○現実と仮想の融合が進む時代に対応する新ビジネスとして注目

電通が今、新しいビジネスの場として「XR領域」でのビジネス開発を推進している。これは時代の変化に対応し、新時代でもリードする立場であるための取り組みだ。

GAFAの台頭や人工知能などの革新的技術によって経済やビジネス、社会の在り方が根本的に変わりつつあり、我々の重要なステークホルダーである広告主もメディアもその変化への対応を迫られています。その中で、当然我々広告会社が世の中に提供する価値にも大きな変化が求められており、そういった変化に対応した今後の広告会社にとっての新しいビジネスを創ろうというのが、このユニットの成り立ちです」と語るのは、電通 ビジネス共創ユニット XRビジネス推進担当の三邊立彦ゼネラルマネージャーだ。

ビジネスフィールドとして狙っているのが、「XR領域」となる。VRやAR、MRといった近年注目が高まっている分野に、プレイヤーとして入っていこうという目論見だ。

「現在は、現実と仮想の融合が進んでいます。現実をより楽しませる演出として採用したイベントも増えています。まだ世の中にそこまでは普及していないVRのHMDやARグラスを活用したものだけでなく、より多くの人も楽しめるタブレットやプロジェクションを使ったアトラクションアプリも増えており、ここ数年で大きく市場の拡大が見込める分野です。そうした中、電通も早急に何かやらなければいけないと考えたわけです」(三邊氏)

背景には、メディアスポーツエンターテイメント分野でも、こういった融合が加速していくのではないか?という見立てがある。

「今後、テレビや映画、新聞、スマートフォンといったすべてのメディアがXR技術を取り込んでいく可能性があります。リスクでもあり、チャンスでもあるのです」と、三邊氏は電通がうまく活躍の場をシフトさせることができれば、新たなビジネスを広げられるという認識を示した。
○仲介専業から仲介+事業経営への転換で目指す「XR領域の総合商社

電通としてのXR領域への取組は、2016年に発表された「Dentsu VR Plus」の設置から始まっている。これはVR領域をビジネス化するためのグループ横断組織である。その後、スポーツおよびエンターテインメント分野を特に有望領域として、同年にはLiveLike社への投資を行い、共同でソリューションを開発。そして2018年には、リアルとVRを行き来する新しいスポーツ観戦体験のためのプロトタイプ「Fanglass」を発表した。

スポーツ分野に関してはNTTドコモの「docomo Sports VR powered by DAZN」アプリを共同開発し、2019年3月にJリーグ3試合のライブ配信を実施した。また、2018年末には3Dバーチャルキャラクターでの接客VTuberサービスを簡便で安価に導入できるシステムChara Talker」もリリースしている。

電通はXR領域の本格的な事業化に向けて、コンテンツビジネスコンテンツ制作、配給・プロデュース配信サービスなど、XR領域で活躍する事業者とそれぞれ手を組み、プレイヤーとして参入する準備を重ねている。

「これからはバリューチェーンをつなぐ各分野で権益やナレッジを保有し、収益を生むビジネスモデルを作ろうとしています。仲介ビジネスと事業経営の両方を行うモデルへ転換し、XR領域の総合商社という姿を目指したいと考えています。市場の黎明期においては、まずはサプライチェーンを構築することが重要です」と三邊氏は強調した。

○過去のVRブーム時とは表現力・技術に格段の差

これまでVRやARというキーワードが大きく取り上げられたことは何度かある。特に2000年以前には3Dメガネを利用して映画館等で楽しめるVRコンテンツが流行し、数千万円クラスの筐体と大がかりなゴーグル型のデバイスが接続された先進的な体験が注目された。

「VRは過去にも流行して、一度しぼんだという印象を持っている方も多いと思います。また当時体験した方の中には、たいした内容ではなかったというネガティブな印象を持っている方もいるでしょう。しかし、今は表現力に格段の差があります。かつては数千万円のマシンで実現していたことが、スマートフォンの普及で、センサーディスプレイを始めとする各種パーツの低価格・高機能・小型化が進み、同レベルの体験が数万円程度でできるまでに進化してきました。また、UnityUnreal engine等のゲームエンジンの進化でソフトウェアの開発環境も良くなりました」と語るのは、電通 ビジネス共創ユニット XRビジネス推進担当の金林真プロデューサーだ。

ハードウェアの進化に加えて、これから本格化する5Gサービスという高速大容量通信技術への期待もある。

「5Gの能力をアピールするのにXRはうってつけです。すでに各携帯キャリアが力を入れており、将来的にはキャリアショップでXRデバイスが購入できるなど、市場拡大のキープレーヤーになると考えています」(三邊氏)

さらに、文化的側面でもXRを受け入れる土壌も育ってきていると金林氏は指摘する。

VTuberの台頭もあり、バーチャルキャラクター一般化が以前にも増しているように思えます。また、そのキャラクターに実際に会う手段としてのXRは以前より受け入れやすい状態にあると思います」(金林氏)
スマートフォンでも価値のある体験から本格的XRを睨んで展開

2019年9月には、電通本社にほど近いカレッタ汐留に「先進映像TECH共創LAB」がオープンする。これはejeと共同で運営するもので、XRに関連するショールーム兼実証実験の場という位置づけになる。全天投写のできるドーム型施設や、大型の3面スクリーン投写施設がある。

「実験的な施設なので、コンテンツアプリの開発、各種実証実験への貸し出し、先進TECH企業のプロモーションといった使い方が主体になる予定ですが、飲食のできるエリアも設ける予定です。ここではXRコンテンツと食を結びつけた体験をしてもらえるような場にできると考えています」と三邊氏は語る。

全天投写できるドーム型設備や、大型の3面スクリーンを利用することによる、より臨場感のある体験が可能という。コンサートや舞台鑑賞、スポーツの試合観戦といった、従来はその場に行かないと楽しめなかったコンテンツも、遠く離れた場所から、あるいは自宅にいながらにして楽しめるという価値が提供できるほか、外出が難しい人(例えば高齢者)にバーチャルな旅行体験を提供する観光的な利用も考えられる。

「また、専用デバイスであれば、個人で数万円の支出をしてでも手に入れたいコンテンツがあると感じてくれる人がターゲットになるでしょう。例えば私の高校生の娘には、すでに数年追いかけているアーティストがいますが、コンサートチケットに交通費、グッズ購入と毎年数万円をかけているわけです。数回分のコンサート費用で簡単に体験できるとなれば、専用デバイスを買うかもしれません」(三邊氏)

金林氏も「コンサートや舞台は、見に行きたくてもチケットが入手できないという話はよくあります。そういったものをXRなら楽しめるとなれば、熱心なファンは購入するかもしれません。まずは、そういう価値を感じてくれる人たちからでしょう」と語る。

今年開催されるラグビーワールドカップや来年はオリンピック/パラリンピックが東京で開催されるが、XRにとってはビッグチャンスだ。

「もちろん、いろいろな計画が進んでいます。それらは、4年に一度しかない大きなイベントなので、未来に残す記録コンテンツとして、あるいはショーケース的な取り組みとして重要なものになるでしょう。そこで体験してもらった上で、普及した先で何をやるのかが今の課題です」と三邊氏は語った。
エースラッシュ

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