Credit: Michael E. Ruane/The Washington Post

Point

■Y染色体DNA個人識別法と系譜データから、約30年前に発掘された男性の遺骨の正体が特定された

■頭蓋骨がドクロのように、2本の大腿骨が交差させた形に配置されていることから、当時の吸血鬼信仰と関連付けられてきた

■結核で亡くなった人々が墓を抜け出して家族に病気をうつすと信じていた当時の人々は、遺体を掘り起こして心臓を焼く「治療的発掘」を行っていた

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1800年代初頭のある日、米国ニューイングランドのある墓地で1人の男性の遺体が掘り起こされました。臓器はすでに腐敗して無くなっていましたが、頭蓋骨はドクロの形のように、2本の大腿骨は交差させた形に並び替えられ、再び棺の中へ戻されました。棺の蓋には、真鍮の鋲で「JB 55」と記されていました。

それからおよそ200年の時を経て、この男性がジョン・バーバーという名前の農夫だったことが判明しました。DNA解析を行ったのはアメリカ陸軍検視部のDNA鑑定研究所です。

Y染色体DNA個人識別法と系譜データを用いて個人の特定に成功

男性の遺骨が入った棺がコネチカット州グリスウォルドの採石場で発見されたのは、1990年11月のこと。砂利加工施設がこの地域で砕石を行っていた際、放棄された墓地に行き当たったことが事の発端でした。掘り進めるにつれて次々と人の骸骨や壊れた棺の一部が出土し、最終的には男性5体、女性8体、子ども14体を含む27体の遺骨が発掘されました。

Credit: Michael E. Ruane/The Washington Post

とりわけ目を引いたのは、No. 4の棺でした。他の遺骨が解剖学的な配置のまま保たれていたのに対し、この遺骨だけは大腿骨が引き抜かれ、胸の前で交差されていたのです。研究者たちは、これをニューイングランド地方の吸血鬼信仰と関連付けました。

まもなく、遺骨は陸軍のメディカルセンターにある国立健康医学博物館へ、大腿骨から採取したサンプルはDNA鑑定研究所へ送られました。ですが、約30年前の当時の技術では得られた結果は乏しく、個人を特定することは不可能でした。

ところが今回、Y染色体DNA個人識別法とインターネットで利用可能な系譜データを用いて、この男性の姓がバーバーと一致する可能性が高いことが判明しました。

古い墓地や新聞記録をたどり、グリスウォルドにバーバーという姓の家族が住んでいたかどうかを調べたところ、1826年にジョン・バーバーと言う名前の男性を父親に持つネイサン・バーバーという12歳の少年の死を報じた記事が見つかりました。そこで「JB 55」の棺の側を調べてみると、同じく真鍮の鋲で「NB 13」と記された棺が発見されたのです。

ではなぜ、彼はこのような奇妙な弔われ方をしたのでしょうか。

死への恐怖と家族への愛がゆえの行動

この発見は、1700年終盤から1800年代初頭にかけて、ニューイングランド地方の特にコネチカット州やロードアイランド州で人々の間に広まった吸血鬼信仰と、結核の流行の関係に光を当てるものです。

当時、結核は原因不明の恐怖の病でした。顔色を失い痩せこけた患者が、口の端に血を滲ませながら壮絶な咳に苦しむ様子に恐れおののいた人々は、結核で亡くなった人々が墓を抜け出し、家族や親類に病気をうつしては血と命を吸い取ってしまうのだと信じていました。

このため、墓に埋められた遺体は、再び掘り起こされて「二度」殺されなければなりませんでした。この「治療的発掘」を行うのは、家族の役目でした。ニューイングランドの僻地では、こうした例が80件も報告されています。

ヴァンパイアを殺す方法は、掘り起こした遺体の心臓に液体の血が残っているかどうかを調べるというものでした。もし残っていれば、亡くなった人はヴァンパイアである確率が高いと判断されます。取り除かれた心臓は焼かれ、家族は時にさらなる病気を防ぐためにその煙を吸い込むこともあったそうです。

次々と家族が倒れ、それを食い止める術が無い状況の中で、死の連鎖を断ち切る唯一の手段がこれだったのです。進んでこれを行いたがった人はもちろんいませんでしたが、彼らはただただ、まだ残されている命を必死に守ろうとしました。

しかしこのような手段を取っておきながら、当時の人々は結核にかかった家族の一員が、他の家族と一緒に食事の席についたり、同じ部屋で寝たりといったことが普通に行われていました。彼らはまだ、病気の伝染についての知識を持ち合わせていなかったのです、

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ジョン・バーバーの遺体も、埋葬後4〜5年が経過してから掘り起こされた遺体の1つでした。掘り起こされた時、心臓がすでに分解されて残っていなかったために、胸骨が壊され、頭蓋骨と大腿骨の配置が変えられたのではないかと見られています。

故障した首の骨が治療されずにそのままになっていることや、膝に関節炎の跡が残っていることなどから、彼が下位中産階級に属する働き者の農夫だったことが伺え、その肋骨に残る痛々しい傷跡は彼の最期が壮絶なものだったことを物語っています。

暑さに参ってしまいそうな今日この頃、背筋をヒヤリとさせる歴史の一幕でした。

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reference: sciencealert / written by まりえってぃ
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