爆発により研究員5人が死亡。周辺の放射線量も急上昇したと報じられた
爆発により研究員5人が死亡。周辺の放射線量も急上昇したと報じられた

ロシア北西部アルハンゲリスク州の白海沿岸には露海軍北方艦隊が配備され、核攻撃艦艇の3分の2が集結している。8月8日、同地区のミサイル実験場で突然、大規模な爆発事故が起き、研究員5人が死亡した。

露国営原子力企業ロスアトムは、「悲劇はアイソトープ動力源の技術作業中に発生した」という短い声明を公表。ロシア気象庁は13日、周辺地域の放射線量が自然放射線量の16倍に当たる毎時1.78マイクロシーベルトに上昇したと発表した。現地ではそれ以上の数値が観測され、人体への放射能取り込み予防に効果があるヨウ素の販売が急増したとの報道もある。

いったい何が起きたのだろうか?

実は、今回爆発したのは単なるミサイルではなかった。ロシアが開発を進める、原子力を推進力とする超大型巡航ミサイル「9M730ブレヴェスニク」(NATOコード名:SSC-X-9スカイフォール)だったようなのだ。

このミサイルについて、プーチン大統領は昨年3月の年次教書演説で「原子力エンジンで射程が無制限のステルス巡航ミサイルを開発する」と語っていた。航空評論家の嶋田久典氏が解説する。

「露紙『ニェザヴィーシマヤ・ガゼータ』によると、全長は発射時12m、飛行時9m、弾体は1×1.5mの楕円(だえん)形断面で、主翼は直線翼。発射時は固体燃料を使い、巡航時には核エンジンで推進力を得て、亜音速で飛行します。

注目の核エンジンは開放型ガスコアロケットで、水素を原子炉の熱で膨張させ、核燃料を常時吐き出す構造のようです。米イリノイ工科大学のジェフ・テリー教授(物理学)が米国のトマホークミサイルをベースに計算したところ、その出力は約776kWで、現代の小型原子炉に相当するとのことです」

プーチン大統領が喧伝(けんでん)したとおり、理論的にはこのミサイルの飛行距離はほぼ無限だ。数週間にわたって飛行し続けることも可能だろう。

さらに、高く放物線を描く弾道ミサイルではなく巡航ミサイルなので、低空を飛べばレーダーに発見されづらいという利点もあるため、大きく迂回(うかい)して予想外の進路を取り、各国の防空網をかいくぐる能力を持つことになる。

しかも、飛行中も常に放射能をまき散らし、仮に弾頭が目標に命中しなくても周辺に放射能汚染を引き起こす......という厄介すぎるシロモノだ。

このブレヴェスニクが、もし日本に飛んできたら?

「現状の日本のミサイル防衛は、弾道ミサイルを高層で迎撃するMDシステムが主流です。そのため、巡航ミサイル戦闘機地対空ミサイルで落とすしかありません。また、既存の巡航ミサイルは飛行距離に限界があるため『ここからは飛んでこないだろう』といった予測ができますが、このミサイルは予測不可能な"死角"を突いてくる可能性もある。さらなる防空網を展開・整備する必要に迫られるでしょう」(嶋田氏)

今回は犠牲者を出す爆発事故を起こしたが、ロシアは開発をやめないだろう。さらに、ロシアは同じく核エンジンを使った魚雷も開発中だ。米露の中距離核戦力(INF)全廃条約も消滅した今、軍拡競争は続くのだろうか......。

取材・文/世良光弘 写真/SPUTNIK時事通信フォト

爆発により研究員5人が死亡。周辺の放射線量も急上昇したと報じられた