「誰かの手でびしょ濡れになると過去へ、自らびしょ濡れになると現在へ」タイムリープする能力をもつ主人公が活躍する『びしょ濡れ探偵 水野羽衣』テレビ東京、毎週水曜25:35〜)。毎回事件が起こり、羽衣(大原櫻子)が過去に遡って真相を突き止める。テレビ東京Paraviの2媒体で少しずつ展開が異なる仕立てのドラマだ。

人前ですぐびしょ濡れになることから部活やサークルに所属できず、就活の履歴書に書くことがないと悩む羽衣。「演劇の神様のお告げ」と言い出すヤンさん(ヤオ・アイニン)に押し切られる形でなぜか演劇サークルに加入することになる。チェーホフの『三人姉妹』の次女役に取り組む羽衣。このサークルは部長マナブ(浅見紘至)とヒカル(安本彩花)の二人しかおらず、ヤンさんが三女をやることになった。しかし、付き合っている疑惑があるほど仲の良かったはずのマナブとヒカルの仲がおかしく、稽古が進まない。仕方なく羽衣は過去に戻り、二人の間に何があったのか確かめることに。

特に演劇づいてる第7話
今回のゲスト、安本彩花(私立恵比寿中学)と浅見紘至の組み合わせといえば、劇団シベリア少女鉄道だ。エビ中の舞台「シアターシュリンプ」公演を主宰の土屋亮一が手がけたことを端緒に、安本は2015年と2017年の2回、シベリア少女鉄道の本公演に出演してコメディエンヌぶりを発揮。その2作ともに浅見と共演していた。そんなこともあって、予告でこのメンツを見たとき、てっきり今回の脚本は土屋が手がけたのかと思ったほどだ(実際は村上大樹)。演劇サークルのメンバーを演じた二人とも、演劇にゆかりのあるゲストなのだ。

これを言い出したら、レギュラー陣も相当だ。羽衣の父を演じる大堀こういちはケラリーノ・サンドロヴィッチが主宰するナイロン100℃の前身、劇団健康の旗揚げに参加。以降コンスタントに舞台に出続けている役者だ。兄役の矢本悠馬は一時期大人計画に所属し、自ら演劇ユニットを立ち上げたことも。そして大原櫻子はといえば、劇団☆新感線の『メタルマクベス』で堂々たる歌声を披露して舞台デビューしたばかり。今秋にも舞台があり、来年には『ミス・サイゴン』への出演も決まっている。水野家(のキャスト)は、演劇一家と言ってもいいだろう。

すべて演劇の神様の思し召し?
クライマックスでは、父が演劇の神様のふりをしてマナブにお告げを与え、それによってマナブが再び演劇への情熱を蘇らせる。演劇の神様が語る「どんな無理やりな設定でもやり通す、それが芝居ってもんだ」というセリフは、この作品そのものへの言葉のようにも聞こえる。
結果、やる気を出しすぎたマナブが「三人姉妹」を「十三人姉妹」に変えてしまい、公演が延期に。Paravi版では三人姉妹の三人が揃った稽古風景が流れるのだが、なぜか全員ヤンさんに引っ張られて片言で「わたしは三人姉妹の三女!」「わたしは次女!」「そして私は長女!」と登場するという斬新なもの。チェーホフでこの演出がアリだったら、なぜ十三人姉妹を三人で演じるという選択にたどり着かなかったのだろう、と少し惜しい気持ちになったのが正直なところだ(そんな選択をしていたらオチないから当然なのだが)。

テレ東版のラスト、学生時代少しだけ演劇をやっていた父がふと羽衣の台本を手に取り、「なんでここで泣いちゃうわけ?」と聞く。もうエンディングのナレーションが始まる寸前、そのバックに流れる、聞こえていてもいなくてもいい雑談みたいなシーンだ。そこで羽衣が「泣くって書いてあるから……」と答えると、父は言う。「ここで笑うんだよ。演劇ってのは全部逆なんだよ、逆」。妙にその言葉が印象に残った。父は演劇の神様とは言わないまでも、その真髄を知っている人なんじゃないだろうか。このシーン、もしかしたら大堀さんのアドリブなんじゃないかな。
(釣木文恵)

びしょ濡れ探偵 水野羽衣」
出演:大原櫻子、矢本悠馬、大堀こういち、ヤオアイニン
企画:ブルー&スカイ、加藤伸崇
脚本:ブルー&スカイ、村上大樹、テニスコート、金井純一
監督:草野翔吾、金井純一、長野晋也
チーフ・プロデューサー:山鹿達也
オープニング曲:マカロニえんぴつ「surpernova
エンディング曲:大原櫻子「I am I」

イラスト/よねこ