東京ビッグサイト8月9日〜12日まで開催された世界最大級の同人誌即売会コミックマーケット96C96)」(通称コミケ)。期間中、中国人コスプレイヤーがカメラマンたちに至近距離で囲まれるトラブルが発生した。

本人は嫌がっているのに、極度のローアングル撮影やスカートの中にカメラを差し入れるような行為もあったようで物議を醸している。

こうした撮影行為について、高橋裕樹弁護士は「東京都迷惑防止条例(盗撮)」に抵触する可能性があると指摘する。

「露出度の高いコスプレについては、際どい撮影もある程度は許容されていると考えられるでしょう。しかし、相手が嫌がっているのにスカートの中にカメラを入れることは、明らかに許容範囲を超えています」(高橋弁護士)

コスプレイベントでは、カメラマンの撮影マナーがたびたび問題視されてきた。コスプレ業界に詳しいライターの乃木章さんは、過去のコミケで接写していたカメラマンを運営側に突き出したことがある。

「通常のコスプレイベントと違い、コミケのような一般の認知度も高いイベントでは、現場での対応が難しい部分もあります」(乃木さん)

どうして撮影トラブルがなくならないのか。乃木さんの寄稿をお届けする。

●嫌がる女性レイヤーを接写

何度も言った「近すぎる,離れてください」,でも誰も聞いてくれなかった(原文ママ

怖がる中国人コスプレイヤーに大勢のカメラマンが近づいてローアングルなどで撮影したことが、大きな議論を呼んでいます。

コミケでは、会場を彩るコスプレイヤー目当てに来場する人も少なくありません。同時に、撮影トラブルが発生しやすくなります。

被害にあった中国人コスプレイヤーALLさんのツイッター投稿を見る限り、撮影拒否しても、大勢のカメラマンに取り囲まれ、接写やローアングルからの撮影が止まらなかった模様です。

コスプレイヤーの撮影方法は、(1)カメラマンが順番に並んで1対1で被写体を撮影する場合、(2)大勢のカメラマンが被写体を同時に取り囲んで撮影する場合ーーの2パターンがあり、今回の事件は後者の撮影方法から発生しています。

では、どうしてトラブルが発生したのか。そこには2つの原因が考えられます。

●予想超える人だかり、準備が難しい「撮影の仕切り役」

一つは囲み撮影における、「被写体から最低でも3〜5メートル離れる」というマナーが守られていなかったから。被写体と撮影カメラマン以外に、囲み撮影を仕切る人がいなかったのだと推測されます。

囲み撮影ができるのは人気のパラメーターであるため、人気コスプレイヤーだと囲みを想定して知り合いなどにあらかじめ仕切り役を頼みます。

突発的に囲み撮影が発生したときは、日頃からよく撮影に来てくれるカメラマンなどに仕切りを任せることもあります。ALLさんの場合は中国の方ということもあって、どちらの条件も満たせなかったのでしょう。

●普段はコスプレを撮らないカメラマンも参加

二つ目は、コミケが通常のコスプレメインのイベントではなく、一般の方が多く参加する「コスプレ参加も可能」なイベントであることです。普段はコスプレ撮影しない人も撮影するということです。

コスプレメインのイベントだと、カメラマンは登録料を支払って参加し、被写体を綺麗に撮ることで、本人のツイッターなどに載せてもらうことを目的としています。

同じコスプレ写真が重複し過ぎないよう、被写体が一度のイベントで使用する(投稿やリツイート)写真の数は限らます。そのため、カメラマン同士の一種の競争が生まれます。カメラマン同士が顔を覚えてしまうのも珍しくありません。

しかし、コミケのようにカメラマン登録料が発生しないイベントでは(今回のコミケは初めて入場規制中の一般参加者は有料のリストバンドが必要になりましたが)、記念撮影などでコスプレイヤーを撮影する人も増えます。それ自体は悪いことではなく、喜ぶコスプレイヤーも多いでしょう。

ただ一方で、ほぼ毎回、ALLさんのような接写やローアングル撮影問題が発生するのは、あまりコスプレ撮影の経験がないカメラマンが参加したことも背景にあると思います。

そうなると、中にはコスプレ撮影のクオリティーはさて置き、女性をとにかく撮ることを目的にする人もいるでしょう。集団心理により行動がエスカレートした部分もあるのではないでしょうか。

普段からコスプレ撮影しているカメラマンからは、「コミケは一番撮影風紀が乱れる」という声も多く聞きます。

●イベント撮影のターニングポイント

筆者は2018年冬のコミケC95)に参加した際、中国の人気コスプレイヤーを接写ローアングルで撮影したカメラマンを捕まえたことがあります。

被害者本人の意向で、コミケスタッフを呼び、警察に突き出して欲しいと伝えましたが、「その場合は被害にあったコスプレイヤーにも同行してもらう必要がある」と言われました。

結局、その場でデータを全て削除することで被害届は出さないという結果になりましたが、そのカメラマンがイベント出入り禁止になるといった措置は取られませんでした。

もちろん、コミケにも撮影規約がありますが、中国人コスプレイヤー相手だと特に、日本語があまり喋れないから、見つかっても相手は泣き寝入りするはず、などと考えるカメラマンが一定数いるのかもしれません。

海外からの参加も珍しくなくなっており、イベントにおけるコスプレ撮影の在り方を見つめ直すターニングポイントに来ている気がします。

【ライタープロフィール】

乃木章(のぎ・あきら) ライター・カメラマン。年200本ほどコスプレ記事を執筆しており、日本だけでなく中国・台湾にも取材に行く。フォトレポートだけでなく、歴史や文化、風習、背景など多角的に取り上げている。また、中国語が得意なことから、中国・台湾コスプレイヤーのインタビューを定期的にしている。

「コミケは撮影風紀が一番乱れる」 コスプレ女性に「殺到・接写」が繰り返されるワケ