倉本聰・脚本「やすらぎの刻~道」テレビ朝日系・月~金11時30分~)第19週。

「やすらぎの郷」の老人達がバラエティ番組に出演し、自分たちが出演した頃とは変わってしまったテレビ局に翻弄される。

視聴率問題に斬り込むアナーキーすぎる菊村栄
乃木坂テレビの60周年事業として企画された、「やすらぎの郷」住人たちが大挙出演する特別番組。

テレビ朝日開局60周年記念ドラマである本作「やすらぎの刻~道」のようなドラマで、そのシナリオとして、菊村栄(石坂浩二)が誰にも見せるつもりがないまま書き進めていた「道」が採用されて……みたいな展開を予想していたのだが、そうではなく、豊臣家康(木下ほうか)というお笑い芸人が司会を務めるバラエティ番組「お笑い大将」(つまらなそう!)のスペシャル企画らしい。

要は、かつてのスターたちを集めて「あの人は今」的な企画をやろうということなのだろう。

桂木夫人(大空眞弓)率いる「やすらぎの郷」新参組の面々は「夢をもう一度」ということで出演に前のめりだったが、古参のマヤ(加賀まりこ)やお嬢(浅丘ルリ子)たちは、世間から隠されてきた「やすらぎの郷」の平穏が乱されるとして強硬に反対。対立がますます深まっていく。

いずれにしても、出役ではない菊村にとっては関係のない話ということで、どっちつかずの態度を取っていたものの、脚本といえないレベルの「お笑い大将」の構成台本を読んだことで憤慨する。

「いけませんね、この台本は。過去のテレビ人たちが必死になって作ったものを、ひたすら笑いの種にしようっていう制作態度は納得できません」

ゆりやんレトリィバァが、昔の日本映画の口調をネタにしているが、今の感覚からはズレている昔のコンテンツを笑いのネタにするというのはありがちだ。

テレビ局側は視聴率を根拠に「明るくなければテレビじゃありません」と主張するが、

「私はそうは思いませんね。本当に見たい視聴者はね、今は録画してあとで見るんですよ。その数字は視聴率調査にはほとんど出てきません」
「録画したものを再生して見る時にはね、コマーシャルスキップしてしまうんですよ。ですから今の視聴率調査というのは番組に対してではなくて、コマーシャルに対しての視聴率調査なんです」

すごいことを言い出したぞ。

これまでも散々、今のテレビ局や芸能界に対する批判を繰り広げてきた「やすらぎの郷」「やすらぎの刻~道」だが、遂にテレビ業界最大のタブーである視聴率問題に斬り込んできた。

これだけ全録機や、ネットでのアーカイブ配信が普及した現在、薄々「視聴率ってアテになるのか?」と思っている人も少なくないだろうが、テレビドラマの中でそれに言及するのはアナーキーすぎる。

テレビの視聴者を馬鹿にしちゃいかん!
結局、反対を押し切り、番組出演を強行した桂木夫人一派と男性陣。

楽屋ともいえない、会議室のような大部屋で待機させられ、食事は安そうな弁当。メイクはしてくれるものの、衣装の着替えは自分で。司会者の豊臣家康はあいさつに来ない。クソ態度の悪いAD……。ひな壇芸人でももう少しマシな扱いをされるんじゃないかという、雑な扱いを受ける。

収録本番でも、木下ほうか演じる豊臣家康&豊臣軍団(たけし軍団的なことなのか?)たちに、

ガラパゴス博物館の特別展示室みたいな……」「お年寄り」「おばあ様」

などと、いじられまくり。

さすがに、かつてのスターたちを、ここまで雑に扱うテレビ局はないとは思うが、ビッグネームとはいえ、役者たちと比べれば顔を知られていない脚本家……倉本聰自身が、こんな目に遭う可能性はありそうだ。

「やすらぎの郷」の面々が過去に出演していたドラマや映画を振り返る場面でも、豊臣軍団はVTRを見もしないで、スマホをいじったり、仲間内でふざけ合ったり。

屈辱に耐えつつも、画面に映る若き日の自分たちの姿に見入る老人たちが切ない。

リアルな出演者たちが、過去に出演したドラマや映画の映像を引用して、現在の顔と交互に映し出され、菊村の言っていた、

「昔のみんなの、本当に全盛期のきれいさと今のね……。いや、今の現実をさ、比較して見せて、その笑いの種にしかねないんだよ」

という言葉が思い出されてしまう。確かに全盛期の映像は、それはそれは美しいのだ。今は……ねえ。

耐えかねた桂木夫人一派は席を立ち、スタジオを出て行ってしまう。それを見て追い打ちをかけるように、

「ちょっと、おい、どうするんだよ!?」
「おばあ様方、怒らせちまったよ、これ」

と老人達をバカにする豊臣家康に、秀サン(藤竜也)がブチ切れる。

ジェネレーションギャップじゃありません。単なるあんたらの品のなさと傲慢です。先輩を敬わぬ無礼な態度です! テレビの視聴者を馬鹿にしちゃいかん! 早くテレビからお消えなさい!」

豊臣家康をぶん殴り、豊臣軍団もボコボコに。

態度悪く挑発してくる木下ほうかを最後にヘコませてスカッとするという展開は、まさに「痛快TVスカッとジャパン」状態。

あの番組自体、前後のドラマとか関係ナシに、スカッとできる場面のみを切り取って見せるような、倉本聰が見たらブチ切れそうな番組だが……。そういえば放送局はフジテレビだ。

倉本聰からテレビ局への鉄槌!
老人達の扱い以前の問題として、「お笑い大将」のレベルの低さがものすごく気になった今週。サルの格好をした芸人にエサをやって大爆笑って、どんだけ笑いの沸点が低いのか。

もちろん、「ひどいバラエティ番組」を演出するために誇張しているのだろうが、倉本聰の目に、現在のバラエティ番組は、このくらいレベルが低いものとして認識されているのかも知れない。

かつてのスターたちにヒドイ扱いをして、クソみたいなバラエティ番組を作っているテレビ局に鉄拳制裁。これは、倉本聰から現在のテレビ業界への鉄槌だったのだ。
(イラストと文/北村ヂン

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻~道』テレビ朝日
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日

【配信サイト】
Tver

『やすらぎの刻~道』テレビ朝日
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日

イラストと文/北村ヂン