東京メトロ東京大学 生産技術研究所(以下、東大生研)は8月2日、中高生を対象にした「鉄道ワークショップ」を開催。

 2013年から毎年1つのテーマを深く掘り下げるカタチで講義が行なわれており、2019年テーマは「電車モーター」だ。

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ワークショップ 過去の開催テーマ(図版作成/筆者)

鉄道ワークショップとは?

 東大生研の川越至桜(しおう)准教授によると、2011年6月にONGOffice for the Next Generation:次世代育成オフィス)が設立されてすぐに、東京メトロなどの協力を得て、埼玉県の高校で出張授業が行なわれたという。

「そのときの講義や実験の内容というのが、“もっと広くできるといいですね”というところから始まりまして、ほかの高校で連続講座を東京メトロさんの見学と出張授業をパッケージしたようなものを何回か経て、そして、2013年に(鉄道ワークショップとして)カタチになった」(川越氏)

 現在、鉄道ワークショップは毎年1・2月に開催日のメドを立て、公募のプレスリリースを5月半ばに行なうという。

 そして、東京メトロ広報部サステナビリティ推進室の森久人課長補佐は「中高生を対象に公募を行ない、課題作文を提出したあと、各25人を選抜する」と語る。2019年は中高生とも各40人の応募があったそうだ。

ワークショップ会場「中野車両基地」

 今回の鉄道ワークショップは、東京メトロ中野車両基地と東大生研で開催。メディアが取材したのは中学生クラスで、午前は前者、午後は後者で講義を受ける。一方、高校生クラスはその逆だ。

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中野車両基地の会議室は、報道公開のブリーフィングにも使われている
 鉄道ワークショップ10時から始まり、中野車両基地の会議室で、中学生25人(男子22人、女子3人)のグループ分け、および概要の説明が行なわれる。

 中野車両基地について説明すると、中野車両管理所、中野工場、中野検車区が集う。詳細は下記の通り。

○中野車両管理所
 銀座線丸ノ内線の車両の検修計画、部品などの調達、お金の管理、車両技術の調査研究、技術開発および車両故障の対応を行なう。また、中野車両基地にある施設の新設、改良、保守も行なう。

○中野工場
 銀座線丸ノ内線の車両の全般検査(8年ごとに実施)、重要部検査(4年ごとに実施)を行なう。

○中野検車区
 丸ノ内線の車両の月検査(3か月ごとに実施)、列車検査(10日ごとに実施)、車体外板と車内の清掃、乗り心地の悪化を防ぐため車輪を削正する作業を行なう。また、中野車両基地での車両の運転も行なわれている。

中野工場で「電車モーター」などを見学

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中野工場で02系第12編成が全般検査中
 中野工場へ入ると、丸ノ内線02系第12編成が全般検査を受けていた。車体は「馬」と呼ばれる台に載せられ、台車は切り離しの上、別の場所へ移っていた。

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2号車の台車に装架された主電動機
 02系は電動車(モーターつきの車両)3両、付随車(モーターなしの車両)3両の6両編成で、前者の台車に主電動機が2台装架されている。台車は1両につき2つ取りつけるので、計4台装架され、電車を動かす力となる。

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台車の部品
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写真の車輪と車軸は、摩擦を小さくするため、ギアケースに油を注ぐ作業を行なう
 台車のほかの部品については分解され、1つひとつ念入りに検査するほか、エアで埃(ほこり)を除去、洗浄し、綺麗な状態に整備する。中野工場には部品用の洗浄機があり、当該編成すべての台車を洗うだけで6時間も要するという。また、大掛かりな検査の場合、台車は1度分解すると、行程ののち車体に取りつけるまで9日間もかかる。

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主電動機の模型
 その後、係員が主電動機の模型を使い、電車を動かす仕組みを説明した。模型の主電動機は2018年まで使われていた直流モーターで、見る限り、営団地下鉄時代の旧式省エネ車両として君臨したチョッパ制御のようだ。

事故の部品も公開。今後の教訓に

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片側の車輪に大きな傷
 特筆すべきなのは、事故の車輪と車軸などを公開したこと。以前、当該台車のギアが回らなくなり、ほかの車両に引っ張られたことで、ピニオンベアリング破損が発生したという。2度とこのような事故が起こらないよう、「しっかり整備しましょう」という意味の教訓として残している。

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銀座線1000系は一般車38編成、特別仕様車2編成の布陣
 02系第12編成の隣では、銀座線1000系第28編成が重要部検査を受けていた。1000系量産車(第2編成以降)は2013年度11編成、2014年度8編成、2015年度11編成、2016年度9編成が増備されており、重要部検査の真っ只中である。

東大生研でモーターを使った実験

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場所を変え、午後の講義へ
 参加者とメディアらは東大生研に移動し、昼食後、午後の前半の講義に臨む。ここで興味深いのは「モータ」という単語だ。記事では「モーター」と書かせているが、東大生研が配布したテキストでは「モータ」を用いている。

 川越准教授によると「JIS(日本産業規格)では単語の語尾に伸ばし棒( ー のこと)を書かないルールがある」という。例えばデーターは「データ」、コンピューターは「コンピュータ」、アクチュエーターは「アクチュエータ」と書く。無論、どちらを書いても問題はない。

 さて、モーターとは、磁力の反発、吸引の力で回転力を生成させるもので、制御用のアクチュエーターとして非常に優れた回転特性を持つ。

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キットを使い、直流電動モーターを回転させる実験
 ここで東大生研が用意したキット(本体、フェライト磁石、リード線)と単1乾電池を使い、直流電源に端子をつなげてコイルを回転させる実験を行なう。+側にN極がセットされると、コイル時計回りに回転した。

 次は「電車を早く走らせるためには、どうすればよいか?」の考察に入る。

 東大生研は走行時間と電流の関係を調べるため、鉄道模型を用意し、電車が1周するのにかかる時間を低速、中速、高速の順に1人ずつ計測。速さ、電流を測るだけではなく、速さと電流の関係、車輪と電流の関係をグラフにまとめる。

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16000系模型の中間車
 実験に用意された模型車両は、Aグループ02系中間車1両、B・Dグループ16000系中間車1両、Cグループ10000系先頭車+中間車=2両。Cグループを除き、運転台のない中間車が自走するのは、模型ならではのシュールな光景だ。

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キハ110221の模型モーターを覗く
 実験前には、センターに展示されているキハ110221(実車はJR東日本ディーゼルカー)の床下機器を参加者に見せる。床下のモーターが動く姿を見てもらうため、台の一部をアクリルにしている。参加者は食い入るような視線でモーターに注目していた。

鉄道
実験中の様子
 当初実験時間は30分間の予定だったが、各グループはグラフの作成に手間取り、予定時間を10分オーバーしてレポート発表の運びとなった。

電車は直流モーターから交流モーターの時代

 午後の後半は電車モーターの進化について講義を受ける。記事では講義のテキストと私の補足を入れてお伝えしよう。

東武鉄道
直流モーターと抵抗器を搭載した現役車両のひとつ「東武鉄道6050系」
 昔の電車は直流モーターが使われ、抵抗器を組み合わせた抵抗制御が主流だった。モーターの出力は抵抗器で調整し、熱にして外へ放出する。しかし、放熱によってエネルギーがムダになってしまうほか、ノイズの発生、モーターが大きくメンテナンスが複雑という難点もあった。特に地下鉄では車両の放熱により、トンネル内の気温が上昇してしまうこともあった。

鉄道
省エネ車両の嚆矢(こうし)となった東京メトロ6000系。写真のハイフン車(1次試作車)は、のちに抵抗制御に換装された
 1968年に世界初の電機子チョッパ制御を採用した営団地下鉄6000系が登場。超高速でスイッチをオンオフして電流を制御するので、消費電力を低減した。その後、界磁チョッパ制御、高周波分巻チョッパ制御などが実用化され、省エネ車両として私鉄や地下鉄を中心に普及した。

 しかし、引き続き直流モーターを使うため、メンテナンスに手間がかかっていた。

 それを解消したのが交流モーターだ。構造がシンプルで耐久性もあり、エネルギーも高効率。ただ、交流電流の精密な制御が必要であること、コイルに流す交流電流の周波数、大きさ、コイル間で時間差を作らなければならない欠点があった。

鉄道
21世紀に入ると、VVVFインバータ制御全盛の時代
 省エネ車両のチョッパ制御に代わる新しい省エネ車両(環境配慮型車両)として、交流モーターを用いたVVVFインバータ制御が1982年熊本市交通局8200形で実用化。21世紀に入ると、新型電車はVVVFインバータ制御がスタンダード化したほか、交流モーターも進化し、永久磁石同期電動機が開発された。

 これにより、エネルギーの使用効率が向上。発熱が抑えられるほか、モーターの密閉構造化により、低騒音化やメンテナンスの負担がさら軽減された。

東京メトロの省エネ化は駅の照明などにも

 東京メトロの営業車両は2014年回生ブレーキつきに統一。

 モーターが発電機の役割を兼ねるもので、発電された電気が架線や第3軌条に戻されるほか、電力を必要とするほかの電車に送ることもできる。また、南北線の車両では駅の設備にも利用され、電気が効率よく使われている。

鉄道
東京メトロのチョッパ制御車両は、03系第12編成を最後に全廃
 そして、2018年VVVFインバータ制御に統一。同じ制御装置でも技術の進歩により、走行時の消費電力や二酸化炭素の排出量も低減された。省エネ鉄道車両だけではなく、駅の設備にも導入されており、照明のLED化や太陽光発電システムの採用など、多岐におよぶ。

鉄道
“夏季講習”、修了式の様子
 すべての講義が終わり、修了式、集合写真撮影、交流会が行なわれ、17時頃に終了した。

【取材協力:東京地下鉄東京大学 生産技術研究所】

<取材・文/岸田法眼>

【岸田法眼】

レイルウェイライター。「Yahoo! セカンドライフ」の選抜サポーターに抜擢され、2007年ライターデビュー。以降、ムック『鉄道のテクノロジー』(三栄書房)『鉄道ファン』(交友社)や、ウェブサイトWEBRONZA」(朝日新聞社)などに執筆。また、好角家の側面を持つ。著書に『波瀾万丈の車両』(アルファベータブックス刊)がある

銀座線1000系は一般車38編成、特別仕様車2編成の布陣