Credits: NASA/DOE/Fermi LAT Collaboration

Point

NASAフェルガンマ線宇宙望遠鏡が撮影した、月の映像が公開された

ガンマ線放射で見た場合、月は太陽よりも明るく輝いて見える

ガンマ線は非常にエネルギーの高い放射線のため、この事実は月面有人探査における被爆の危険性を示唆するものでもある

満ち欠けをしながら幻想的に輝く月、それは可視光で見た場合の月の姿に過ぎません。

ガンマ線で月を見た場合、なんとその姿は満ち欠けすることもなく太陽より明るく輝いているのです。

NASAフェルガンマ線宇宙望遠鏡ガンマ線で宇宙を観測する望遠鏡です。そんなフェル望遠鏡を通して見た月の姿が、8月15日付けでNASAのホームページ上に公開されています。

ガンマ線で輝く月

フェルガンマ線宇宙望遠鏡で撮影した月の映像。2ヶ月から128ヶ月の露出時間で撮影されている。/Credits: NASA/DOE/Fermi LAT Collaboration

フェル望遠鏡の画像では、月の細かい形状や表面の様子を見ることはできませんが、ガンマ線で明るく輝く様子が映し出されています。

月の放つガンマ線は3100万eV(電子ボルト)と計測されています。これは可視光と比べて数千万倍高いエネルギーです。

ガンマ線は最も波長の短い光で、X線よりもエネルギーの高い放射線です。

可視光の外側の波長のため、直接目で見ることはできません。

Credit:Photonてらす

月がこうしたガンマ線のまばゆい光を放つ理由は、宇宙線と関係があります。

宇宙線は宇宙空間をほぼ光速で移動する高エネルギー粒子です。これが月の表面に堆積した砂「レゴリス」に衝突すると、ガンマ線が放射されるのです。

こうした作用は太陽でも起こります。しかし、宇宙線は主に陽子や電子などの帯電した粒子のため、強い磁場を帯びた太陽のような天体へはほとんど届きません。

月には磁場が無いため、大量の宇宙線が降り注ぎ、結果太陽より明るく輝くことになるのです。

もちろんエネルギーの高い宇宙線なら、太陽の磁場を突き抜けて取り巻くガスまで到達します。その場合、太陽は10億eVにも達するガンマ線を放射すると言います。

このときは、太陽のほうが月より遥かに明るいガンマ線の輝きを見せるそうです。

さすが太陽。

まっすぐ進む光(ピンクの線)に対して、帯電した宇宙線(青い線)は磁場の影響で曲りくねる。/Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center

ちなみに宇宙線は上の図のように真っ直ぐ進まないため、放射の原因がはっきり特定できていません。

現在の予想では、超新星爆発や、巨大な物質を吸い込んだブラックホールジェット噴射が放射源とされています。

危険なガンマ線

太陽より明るく輝く月、というワードはなかなかに魅力的ではありますが、これは別に良いニュースというわけではありません。

ガンマ線は危険な放射線であり、人にとっては非常に有害なものです。

広島に投下された原爆では、爆発の熱量以外にも、白血病や癌などの放射線障害の被害が数多く報告されましたが、こうした被害をもたらした原因は、原爆の原子崩壊によって放射された中性子線とガンマ線なのです。

Credit:電気事業連合会

ガンマ線は放射線の中でも特に強力で、あらゆる物質を貫通してしまいます。重い元素に吸収される性質があるため、鉛や鉄などが有効とされますが、10分の1にエネルギーを減衰させるにも4cm近い厚さの鉛が必要になります。

ちなみに中性子線はガンマ線より貫通力が高いですが、水素に影響されやすいため水で遮蔽することができます。

現在NASAは2024年に予定されている有人月探査プロジェクト、アルテミス計画を進行中ですが、月がこれだけのガンマ線を放射しているとなると、月へ行く宇宙飛行士にはかなりの放射線被爆リスクがあります。

そのため、今後の月探査には大量のガンマ線に備えた対策を考える必要があるようです。

宇宙には人体に有害な放射線に満ちているということは、すでに常識となっていますが、月がこれほどのガンマ線の宝庫では、月で暮らすというSF的な夢さえ、ちょっと考えものだなという気がしてしまいますね。

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reference:NASA/ written by KAIN
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