可燃物や爆発物を積載した船で敵艦船に体当たり攻撃をしかける「火船(焼き討ち船)」の歴史は古く、3世紀に起こった中国長江での戦いが挙げられているが、正確な発祥時期や地域については詳しくわかっていない。
だが、遥か昔の戦時中は、木でできた帆船にとって、敵の火船は最も恐ろしい戦闘道具の1つだったことは事実だ。
古代ギリシャ人は、タールやテレビン油などの可燃性物質を積み込んだ自船の1隻に火をつけ、それを敵の艦隊に向けて押し出したと言われている。
7世紀になると、ギリシャ人はナフサ(粗製ガソリン)と生石灰を混ぜて燃えやすい製品を生成。水と接触すると実際に発火することを発見し、火船での攻撃に役立てたという。
更に時代が進むと、造船の進歩と火薬の発明により、火船は敵の艦隊や船渠に火をつける単なる道具ではなくなり、巨大な爆発で敵の船を大量に破壊するよう設計された浮遊爆弾となった。
こうして16世紀に生まれたとされるのが、史上最悪の大量破壊兵器と称される爆弾「ヘルバーナー(Hellburner)」である。
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ヘルバーナーが誕生したきっかけ
ネーデルラント諸州がスペインに対して起こした反乱(八十年戦争)の真っただ中だった1585年の初冬、アントワープはハプスブルク軍の司令官アレキサンダー・ファルネーゼ率いる軍隊に包囲された。
アレキサンダーは、市民を飢餓に陥れるためにアントワープと海の間を流れるスヘルデ川に橋を建設し、事実上街の水路を閉鎖した人物だった。
この封鎖を打破するために、ネーデルラント連邦共和国軍はフェデリゴ・ジャンベリという、様々な科学部門の知識に優れていると評判のイタリア人の軍事技術者を雇った。
ジャンベリは、橋を破壊することを約束し、アントワープ市内から3隻の大型商船を引き渡すよう要求した。ところがその要求は拒否され、FortuynとHoopという2隻の小さな船のみを与えられた。
小さな2隻の船がヨーロッパ最大の爆弾船に
勝つか負けるかの一大事に、小さな船しか提供しなかった吝嗇ともいえるネーデルラント連邦共和国軍に失望したものの、ジャンベリは今こそ自分の力を発揮する時だと決意。
船の外観は通常のそれに見せかけるため、従来の木製デッキで覆ったが、船倉の内側には長さ約12メートル、幅約5メートルのレンガとモルタルを使用し、1.5メートルの厚さの壁で囲った「火室」を作った。そして、その中を3トンの高品質の火薬で満たし、鉛でできた古い墓石を使った屋根で密封した。
また、火室の上部とその周囲の空きスペースには、岩や鉄の破片、その他の発射体の混合物を散弾として使用するために詰め込んだ。
Fortuynには、通常の遅延性ヒューズが配備された。これは、一定の時間後に爆弾が爆発するようゆっくりと着実に燃えるコードの長さにした。しかし、Hoopの起爆装置は「技術的な驚異」と呼べるものだった。
ジャンベリは、アントワープの時計職人に機械式タイマーを作るように頼み、フリントロック仕掛けと組み合わせて、正確な時間に火薬庫に点火し、発射できる爆弾を作成。
これは史上初の時限爆弾となり、ジャンベリは2隻の小さな船を“ヘルバーナー(Hellburner)”と呼ばれるヨーロッパ最大の爆弾船に変化させた。
その後、ヘルバーナーが用いられたのは第一次世界大戦時
1585年の4月4日の夜、ジャンベリの計画はFortuynとHoopが橋のところへ来るまでは、スペイン軍の注意を引くために30隻の火船を連続して川に送り込むことだった。
しかし、操作担当の司令官が全ての火船を一度に送り、その後2隻のヘルバーナーを仕向けてしまった。
Fortuynは橋に着く前に川岸に座礁し、船に積まれた爆弾はスペイン軍にほとんど損害を与えず、部分的に爆発したのみとなった。一方、Hoopは橋に向かってまっすぐに進んだが、激しく衝突した。
その時、時限爆弾のタイマーが切れ激しい爆発が起こり、橋の大部分が破壊され、800人のスペイン兵が即死する事態になった。
その後暫くして、ジャンベリが船倉に詰め込んだ100万個もの墓石や鉄の破片が、空から降ってきたという。
更にこの爆発で、橋から何キロも離れた家々が衝撃で倒れた。特に爆発音は35km先の人々をも目覚めさせるほどで、まさに史上最大の人工的爆発と呼べる破壊力だった。
この時は、ヘルバーナーによる攻撃で成功を手にしたネーデルラント連邦共和国軍だったが、その後更なる攻撃には失敗。回復したスペイン軍は、川に木製のバリケードを再構築し、わずか4か月後に、アントワープは降伏を余儀なくされた。
なお、以降このような大量破壊兵器は、イギリス軍とドイツ軍の戦線争いで450トンの爆薬を使用した、1914年の第一次世界大戦時までは使用されていなかったとのことだ。
References:Amusing Planetなど / written by Scarlet / edited by parumo
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