消費税の撤廃などを訴えた「れいわ新選組」が参院選で約230万票を獲得したことから、同党が経済政策として掲げるMMT現代貨幣理論)が大きな注目を集めている。MMTが異端の経済学とされているせいか、推進する人も反対する人も異様なまでに感情的であり、本当のところどのような理論なのか客観的に紹介されるケースは少ない。以下では可能な限り、分かりやすくMMTについて解説してみたい。

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●限界指摘されてきた既存の財政施策

 MMTは、ニューヨーク州立大学のステファニーケルトン教授らが提唱している経済理論で、主流派の経済学とはかなり趣が異なっている。ごく簡単に説明すると、自国通貨建てであればインフレが発生するまで財政出動が可能という理屈である。

 まず経済理論にあまり詳しくない人のために、経済政策のイロハについて説明しておこう。

 経済政策に関する議論では、いろいろと小難しい理屈がやりとりされており、こうした難解に聞こえる話で煙に巻こうとする識者もいるのだが、景気を良くするための方策は基本的に3つしかない。

 1つ目は政府が公共事業などを行って景気を刺激する「財政政策」、2つ目は金利を引き下げることで銀行の貸し出し増加を狙う「金融政策」、そして、3つ目は、経済の仕組みを変え、自発的にマネーが回り出すよう促す「規制緩和(構造改革)」である。どんなに複雑に見える経済政策であっても、基本的はこれら3つの組み合わせになっているので、ぜひ覚えておいてほしい。

 戦後の経済政策の中心となってきたのはケインズ経済学ベースにした財政出動である。具体的には国債を発行して政府が資金を調達し、財政出動で景気を刺激するというものである。ところが、1990年代に入って財政出動の効果が低下し、財政政策の限界が指摘されるようになってきた。

 特に小渕政権時代には、大型の財政出動をやり過ぎた結果、日本政府が抱える負債が急激に増大した。主流派経済学では、過度な政府債務は金利の上昇を招き、民間の設備投資を抑制するなどの弊害があるため、リスク要因と認識されている。

 こうした状況から小泉政権は財政出動に頼るのをやめ、産業構造そのものを改革することで経済を活性化しようとした。これがいわゆる構造改革だが、この実施には多くの痛みが伴うため、国民が猛反発。結局、小泉改革は途中で頓挫してしまった。

●「即効性」期待できるMMT

 財政の効果が薄い場合には、金利を引き下げるといった金融政策が効果的だが、日本の場合には長期デフレが続き、金利が著しく低下したため、金融政策の効果も期待できなくなった。そこで登場してきたのが、市場にインフレ期待が生じるまでマネーを大量供給し、実質金利をさらに引き下げるという量的緩和策である。

 量的緩和策は金融政策を強化した劇薬とも呼べる政策だが、残念ながら日本では大きな成果を出すことができなかった。日銀が供給したマネーのほとんどは日銀当座預金に積み上がったままで市場に出回らなかったからである。

 つまり財政をやってもダメ、金融政策(量的緩和策)をやってもダメ、構造改革は途中で頓挫、という状況で登場してきたのがこのMMTである。

 MMTは、金融政策ではなく、政府支出の増加で景気を刺激するという点では財政政策の一種である。だが、政府支出の財源は、中央銀行が発行した大量の紙幣なので、その点では量的緩和策にも通じるところがある。

 だが、量的緩和策の場合、銀行にいくらマネーを供給しても、民間が自発的にマネーを使わない限り、GDP(国内総生産)は増えない。実際、日本では危険水域に近い水準までマネーを供給したが、成長率は低迷したままだ。

 一方MMTの場合、政府が支出した分はそのままGDPにカウントされることに加え、そのお金はほぼ全額、国民の誰かの手に渡ることになるので、かなりの即効性が期待できる。もし日本でMMTを実施すれば、名目GDPは確実に急拡大するだろう。

●やはり根強いインフレへの懸念

 MMTに対しては、各方面から厳しい批判が寄せられているが、その批判の多くはインフレ懸念に集中している。日本はデフレが続いているので、MMTを実施してもインフレにはならないとの意見もあるがそれは違う。MMTの提唱者であるケルトン氏も、財政出動をやり続ければインフレになる可能性について言及している。

 MMTでは、実際にインフレが始まった場合には、財政出動を止めることでインフレコントロールするとされており、れいわ新選組も、インフレ率が2%を超えた場合には、財政出動を止めると説明している。

れいわ新選組支持の低所得者に打撃

 確かにインフレ率が一定水準を超えた場合、財政出動を停止したり、金利を引き上げたりすれば、インフレコントロールすることは可能だろう。だが、現実には、インフレが始まってから、これを抑制するのは簡単なことではない。

 れいわ新選組公務員の大増員、最低賃金1500円、奨学金の政府による肩代わり、農家の所得補償、公共事業の大幅な拡大といった巨額の財政支出を、消費税を廃止した上で実施するとしており、れいわ政権下では多くの国民が政府支出に頼って生活することになる。ここでインフレ率が2%に達した場合、これらの支出が一気に削減されることになり、低所得者の生活を直撃する可能性がある。

 れいわの主な支持者は低所得者層になると考えられるので、インフレを止めるためには、れいわの主な支持層を敵に回す必要が出てくる。ベネズエラアルゼンチンなど、インフレを止められない国は多いが、その理由のほとんどは、財政出をやめてしまうと、政権の支持者を失ってしまうからである。

 MMTを実施すれば、経済は成長する可能性が高いので、それなりの効果が期待できるのは間違いない。だがその後の制御は極めて難しく、インフレが止められなくなる可能性は高いだろう。インフレが進むと、賃上げよりも先に物価が上がるので、庶民の生活は限りなく苦しくなる(インフレが発生した時の庶民の苦しさはデフレの比ではない)。このあたりの可能性についてどう考えるのかが、MMTについて議論する上でのポイントとなりそうだ。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家

【画像】れいわ新選組も提唱した「MMT」