―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―

 腕時計クルマも好きな斉藤由貴生です。私は、現代のおかしな消費を変えるために実践を重ねながら、いろいろ研究してきました。私は30代のいわゆるバブルを全く知らない世代です。所有欲の薄い世代とは言われますが、私の場合は、むしろ価値あるものは我慢せず所有したいと考えています。そんな私の価値観を、不定期ですが披露したいと思います。

◆第26回 中古のロールスロイスに実質10万円で乗れることもある

 賢い買い物の仕方は「売る時のことを考える」ことです。

 そして、「売れる」という確証があればロールスロイスにまで手を出してもいいと断言します。ロールスロイスといえば「ウイスキーロールスロイス」など「何々のロールスロイス」と言われるほど、最高級ブランドの代名詞。最近ベンツは街中で見かけることも増えてきたので、日々見る機会があるでしょうが、ロールスロイスはほぼ見ません。乗る機会があるとすれば、結婚式場とかホテルの送迎車という感じでしょう。

 実は私は高校生にしてロールスロイスを購入したことがあるのです。

18歳で免許を取って最初に買ったのが50万円のロールスロイス

 クルマに憧れていた私は、幼稚園の頃から免許を取る日を夢見ていました。免許を取った高校3年生の時、周りの金持ちの友人は中古で200万円ぐらいの中古車を買ってもらうというのが当たり前。普通の家柄の女の子でも100万円弱の新車の軽自動車を買ってもらっていました。それを横目で見ている私は、これだけ車が好きな自分にそういう環境がないことがかなり悔しかったのを覚えています。

 そして、18歳で免許を取った当初から、ずっと何を買おうか考えていた私は、ネットで50万円で売りに出されている中古のロールスロイスを発見しました。そのロールスロイスは個人の方が自身のホームページで売りに出していたモノで、13万3000kmという多めの走行距離により、いずれ解体されてパーツごとのバラバラになるしかない状態。バラバラになる前に、きちんと乗ってくれる人に持ち主が50万円で譲りたいと言っていたのです。解体しても50万円……ということは、私が50万円で買ったとしても50万円で売れる可能性があると判断しました。

 そこで、軽い気持ちで「買います」とメールを出したら、私が一番早くメールを送ったそうで、「欲しいという人はいっぱいいたけれど、一番手の私に売る」ということになったのです。

 そして、迎えたロールスロイス。未成年だと、親の委任状が必要でしたが無事に名義変更が終了。18歳の私は晴れてロールスロイスオーナーとなったのです。早速ロールスロイスで友達と海までドライブ。窓を開けて国道134号線を走るととてもいい気分。運転には気を使いますが、その気を使うってことも含めてすべてが特別で、なんだか未経験の領域です。室内の革の匂い、明らかに高級感のある内装、細いハンドル、ボンネットの先に立つフライングレディロールスロイスを手にした私はすべてに満足していました。こんなにいい車が50万円! 私はなんていい買い物をしたのでしょう。

 と思ったのもつかの間。購入してから1か月後に迎える車検の際、私は驚愕してしまうのです。

ロールスロイスの車検代にビックリ

 ロールスロイスというクルマの整備は特殊であるため、慣れた工場のほうがいいと言われています。ベンツなんかもそうですが、工場にはクルマの得意不得意があったりします。本来、車検を受けるだけだったら身近なガソリンスタンドで車検を受けても良かったのかもしれません。しかし、当時の私は知り合いに勧められたこともあり、ロールスロイスを得意とする整備工場に車検を依頼してしまったのです。

 最初に支払った額は約10万円。私はそれが車検費用だと思ったので「なんだ、10万円だったら専門の整備工場にして良かった」なんて思っていたのですが、それはあくまで重量税と自賠責保険料という法定費用。車検の整備費用の請求は後からやってきました。

 その額なんと80万円。「うわあ、どうしよう」と思いました。ディーラー系などの整備工場だと見積もりがあって、持ち主が納得して整備を行うのですが、ロールスロイスの工場は「やってみないとわからない」という理由で、整備した後に金額がわかるのです。キャンセルもできず引き返せない私。支払うしかありません。

 ぶっちゃけ壊れたとしても、50万円で解体業者が引き取ってくれるからプラマイゼロと計算して買ったロールスロイスですが、思わぬ事態となりました。だって、整備に費やしたお金って基本的には全くクルマの評価に関係がないからです。つまり、80万円出して整備をした車と全く整備していないクルマの価値は変わりません。そのことを私は事前に把握していたので、80万円かかることがわかっていればそんな整備はしなかったのですが、平気で後から80万円を請求する工場に出してしまったのが失敗でした。

 仕方なく80万円支払って整備済みのロールスロイスを受け取った私は、もう乗るのが嫌になってしまいます。本体価格50万円+車検費用90万円(法定10万円+整備80万円)=140万円となってしまったロールスロイスは結局50万円でしか売れません。嫌になったからと言ってすぐに手放したらその瞬間90万円の損が確定です。それもバカバカしいので、しぶしぶ乗っていた私。しかし、どこかが壊れたらまたお金がかかると思うとリラックスして運転もできません。

 ただ、幸いなことに私のロールスロイスは調子がいいクルマでした。工場の人曰く、90万円でも安いほう。最初はその言葉を信じられませんでしたが、たしかにベンツなどの車検費用でも50万円ぐらいは当たり前。おかしな話ですが、ベンツでも50万円だからロールスロイスで90万円は妥当かな、なんて思えてきます。

 そもそも、ロールスロイス専門工場は妥協しないで整備することで有名なので、90万円の車検の際「不調だけど予算的に後回し」とした箇所はありません。つまり、しばらく私のロールスロイスは壊れるはずがないのです。

 そこで、私はもう少し乗ってから売ることにしました。通常、車検は2年周期ですから90万円分の整備で約2年は耐えられるはず。クルマの2年分というと走行距離にして2万kmぐらいが目安でしょう。ロールスロイスで2万kmはかなり走っているほうなので、1.5万kmぐらいが90万円の整備で耐えられると予測しました。そんなことを考えた私は、5000kmぐらいを上限にしばらく乗って、売りに出そうと思ったのです。

◆50万円で買って車検代で90万円使ったロールスロイスヤフオクに出品

 そして5000km近く乗った頃、私はロールスロイスヤフオクに出品しました。単に出品するのではなく、何十枚も写真を並べ、整備内容も事細かに記載しています。幸いなことに内外装の状態が非常に綺麗だったので、見栄えは良いのです。それに加えて、ロールスロイス専門工場で徹底した整備をしているということも本来価格に与える影響はわずかと知りながらも売りの1つにできました。で、それらを武器に私が出品した額は140万円。つまり、プラマイゼロの強気の値段です。

 いくら見た目が綺麗で、整備されていても14万km近く走ったロールスロイス140万円で売れるかどうかは賭けでした。知り合いや友人にも声をかけましたが「ロールスロイスなんか買わないよ」とか「14万km!?」なんて敬遠されてしまう始末。「140万円で絶対に売れっこない」と私に不安ダメージを与える余計な一言を言う人もいて、私はちょっと自信をなくしました。

 ですが、140万円という額はロールスロイスにしては破格なうえに、ここまで徹底的に整備している140万円のロールスロイスはなかなかないため、問い合わせは意外にも多かったのです。つまり、このロールスロイスの低い評価の原因は走行距離のみ。内外装も綺麗で、不調がある箇所もないのです。

 ある日、ロールスロイスを見たいとやってきた2人組がいました。1人は日本人でもう1人は白人です。買いたいのは白人のほうで、日本人は仲介役でした。その白人がオーストラリア人であることを聞いた瞬間、私は「買ってもらえるだろう」と確信しました。なぜなら、私のロールスロイスは右ハンドルロールスロイスイギリスクルマですから右ハンドルが多いかと思いきや、左ハンドルのほうが多いのです。ですから、右ハンドルロールスロイスは貴重。オーストラリアは日本と同じく左側通行右ハンドルなのです。そんな彼は入念に私のロールスロイスを見ていました。結局、内装の一部に汚れがあることを理由に値下げ交渉されたのですが、その額は10万円。一度90万円の大損を覚悟した私としては、10万円の値引きなんて許容範囲なわけです。

 ということで、130万円で売却できたロールスロイス。その過程で思わぬ出来事が重なってヒヤヒヤさせられたりしましたが、楽しい思いもいっぱいして、しかも5000kmも乗って、10万円のマイナスで済んだのです。ロールスロイスレンタカーを借りようと思ったら、24時間で10万円はするでしょう。「売る」ことを重視したおかげで、実質10万円で存分に楽しめたのです。

斉藤由貴生】
1986年生まれ。日本初の腕時計投資家として、「腕時計投資新聞」で執筆。お金を使わず贅沢する「ドケチ快適」のプロ。腕時計は買った値段より高く売却、ロールスロイスは実質10万円で購入。著書に『腕時計投資のすすめ』(イカロス出版)と『もう新品は買うな!』がある
―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―


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