がいかに浮世離れしているのか…一般的な会社員と比べると一目瞭然です。具体的には、立場の不安定さ、家族の負担の大きさ、プライバシーの低さの3つです。

 まず立場の不安定さです。会社員の場合、人事考課に応じて給与や賞与が増減しますが、せいぜい数%から数十%です。評価の良し悪しで、突然、首を切られる心配はほとんどありません。

 一方、(国会)議員の場合、歳費として年間2200万円が保証されていますが、選挙で落選すれば(議員以外の収入がなければ)いきなり0万円です。昨日まで有職だったのに今日から無職という転落は、会社員では起こりにくいもの。議員の立場は選挙に左右されるので、選挙への依存が大きく、あまりにも不安定です。

 次に家族の負担の大きさですが、会社員の場合、手持ちのお金を公私混同するのはご法度です。仕事に必要な広告宣伝費や交通費、人件費について自腹を切ることはありません。一時的に立て替えるにしても最後は会社が精算してくれます。

 一方、議員の場合、手持ちのお金を公私混同するのは当然です。ポスターの作成や選挙カーのレンタル、選挙事務所の人件費などは自己資金で何とかしなければなりません。資金が足りなければ選挙の応援を妻や子どもに頼んだり、親戚や旧友、元同僚などをかき集めたりするのですが、もし会社員が仕事に家族を巻き込んだら総スカンを食らうでしょう。議員だから許される特殊な環境です。

 そして、プライバシーの低さですが、会社員の場合、会社と家庭は別ものです。社員の住所や固定電話の番号、妻の名前や子どもが通っている学校を把握しているのはせいぜい人事部のみ。直属の上司でさえ、口を滑らせない限り、部下の個人情報を聞き出すことははばかられるご時世です。

 一方、議員の場合、仕事と家庭は一体です。議員の家族は選挙区に住んでいるので、常に選挙民に見張られている衆人環視の状態。個人情報だからという理由で、小学校の緊急連絡網から「住所」が削除されて久しいですが、自宅と事務所が同じなら、選挙期間中、住所は公開されています。

 さらに、「いい夫」「いい妻」を演出しようと事務所のホームページに家族全員の写真を掲載しようものなら大変です。元々、議員は落選者に逆恨みされやすい立場。これでは、個人情報を悪用されても文句は言えないでしょう。

 議員の不祥事いちいちニュースになるので目立つのですが、風俗嬢を買春、一般女性に性的暴行、酩酊(めいてい)状態で暴言…今年に入っても不祥事のオンパレードです。このように考えると、議員が「ごく普通のまともな家庭」を持ち、続けるのは、会社員に比べてはるかに難易度が高いと言わざるを得ないのです。

露木行政書士事務所代表 露木幸彦

「議員」の結婚生活は難しい?