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天才的な足回り 過剰でない性能

これはご存知アルピーヌA110。そしてわたしの右側は、カテゴリー的にはA110の直接のライバルではない、およそ3倍の価格のマクラーレン570Sだ。

しかしこの2台には一緒に登場させるだけの共通点がある。それはなんだろうか。どうみてもライバルではないが、同じ位置にターボ付きエンジンを搭載し、どちらも2シーターのスモールクーペだ。パフォーマンスの数値よりもドライビングプレジャーを重視している点も共通する。

ツインテストとは言えないツインテストをする価値があるだろう。まずはじめにA110について少し話してみよう。

「君も以前これに乗ってとても気に入ったようだね」

「そうだね。お気に入りだ」

「じゃあまずはこのクルマについて、ご覧のみなさんに簡単に説明しよう。マクラーレンとの比較の土台づくりのためにね」

「最初に気づくのは、非常にコンパクトなこと。そしてその次にこの軽さだろう。この道は非常にスムーズでフラットだけれど、モーランドの凸凹だらけでトリッキーな道ではこのクルマの天才的なサスペンションのダンピングや難しい路面へのシャシーの対応に驚いたね」

「天才的か。言い過ぎじゃない?」

「いや大丈夫だ。昨日モーランドを走って来たんだけど、今まで乗ったクルマの中で最高の部類に入るよ。ああいう類の路面ではね」

「それはすごい」

「総評すれば、洗練されて楽しく、前後ともに十分なグリップがある。でも過剰なほどではなくて、信頼して限界走行ができるよね」

「そうだね」

「これがこのクルマの楽しさの秘密だと思う」

「今回は同一条件での比較じゃないけど、価格に見合うと思うかい?たしか5万ポンド(636万円)くらいだよね」

「5万2000ポンド(662万円)だよ。これはローンチモデルのプルミエール・エディションで、1955台限定だ。1955年といえばジャン・レデレがアルピーヌを設立した年だね」

「これはおよそ5万2000ポンドだけど、今後登場するレジェンドピュアより高価なグレードだ。だとしても5万2000ポンドにしては価格に見合った非常に良いクルマだと思う」

敷居の低いパフォーマンス

「5万ポンド(636万円)前後のクルマが続々と登場しているよね。その頂点である718ケイマンにも対抗できそうだ」

「数年前までは誰もかなわなかったよね」

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アルピーヌA110

「いつもケイマンが勝っていたけど、4気筒になってからひとが離れ始めた。そこでM2コンペティションや新型スープラに加えてこのクルマだ。比較テストをしたらケイマンはどこに入るだろうね」

「驚きだよね。数年前までは考えられなかった」

「このクルマの最大の特徴は、君も冒頭で触れていたけれど、公道の速度域での楽しさを第一に開発されていることだ」

「それはとても重要なことだと思う。マクラーレンに乗り換えても大筋では同じことが言えるだろう」

「このクルマは260psで、車重はわずか1トン強だよね。たしか1080kgくらいかな」

「非常に扱いやすいパワーと車重だと思わないか?」

「公道でも使い切れるパワーだ。存分にこのパフォーマンスを味わうことができるだろう。軽さゆえに速く感じるし、物足りないとは思わない。エンジンは最高とは言えないかもしれないけど」

「でもサウンドは良いんじゃないか?古典的なホットハッチらしい音でとてもクールだ。オリジナルのA110やA310には乗ったことがないから、こんな音だったのかはわからないけど」

「でもひとついえるのは、僕も君もこのA110に心を奪われた」

「素晴らしいクルマだね。それに君のいうとおり、パフォーマンスに対する敷居が低いよ。最近のクルマは普通のひとには速すぎて扱えないからね。でもこのクルマはそれを利用可能なレベルに戻してくれた。だから僕が今好きなクルマはこれの他に、ヒュンダイi30Nとか後期型MX-5とかだね。GT86も好きだったよ」

「その通りだね。僕が初めてこのクルマに乗ったのはフランスの道なんだけど、小さなマクラーレンみたいだと思ったよ」

「なるほど」

「じゃあそろそろ本物のマクラーレンに乗ってみようか」

フィーリングや洗練度を重視

「これがマクラーレン570Sトラック・パックだ。このシートはどう?すごく良くないか?」

「確かに良いシートだけど、基本的には570Sだよね」

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マクラーレン570S

「そうそう。アルピーヌの3倍の価格だけど、君の意見に賛成だよ。このクルマをつくる上で、ラップタイムのことは気にしていないんだ」

「実際マクラーレンはラップタイムを公表していない。いつもそうだよね?彼らはそれを好まないんだ。フィーリングや洗練度を重視して、走らせて気持ち良いクルマに仕上げている」

「『公道で』というのも重要なキーワードだ」

「そう。公道でね。結果としてマクラーレンの中で最もローパワーかつ安価でありながら、一番楽しいクルマになっているんじゃないかな」

「同感だ。このクルマが素晴らしいのは、君のいう通りアルピーヌにも近いけど、公道でも楽しくて運転のしがいがあることだ」

「しかも『良いクルマ感」』も十分だよね。カーボンファイバータブの高剛性も感じられるし、組み付け精度も高く、内装も良くデザインされている。ドライビングポジションも見事だね。これはマクラーレン全車に言えることじゃないかな」

「ドライビングポジションの重要性は、それが素晴らしいクルマに乗って初めて理解できるよね」

「視界も良好だ。車幅もそれほど広くないし、走行位置も
決めやすい。公道上ではそういう部分が大きな差を生むよね。乗り心地は良いけどボディコントロールも落ち着いていて、遊びが少ないね」

「この2台には大きな違いがいくつかあるけど、そのひとつは直線でのパフォーマンスだ」

「ラップタイム云々は重要ではないとか言ったけど、勘違いしないでほしいのは、それでも非常に速いということだ」

「570psだよ。乾燥重量はどれくらいだったかな。1300kg台のはずだ。しかもカーボンセラミック・ブレーキを装着している。これは良くできたロードカーであり、親しみやすいクルマだ。でもトラックデーに行けば十分に他のクルマと張り合えるだろう」

「サーキットも想定内ってことだよね」

「気に入らない点はあるかい?」

「気に入らない点か。難しいな」

優れたステアリングと乗り心地

「もし毎日乗るとしたらライバルに劣る点もあるよね。たとえば911と比べたら乗降性も悪い。それにフロントのリフターも操作が難しい。駐車場でノーズをあげようとしても手順がわからなくなりそうだ」

「確かにメーターの照度調整と間違えそうだね」

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マクラーレン570S/アルピーヌA110

「ハンドリングバランスが気に入ったよ。LSDなしでこれを実現しているんだよね。ほとんどの場合でステアリングと乗り心地は良いね」

「パワートレインの設定方法はすこしイライラする。どうやって設定を変えるんだっけと考える時間が生じてしまうんだ。もう少し簡単でも良かったんじゃないかな。でも十分に毎日使えるクルマだ」

よくわからないことについて話してきた中で、このビデオとはまったく関係ないんだけど、何年も前から気になっていてここで言っておきたいことがある」

「このアームレストの角度なんだ。これはドアのこのセクションに沿っていて、カーボンタブの形になっている。だから高い位置から急に下降してくるんだけど、具合の良い位置に腕をおくと、肘のくる位置がとても急角度になるんだ。これがこのクルマの中で一番気に入らない点だね。長時間乗っていると肘が痛くなる」

「話を戻そう。そんな文句もあるかもしれないが、非常に楽しいクルマだ。とても良く曲がると思わないか?マクラーレンは今でも油圧パワステを使っている。完璧なまでにリニアでレスポンシブだ。重さもすごく自然だよ。狙ったフィーリングを作り出している感じがない」

「オーセンティックだね」

「そのままのフィーリングが非常に良いんだ。運転して楽しいクルマだよ」

限界域で良さが出るクルマ

ゴージャスな走りだし、アルピーヌより直線も速い。コーナーでのパフォーマンスも上だね。速度域は高くなるけど、限界域での挙動は同じだ。タイヤが過剰じゃないからグリップが徐々に失われる」

「だから振り回して遊ぶこともできるんだ。バランスを楽しむこともできるし、前後のグリップが限界を迎えるのも感じられる。これはアルピーヌも同じだね」

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マクラーレン570S/アルピーヌA110

「でもこのクルマは公道で遊ぶには速すぎない?」

「その可能性もある。でも少しだけ余裕を持てば、十分楽しめるだろう」

「時と場所を選んでね」

「僕が最初にこのビデオを撮ろうと思った理由でもあるんだけど、このクルマもアルピーヌA110も公道でのパフォーマンスカーに最も重要な点を満たしているんだ」

「それは絶対的なパワーでもパフォーマンスでもグリップでもなく、性能やグリップの限界付近で制御できることだ。これが楽しさを生み出している」

「クルマに乗って限界走行をしたらとても気持ち良いよね。パフォーマンスが高すぎて公道で使い切れなかったり、グリップが過剰で限界が見えないのはストレスだ」

「非常に興味深い意見だね。だけど評価すべき点はいくつもある走りがいだったり、エンジン音だったり、ステアフィールや乗り心地とかいろいろね」

「だけどこのクルマの楽しさは古典的な純粋主義者的だよね。でも君のいう通り、クルマを振り回すことほど楽しいことはない。しかもそれに応えてくれて、安全の範囲内で楽しめるんだからね」

「限界域こそクルマの良さが最も現れると思うし、この2台はその点において現行モデルの中で最高だと思う」

「まったく同意見だよ」


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