高校生にバイクの「免許を取らせない・買わせない・乗せない」とする、いわゆる「3ない運動」が各地で見直されています。その運動の急先鋒と見られていた埼玉県でも、2019年4月から、38年ぶりに高校生の免許取得などが認められました。

関東最後の「3ない運動」展開県、方針転換

埼玉県で2019年4月から、高校生によるバイクの免許取得や購入が全面的に「解禁」されました。同県は1980年代から、高校生に原則としてバイクの「免許を取らせない・買わせない・乗せない」を掲げた、いわゆる「3ない運動」を展開し、かつては「高校生活にバイクは不要」と大書したチラシを高校の入学説明会で配るなどしていました。もちろん、学校ごとに方針は異なりますが、県として生徒の免許取得・購入・乗車を認めないという方針を撤回したのです。

埼玉県の「3ない運動」は、1981(昭和56)年、交通事故の増加や暴走族の問題を受けて制定された「自動二輪車等による事故・暴走行為等防止指導要項」に基づき展開されていたものです。翌年には全国高等学校PTA連合会の決議により、「3ない運動」は全国へ広がりました。しかし、その後は各都道府県で運動の見直しが進み、2015年度に群馬県が方針を転換して以降、関東では埼玉県が最後まで「3ない運動」を展開していました。

「これまで、通学が困難であるなど特別な事情を除き、生徒が学校に無許可でバイクの免許を取得することなどを『問題行動』として、指導の対象としてきました」(埼玉県教育局 保健体育課)

2019年4月からの新制度では、生徒のバイク免許取得などに際し、学校への書面での届け出、生徒と保護者、学校による3者面談の実施、県教育委員会で年6回実施する交通安全講習の受講を促すことなどを条件に、これを認めることとなりました。つまり、無条件での「バイク解禁」ではなく、交通社会の一員となる自覚や、交通事故のリスクなどを認識させる必要性があるとしており、学校によっては引き続きバイク通学や、バイクのふたり乗りを禁止しています。

この方針転換について埼玉県教育局は、「3ない運動」が高校生のバイク事故や暴走行為の抑制に貢献してきたことを認めつつも、暴走族の減少や、選挙年齢の18歳への引き下げにも見られる「自主自立」を主とした教育理念の展開など、高校生を取り巻く環境が変化していることを理由に挙げています。

根強い「3ない運動」、見直しなぜ進む?

日本自動車工業会(東京都港区)によると、2016年時点において生徒の原付免許取得を禁止している全日制高校は全国の約半数、普通自動二輪免許の取得禁止にいたっては8割を超えていたそうです。こうした禁止規則は、昭和50年代以来の「3ない運動」が現在も継続しているものだといいます。

しかし、埼玉県に続き三重県などでも、2019年7月現在において「3ない運動」の見直しが議論されています。高校生の交通安全講習などを実施している日本二輪車普及安全協会(東京都豊島区)は、その背景を次のように話します。

「全国的に高校の統廃合が進み、通学範囲が拡大しているという事情もありますが、結局、禁止されていても学校に黙って免許を取得し、事故を起こす生徒が一定数いるわけです。そうした状況を野放しにしていいのか、生徒をバイクから遠ざけるのではなく、適切な安全教育を行うべきではないか、という議論があります」(日本二輪車普及安全協会)

国の「第10次交通安全基本計画」においても、高校生への二輪車の実技指導を含む交通安全教育の充実を図る方針が打ち出されているものの、生徒の免許取得を禁止している高校では、このような安全運転教育がなされていないといいます。日本二輪車普及安全協会と日本自動車工業会はパンフレットで、「高校生年代への安全運転教育は、生涯教育の観点から、生徒の卒業後の人生においてもたいへん有益なもの」としています。

原付通学を認めている高校の通学風景(画像:日本自動車工業会)。