何ともパッとしない。阪神タイガースが21日、京セラドーム大阪横浜DeNAベイスターズを相手に3―1で連勝。2カードぶりの勝ち越しを決めたが、借金は依然として「5」で素直に喜べるような現状ではない。首位の巨人とは21日現在で11.5ゲーム差の4位。3位のDeNAとは多少縮んだとはいえ、いまだ4.5ゲーム差に開いており、CS(クライマックスシリーズ)進出も厳しいままだ。

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 正直に言って、今の阪神は強くない。あえて厳しい言い方をするが、優勝できるようなチームでないことは素人でも分かる。

リーグ屈指の資金力を持つのに・・・

 しかし、それにしても不思議だ。セ・リーグ6球団の中でも上位に位置づけするほど親会社は豊富な資金源を持っているはずなのに、その強みがまったく生かされていない。「カネをかけるべきところが明らかに間違っている。この球団は昔からその傾向があったが、今のフロントはそれに輪をかけてズレていると言わざるを得ない。おそらく経営陣たちはタイガースの野球をきちんと見ていない人ばかりだろう。これではファンがどんどん離れていってしまう」と阪神の有力OBは嘆く。

 チーム編成の面で物足りなさを感じるのはもちろんだが、今の阪神に対して有識者から多々指摘されがちなのが優秀かつ経験豊富な指導者、スタッフの不足だ。選手を育成し、チームの屋台骨を支えていくためにも必要不可欠な指導者を迎え入れ、強いタイガースを作り上げなければいけないのは自明の理。カリスマ的存在になれるような実績を誇る指導者を招聘し、その人物を中心としたピラミッド型のシステムと命令系統を構築すれば「間違いなくタイガースは大きく変わるはず」(前出のOB)だからだ。優秀な指導者を招聘するとなると当然ながら〝それなりの費用〟もかかるが、ある程度の出血を覚悟しなければ再生の道はない。

 ところがタイガースの経営陣たちは〝それなりの費用〟の使い道も間違っているようだ。

 2015年オフに金本知憲氏に監督として大型契約でのオファーをかけ、三顧の礼で迎え入れた。だが、それも浅はかなプランニングであったことが露呈してしまった。金本氏にチーム再建を託したものの結果は伴わず失敗、2018年のシーズンをもって事実上の〝解任〟でクビを切ってしまったからである。

金本前監督もある意味「犠牲者」

 元球団関係者は次のように打ち明けた。

「金本氏は確かに2002年からタイガースへ移籍し『鉄人』として活躍した虎の功労者だが、引退後は指導者としての経験はなく、監督のオファーがあった当初、本人も難色を示していた。だが球団経営陣から『一蓮托生の覚悟でチーム再建を任せたい』と殺し文句を聞かされ、最終的には首を縦に振らざるを得なかった。要は外堀を埋められ、断れない状況に持っていかれたのだ。

 だが悲しいかな金本氏は、指導経験もないまま指揮官に就任したことで、〝時代に見合った正しいマネジメント〟ができる人ではなかった。冷静に考えれば、指導者経験のない人物にチーム再建を任せきるなんて自殺行為。本来なら無理矢理、監督をやらせる前にコーチに就任させ、ワンクッションを置かせるべきだった。でも経営陣は『金本氏は生え抜きではないにせよ大物OBであり、スーパースターなのでネームバリューも抜群。指導者経験がないのは、逆に考えればフロント側からコントロールもしやすい』と余りに安直な発想でオファーを急ぎ過ぎてしまったと聞く。そのような裏事情で監督を任せられてしまった金本氏もある意味で犠牲者と言わざるを得ない。

 だからチームが勝てず右往左往し出すと金本氏は成す術がなくなって前時代的な〝圧制〟をチーム内に敷いてしまい、結局は浮いた存在になってしまった。それで最後は球団経営陣たちから事実上〝ポイ捨て〟されてしまった格好なのだから、ある意味で気の毒な扱いだった」

 そんなゴタゴタのツケを支払わされる形で昨オフ、今の矢野燿大監督が二軍監督から昇格。当初は今季も続投予定だった金本前監督が〝解任〟され、矢野体制は新たなコーチ人事を熟考する時間的な猶予もなく、半ば急造内閣での見切り発車を余儀なくされたのだから、よく考えれば苦戦を避けられないのも当然といえば当然だろう。「金本体制下で今季も一軍スタッフとして残るはずだったコーチが金本氏の退団によって行き場を失い、契約の関係で未だファームに残っている」との話も聞こえて来ており、矢野監督も難しいかじ取りを強いられているようだ。

 ちなみに22日にはタイガースの本拠地・甲子園で夏の全国高校野球選手権の決勝戦が行われる。全国の代表49校の頂点を決める檜舞台のマウンドで履正社(大阪)を相手に立つのは、今大会ナンバー1右腕の星稜(石川)のエース・奥川恭伸投手(3年)だ。今大会で数々の記録を打ち立て、聖地のスーパースターとなった奥川にタイガースはゾッコンの様子で関係者からは今秋ドラフトでの1位指名をほのめかすような発言も飛び出して在阪メディアを賑わせている。

 しかし、辛口の阪神OBからは「奥川君のような大物投手は今のタイガースに来ないほうがいいのではないか」と嫌味たっぷりの指摘が向けられていることを補足しておきたい。その理由こそが、ここまでテーマとして扱ったように名指導者の不在、バラバラなスタッフ人事等が弊害になっている「育成下手」だ。

潜在能力高い藤浪をケアしきれぬ悪しき前例

甲子園のスターで即戦力候補の奥川君が入団すれば、間違いなく来年の阪神は大きく盛り上がる。ただ、彼の潜在能力を今のタイガースが育てていけるのかは甚だ疑問。藤浪晋太郎が、その悪しき例です。かつて大阪桐蔭時代、甲子園で春夏連覇の偉業を達成した藤浪を他球団競合の末にドラフト1位で指名できたまでは良かったが、ここ数年間は制球難に悩まされ、完全に出口を見失ってしまっている。『本人の問題』と言う声もあるが、それだけではない。タイガースの育成システムにも大きな問題がある。迷走する選手をケアできないのはチームとして致命的だ。実際にアマ球界からは今のタイガースへ有望選手を入団させるのを嫌がる声もチラホラと出ている」(別の阪神OB)

 昨季は17年ぶりのリーグ最下位に沈み、今季も今のところ4位でBクラス。2005年以来、遠ざかっているリーグVなど今のままでは夢のまた夢だろう。猛虎復活のためには「育成下手」の汚名を返上させなければならない。奥川や高校最速16キロ右腕の大船渡・佐々木朗希ら大物ドラフト候補を獲得し、虎のスターに育て切れるだけの名指導者を招聘することと育成システムの構築が急務だ。

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