時は幕末。京都の街を闊歩した新選組(しんせんぐみ)は、尊皇攘夷を掲げて幕府を補佐する「佐幕派」の急先鋒として不逞浪士は元より、倒幕を目論む薩摩・長州藩士など「開国派」の暗殺・粛清に活躍したことで知られています。

しかし、新選組は身分や出自を問わず幅広く人材を求めたことから、その思想面において必ずしも一枚岩ではなかったようです。

今回はそんな一人・三浦啓之助(みうら けいのすけ)の生涯を紹介していきたいと思います。

佐久間象山、Wikipediaより。

啓之助は開国派の洋学者として知られる佐久間象山(さくま しょうざん)の庶子として、嘉永元1848年11月11日に誕生(母親は愛妾・お蝶)。初名を佐久間恪二郎(かくじろう)と言いました。

そんな恪二郎は元治元1864年17歳で父・象山に随行して故郷である信州松代藩(現:長野県長野市松代町)から上洛します。

父の仇討ちで新選組に入隊!

しかし同年7月11日、象山が京都の三条木屋町で「人斬り彦斎」こと河上彦斎(かわかみ げんさい)らの襲撃に遭い、暗殺されてしまいました。

「父上っ!」

河上彦斎Wikipediaより。

(※ちなみに、彦斎は元から象山を斬る予定ではなかったものの、「汚らわしい西洋の鞍を載せた馬で神聖な京都の地を闊歩していたから」というかなり過激な動機による場当たり的な犯行だったそうです)

正式な後継ぎを定めていなかったため、佐久間家は断絶。悲しみに暮れる恪二郎を奮い立たせようと、象山の弟子であった山本覚馬やまもと かくま)が仇討ちを勧めますが、なにぶん相手は泣く子も黙る「人斬り彦斎」とあって、なかなか決心がつきません。

そこでとりあえず、剣客集団として知られた新選組に入隊すれば、もしかしたら助太刀くらいは恃めるかも知れない……と思ったかどうかはともかく、恪二郎は屯所の門を叩きました。

「似合うかい?」新選組に入隊した恪二郎(イメージ)。

攘夷派が多い新選組の中で、開国派であった佐久間象山の息子だとあまり知られたくない事情から、名字を義母(勝海舟の妹・順)の「三浦」に変え、名前も父親の諱(いみな。本名)である啓(ひらき)を冠して「啓之助」と改め、ここに恪二郎は三浦啓之助となったのでした。

周囲の懸念もどこ吹く風……頭を抱える土方歳三

「お父上の仇討ちとは誠に孝心の至り……よろしい!この近藤勇、喜んで啓之助殿に御助力致そう!」

事情を聴いた新選組の局長・近藤勇(こんどう いさみ)は、啓之助の心意気に打たれて彼の入隊を大歓迎。さっそく側近の一人に加え、平隊士でありながら何かにつけて優遇したそうです。

しかし、これを憂慮したのが啓之助の義伯父に当たる勝海舟(かつ かいしゅう

勝海舟Wikipediaより。

「おぃ恪二郎……いや啓之助。大丈夫かい?いくら仇討ちだからって、何もつるむに事欠いて攘夷派の新選組てなぁ、親爺と思想的に真逆じゃねぇかよ」

同じ頃、京都所司代を務めていた桑名藩主・松平定敬まつだいら さだあき)も、松代藩主に対して象山の死による佐久間家の断絶処分を見直し、啓之助を国元へ呼び戻すよう打診しています。それだけ心配されていたのでしょう。

また、新選組の内部でも(啓之助が象山の息子である)事情を知っている副長の土方歳三(ひじかた としぞう)や一番組長の沖田総司(おきた そうじ)らが、啓之助の父親譲りの性格で上手くやっていけるか心配しており、実際に啓之助は傲慢な言動で周囲の反感を買っていたようです。

お前らなど、しょせん剣術や腕っぷしばかりの乱暴者……新しい日本国の未来は、剣術ではなく頭脳で切り拓くものさ……」

だったらその頭脳とやらで父親の仇を討ってみろ!……と言いたいところですが、局長である近藤勇が啓之助をことに可愛がるものですから、滅多な手出しは出来ません。

「まったく、近藤さんは器が大きすぎると言うか、人が好過ぎると言うか……」

そんな啓之助の素行がより悪化したのは、慶応元1865年に入隊した諸士取調役兼監察の芦谷昇(あしや のぼる)とつるみ出したのがキッカケのようです。

こりゃどう見ても、父親の仇討ちなんて忘れている……あまりの乱暴狼藉にとうとう愛想を尽かした土方は、啓之助を呼び出して松代に帰藩するよう説得しています。

だめだこりゃ」啓之助に愛想を尽かした土方歳三イメージ

「啓之助殿。御父上の仇である河上彦斎も、今や京都を離れて長州に身を投じた様子……ここは一度、帰郷して様子を見てはどうだろうか」

しかし啓之助は「松代の片田舎に帰ったところで面白くない」とでも思ったか、これを拒絶。近藤局長のお気に入り、そして佐久間象山の息子でなければ、さっさと「士道不覚悟」でも何でも理由をこじつけて切腹させてやりたいところですが、そうもいかない土方歳三は、頭を抱え続けることになったのでした。

【続く】

※参考文献:
前田政記『新選組 全隊士 徹底ガイド』河出文庫、平成十六2004年1月
新人物往来社『新選組大人名辞典(下)』新人物往来社、平成十三2001年2月

 
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