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 偏性嫌気性のグラム陽性桿菌であるC・ディフィシル(クロストリディオイデス・ディフィシル)は、院内感染症でも頻度の高いクロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)の原因となる厄介な細菌だ。

 免疫力の低下している人や抗生物質で腸内細菌が乱れた人に感染し、下痢や大腸炎を引き起こす。

 アメリカでは年に25万人が感染し、1万4000人が死亡。日本でも患者1万人あたり1日に7.4人が発症するなど、決して少なくはない。

 『Nature Genetics』(8月12日付)に掲載された新しい研究によると、今、C・ディフィシルは2つの種に進化しつつあるのだそうだ。

 しかも、その片方は病院の環境に適応している。進化の原因は、欧米文化の糖分たっぷりの食品と病院で一般に使用される消毒剤なのだとか。

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病院で採取されたC・ディフィシルは新種の細菌になる可能性

 英ウェルカム・サンガー研究所のニティン・クマール氏らは、ヒト・動物・環境内で生きているC・ディフィシルを906株を集め、そのDNAを解析。

 その結果、病院で採取された株には、共通して見られる特徴が備わっていることが判明した。しかも系統群Aと呼ばれるそのグループは、別種になる境界線上にいるというのだ。

 同種であると判定するためには95パーセント以上のDNAが同じでなければならないのだが、系統群Aの場合、DNAの共有率が別種との境界である94~95%なのだ。

 共有率がもう少し下がれば、もはやC・ディフィシルとはみなせなくなる。

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手術後の人体に潜んで糖分を好むスーパーバグがさらに進化中


 このグループには、病院で繁殖するにはぴったりの特徴が備わっている。抗生物質への耐性を持ち、消毒剤で殺すこともできず、西欧文化の食事(特に手術後に出される流動食や柔らかい食事)に多く含まれる単糖を食べるのだ。

 C・ディフィシル系統群Aを構成する株は、推定年齢7万6000歳であり、近代的な病院システムよりもずっと古くから存在する。

 しかし、研究の結果から、それらが特に勢力を拡大し始めたのは1600年代後半からであることがわかっている。まさに近代的な薬が登場した時期だ。

 そして病院が発展するのと合わせて、ともに進化を続けてきた。現在では手術後の人体をお気に入りの寝ぐらとしている。

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遺伝学的ツールで進化を調べて新しい治療法を考えるヒントに


 細菌が人体の環境に適応するという考えは新しいものではないが、遺伝学的ツールを利用してその進化を調べれば、また新しい治療法のヒントが見つかる可能性もあるという。

 たとえば、病院の食事を単糖や炭水化物が少ないC・ディフィシルが好まないものに切り替えたり、腸内細菌叢を乱さない標的治療薬を開発するといったやり方が考えられるそうだ。

References:Popsci / Natureなど / written by hiroching / edited by usagi

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http://karapaia.com/archives/52278269.html
 

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