アメリカ人ビジネスエリートの働き方は、ロジカルでスマートで最先端──。日本でよく聞く“定説”だが、それは彼らの働き方のほんの一面に過ぎない。アメリカの職場は、実は日本に負けず劣らず泥臭さと人間臭さに満ちている。アメリカで約3年間、現地のビジネスエリートと共に働き、現在は「GAFA」の1社で働く日本人マーケターRio氏が、アメリカ人の働き方の知られざる実態を紹介する。(その3/全3回、JBpress)

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冷たくされるのはどんな人?

「事務系の職種でアメリカで働く際、一番意識するべきことは何ですか?」

 アメリカで働いてみたいという人からよく聞かれる質問の1つですが、私が迷わず回答することが1つあります。

 それは、「自分の意見を主張すること」です。

 理由は、自分の存在意義をアピールできる方法の1つだからです。アメリカの会社ではとくにそれが必要になります。

「アメリカ人は陽気で明るい」というイメージを持っている人が多いようですが、それは半分正解で半分間違いだと思います。確かにプライベートな時間や会社での雑談などではイメージ通りですが、ビジネスの場ではきわめて冷たくドライな一面を垣間見せる人が少なくありません。

 ただし、全ての人にそのような態度を取っているわけではありません。一部の限られた人にそういう態度をとるのです。

 どのような人に冷たく接しているのか観察していると、1つの共通項が見えてきました。それは、「会議や議論の場で自分の意見を主張しない人」に対してでした(心なしか日本人は冷たくされていた人が多かったように感じます)。

なぜ自分の意見を主張する必要があるのか

 知り合いのアメリカ人がこんなことを言っていました。「アメリカでは、何も言わないということは、何も考えていないとみなされる」──。

 会社でもそれが当てはまります。何も言わない人は、自分の考えがなく、オーナーシップ(主体性)やモチベーションがないとされ、モチベーションがない人は会社にいる意味がないとみなされます。ビジネス上では存在価値がないということです。

 なぜ、そのような考え方をするのかというと、アメリカの教育スタイルが影響しているようです。詳しい説明は教育の専門家に譲りますが、アメリカの教育現場では一般的に「対話方式の授業スタイル」が導入されています。「ソクラテス方式」とも呼ばれ、教師が生徒に対して問題提起を行い、その問いに対して生徒が議論するという形式です。この授業スタイルでは、議論への参加度や貢献度で生徒の評価が決まります。アメリカ人にとって議論に参加しないということは、評価を受けるのを放棄するということに等しいのです。

 ビジネスの場では、自分の主張をしないでいると、「やる気がない人に真剣に話をしても無駄」と相手にされなくなってしまいます。何も言わない人は、テストの回答欄を白紙で提出しているようなものです。問題外ですよね。

「正しい英語」でなくても問題ではない

 私は渡米当初、会社で自分の意見を主張することができませんでした。案の定、私には「何も考えてない、何も分かってない日本人」という評価が下されました。周囲のアメリカ人の冷たさに何度も心が折れたことを今でも覚えています。

 しかし私が自分の意見を主張できなかったのは、自分に意見がなかったからではありません。自分の意見をどのように英語で表現していいか分からなかったのです。自分の英語が正しいのかどうか自信がなく、発言できなかったことが原因でした。

 そんな悶々とした日々が数カ月続いたのですが、ある日、自分の意識が大きく変わる出来事がありました。

 ある会議で南米(ベネズエラ)出身の同僚と一緒になりました。彼のプレゼンテーションをベースに議論をする会議だったので、彼がファシリテーションを行うことになりました。彼の英語の発音はスペイン語訛りが強くて非常に聞き取りづらく、文法も、私が聞いていても明らかに誤りがあることに気付くレベルでした。はっきり言ってネイティブの英語とは程遠いものでした。

 しかし、会議に参加していたアメリカ人は、彼の英語の拙さをまったく意に介さないのです。何事もないかのように彼らは議論に参加し、会議は円滑に進みました。最終的にゴールとなる結論が導き出され、みんなが満足する生産的な会議となりました。

 彼のそんなファシリテーションを目の当たりにして、私は英語に対する考え方が変わりました。

 私が学んだのは、アメリカ人とのコミュニケーションは伝える内容が最も大事であり、発音や文法の正確性は二の次だということです。伝える中身があってこその英語力なのです。自分の考えを持つこと、そして、とにかくそれを口に出して自信をもって伝えることが、最初のステップだということを痛感しました。

自分の中で決めた1つのルール

 もちろん、すぐにそれができるようになるわけではありません。

 正確さは必要ないとはいえ、急にスラスラと英語が出てくるようにはなりません。自分の意見をどう表現すればいいのかやはり戸惑い、躊躇してしまいます。

 そこで私は、自分の中で1つのルールを決めました。それは「とにかく、その場で一番初めに発言する」ことです。

 アメリカ人の同士で議論が盛り上がっている中に割って入るのは、相当な度胸を要します。だから途中から加わるのではなく、自分がテーマを立てて、議論をリードするのです。会議などでは、まず自分が口を開いて何を考えているのかを周囲に伝え、そこからメンバーに議論を始めてもらうようにしました。

 すると、自分で議論の流れを作ることができるので、不思議と周囲の発言内容がよく理解できるようになります。理解が進むと自分が何を主張するべきかも分かり、発言の回数が自然と増えました。

 自分の意見をどんどん主張するようになると、周囲のアメリカ人の私に対する態度が変わり出しました。以前まではどこか冷たかった態度が、次第に好意的で親しげな態度に変わってきたのです。おそらく私の存在意義を徐々に認め始めてくれたのだと思います。

 アメリカのビジネスマンは、もしもあなたのことをリスペクトできないと、そのことを態度にはっきりと表します。しかし、一度あなたの価値を認めれば、良き同僚として接してくれます。今後、アメリカで仕事する機会があったら、ぜひ心に留めておいていただきたいと思います。

(その1)
「米国人の上司へのゴマすりは、手加減一切なしだった」

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57211
(その2)
「米国企業でも水と油だった『転職組とプロパー社員』」

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57258

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  米国人の上司へのゴマすりは、手加減一切なしだった

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