高校放送部の全国大会「第66回NHK杯全国高校放送コンテスト」の決勝大会が、7月25日に東京・渋谷のNHKホールで開催されました。ラジオドキュメント部門で優勝したのは兵庫県立東播磨高校。放送部副部長でチームを率いた大館燎太くんに、作品作りで苦労した点などを伺いました。

優勝作品のテーマは『ダイナミックルーキー』

NHK杯全国高校放送コンテスト」は、高校生を対象とした校内放送の全国大会で、アナウンス部門・朗読部門・ラジオドキュメント部門・テレビドキュメント部門・創作ラジオドラマ部門・創作テレビドラマ部門の6部門ごとに争われます。出場校は地区大会を経て、3日間(準々決勝・準決勝・決勝)の本大会を戦います。

ラジオドキュメントとは、音だけで表現されたドキュメンタリー番組のこと。ネタ探しからインタビューの実施、ナレーション、編集制作など全ての工程を高校生が自分たちで行います。
審査員を務めた小説家湊かなえさんは、ラジオドキュメント部門を評価する上で「映像では補えない情報にどのように触れているか」を重視したそうです。
そんな中で優勝したのは兵庫県立東播磨高校。作品として提出された番組のタイトルは『ダイナミックルーキー』。

ダイナミックルーキーとは、同校の卒業生で、野球部の元エース福村悠渡くんのこと。父親は同校野球部の名監督。そのプレッシャーに悩んでいた悠渡くんが、苦しみながらも最後の夏、甲子園地方大会のマウンドに立ったこと。自身の失点を取り返せず2回戦で敗退してしまったこと。監督として父として、悠渡くんと同じくらい悩んでいたお父さんの思いなどが、インタビューやナレーションを通して伝えられます。
メインで使われた歌『ダイナミック琉球』の他、大きな場面転換のたびに雰囲気に合った音楽が流れるなどの工夫も凝らされていました。

“音”だけで伝えなければいけない大変さ

―― 優勝された感想をお聞かせください。

どの高校も頂点を目指して番組を作っていると思いますが、優勝できるのは1校だけ。呉三津田高校さんのように毎年決勝に上がっているような強豪校もいましたし、難しい戦いでした。
優勝できたことは本当にうれしいです。今回の番組制作で取材をさせていただいた方や、一緒にやってきた部のメンバーにも感謝でいっぱいです。

―― 優勝した一番の要因は何だと思いますか?

あくまでも僕の分析になってしまいですが……今回決勝に上がった4校のうち、“音楽”を入れたのはうちだけでした。もちろんBGMはどの高校も使っているのですが、歌や楽器演奏を使ったのは決勝ではうちの高校だけ。
ラジオドキュメントは音だけで伝えないといけません。また、講評にもあったようにラジオじゃないといけない理由も求められます。僕たちも十分ではなかったと思いますが、その中でも“音楽”という点で違いを出せたのが勝因になったのかなと思いました。
もちろんネタが良かったのも大きな要因でした。

いいネタを見つけるのは簡単じゃない

―― 今回のテーマ『ダイナミックルーキー』のネタはどのように発掘したのでしょうか?

校内の先生から提供していただき、詳しく話を聞いたらいろいろな情報が出てきて。「これはネタになりそうだ」と感じ、顧問の先生とも相談して決めました。
いいネタを見つけるのって簡単じゃありません。普段から地元紙を読んだり、高校生活の中で不思議だなと思ったことなど、身近なところから幅広く探っています。本当にネタになるのかな?と思うものでも調べたら意外な発見があったりします。今回も多いときで80個くらいのネタ候補がありました。


―― ネタになるかどうかを見極める段階にも難しさがあるのでは?

はい。実際の関係者に事前に話を聞いてしまうと、本番のインタビューが淡々とした感じになってしまいますからね。今回の場合は、他の野球部員や事情を知る周辺の人たちに話を聞きましたが、それもできれば避けたいくらい、ネタの見極めには慎重さが求められます。


―― 一つのラジオドキュメント番組を作るのにどれくらいの期間がかかりますか?

ネタ出しの期間も含めて5カ月くらいですね。学校の勉強もしながらなのであっという間です。
時間の配分としては、ネタ出しに半月、インタビューに2〜3カ月、編集に2カ月くらい。インタビューに一番時間がかかりますね。

ここでコケるわけにはいかない

―― 一番苦労したことは何ですか?

堅苦しいインタビューにならないようにというのと、やはり練習の邪魔をしてはいけないので、こちらから訪問したのですが……夏場のグラウンドは暑くて大変でしたね。
録音するときには野外の雑音にも悩まされました。野球の練習音ぐらいはいいのですが、足音や風の音などが入ってしまうと……後で編集するときに消す作業がすごく大変でした。
編集の工程においては、何度も聞き直して細かい改善もしていきます。今回はたくさんの方にインタビューしたので、それぞれをどの場面で使うのがベストなのか、BGMはどこで使うのがいいのか、何度も練り直しました。


―― 大会全体を通した感想を教えてください。

僕は3年生なので今日で引退です。2年半の部活動人生の最後の舞台でした。去年も一昨年もこの場に来ていますが、ラジオドキュメント部門に関してはいつも準決勝止まり。あと一歩という、はがゆい思いをしていました。今年こそは決勝の舞台に上がりたい。そのためには準々決勝や準決勝でコケるわけにはいかないという強い思いがありました。
番組はもう出来上がっちゃっているので、ここに来て何をするわけでもないのですが、ただプレッシャーだけがあるという状態は余計につらかったですね。怖かったです。それでも、一つ一つ勝ち上がる度に「やってやったぞ!」という喜びと、とにかく安心感ですね。それを積み重ねて今、優勝トロフィーを手にすることができ、大きな安堵に包まれています。



撮った音声から雑音だけを消していく作業の大変さは、想像を絶するものがありますね……! 東播磨高校の作品からは、試合の緊張感や登場人物の感情・表情も伝わってきました。優勝作品はNHK-FMでも放送される予定があるそうです。皆さんも機会があればぜひ聞いてみてはいかがでしょうか。


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