石破茂氏 (撮影/菊竹規)

◆日韓の対立を憂う
 日韓関係が「戦後最悪」と呼ばれるほど悪化している。

 昨年来、徴用工問題をはじめとする様々な問題で対立を深めてきた。この事態を受けて、安倍政権は韓国に対して半導体の輸出規制や「ホワイト国」(ゆすつ管理優遇措置対象)除外に踏み切ったが、韓国の文在寅政権も同様の措置で対抗。日刊の対立は泥沼の報復合戦に陥り、関係改善の兆しも見えていない。いや、日本のメディアいたずらに嫌韓感情を煽るような報道を続け、それに伴い日本国民も嫌韓感情を高まらせている。

 だが、一度立ち止まって冷静に考える必要がある。

 保守系論壇誌『月刊日本』9月号は、この状況に対し、「そもそも日韓対立は日本の韓国併合に端を発するものであり、その道義的責任から目を背ける限り、日韓の対立は永遠に続くだろう」と継承を鳴らしている。

 安全保障問題、経済問題にも大きく影を落としかねない日韓の対立について、同誌は「日韓の対立を憂う」として第2特集を組んでいる。今回はその特集から、石破茂自民党元幹事長へのインタビューを転載、紹介したい。

◆過度なポピュリズムの危険性
―― 現在の日韓関係をどう見ていますか。

石破茂氏(以下、石破):日本と韓国はお互いに引っ越しができない隣国であり、北東アジアで自由や民主主義という価値観を共有する国同士です。その日韓の関係が悪化している現状は、両国のみならずアジア全体にとって不幸なことです。

 いま日韓両国内では相手国に対する世論が非常に厳しくなっています。私が参院選で全国を回っていた間も、「韓国はどうしようもない。もう放っておけ」という国民の声をひしひしと感じました。しかし政治家はそれをそのまま相手国に届けてはいけません。日韓関係の悪化はわが国の安全保障や経済の問題に直結するのであり、政治家まで国民と同じように感情をぶつけてしまえば、事態はエスカレートするしかありません。そして外交交渉に失敗した場合、不幸になるのは国民なのです。

 すでに実害も出ています。私の地元では、ある経営者が「10年かけて韓国企業と交渉してやっと取引まで漕ぎつけたのに、日韓対立の煽りをうけて全て白紙に戻ってしまった。10年間の努力が水の泡です」と嘆いていました。

 日韓両国の政治家は、このように「対立は両国の国民を不幸にする」ということを絶対に忘れてはなりません。お互いに「これ以上の悪化は避けなければならない」という共通認識を持った上で、偶発的衝突の回避などのリスクマネジメントに取り組まねばなりません。

 最大のリスクは自国内の偏狭なナショナリズムと過度なポピュリズムです。一般論として為政者はナショナリズムが高揚した場合、それを都合よく利用するポピュリズムの誘惑に駆られます。しかし一度その劇薬に手を出すと、いざブレーキをかけようと思っても止められなくなります。その結果、国民は必ず不幸になるのです。

 日韓どちらにあっても、国内における対立と分断が深刻化しつつあります。国内情勢についての不安がナショナリズムポピュリズムにつながり、日韓関係に悪影響を及ぼしている部分もあるのではないでしょうか。ここで思い出すべきは、金大中・小渕恵三両首脳の時代です。当時の日韓関係は非常に安定していましたが、それは両国の国内的安定にもとづくものでした。金大中政権では革新派と保守派がそれぞれ大統領(金大中)と首相(金鍾泌)を分担し、韓国国内の保革融和が図られており、日本でも小渕恵三総理が自民党の伝統である「寛容と忍耐」を体現し、自民党のみならず野党や国民に心を配って国内融和が図られていたのです。ですから、内政の問題を外交に転嫁するような誘惑に駆られることもありませんでした。

◆「韓国の回し者」と呼ばれても
―― しかし、自民党内では「国交断絶」などと強硬論が飛び交っていると報道されています。

石破:私は関連部会に出席していませんでしたから、直接には聞いていませんが、一般的に政治家は世論に敏感ですから、世論が強硬になれば党内でもそういう雰囲気が強まります。それはある程度仕方のないことですが、政治家には世論に流されてはならない時があるのも事実です。

 正直、世論に水を差すような言動は国民にウケません。むしろ「弱腰」「売国奴」などと反発をうけます。私も「韓国の回し者か」とか「実は韓国人だろう」などと言われることがあります。昨年韓国で地方創生について講演した際も、某社の新聞記者から「なぜ領土問題を論じなかったのだ」とつめ寄られ、そのことを記事にもされました。

 このように、日本で「親韓派」とされるのは辛いことですが、韓国で「親日派」とされることはもっと辛いのではないでしょうか。たとえば、韓国では日本寄りの論説を書いたジャーナリストが言論界から追放され、世論から吊るし上げられ、土下座まで強いられたことがあったそうです。韓国で日本に近い立場を表明することは政治生命やジャーナリスト生命を賭した行動であり、「親日派」とされることは政治家や言論人としては死に等しいのです。そもそも韓国においては、旧帝国の支配を受けていた間に政権に協力的だった人々を「親日派」と呼んで糾弾してきた歴史があります。

 それでも政治家や言論人である以上、リスクは覚悟の上で国家国民のために言論を貫くことを避けては通れない。「韓国は怪しからん」「許せない」と言っていた方がよっぽど楽です。しかし政治家がそれを言ってしまったら、国民に対する責任が果たせないのです。「言うは易し、行うは難し」。私自身、常に自分の覚悟を見つめ直しながら議論していきたいと思います。

◆日韓関係の現状を打開する策はありや?
―― 日韓関係の現状を打開する策はありますか。

石破:その議論は永田町霞が関のみならず、あちこちで行われていると思います。そう簡単なことではありませんが、やり方はあると思います。まずは二国間でのあらゆるチャンネルを活用して、関係性を維持していくこと。政府同士の対話が難しいときこそ、議員交流、民間交流の出番です。また、二国間のやり取りで行き詰まりそうな事柄については、国際社会の力を借りることも考えられるのではないでしょうか。

 日韓両国は日韓基本条約やそれに伴う請求権協定、慰安婦合意の問題で対立していますが、これらについて基本となるべき価値観が互いにズレています。日本の価値観は「約束は必ず守らねばならない」というもので、韓国に対して「国際条約はちゃんと守るべきだ」と主張していますね。それに対して、韓国の価値観は「正しい約束は守るべきだが、間違った約束は破るべきだ」というものであり、文在寅政権は「日韓基本条約慰安婦合意は間違った約束だから守る必要などない」という立場に立っているようです。

 無論、このような韓国の態度は国際社会では通用せず、韓国の国際的地位を貶めかねないものです。しかし、それは日本が言っても伝わらない。それならば、国際社会の枠組みを使って、韓国の主張が国際的なルールには当てはまらないことを自覚するべく働きかけをしてもらうことも一つの方法だと思います。

 もっとも、そのためには日本自身が国際社会からの信頼と共感を勝ち取る必要があります。国際社会は日本が韓国にどう対応するかをじっと見守っている。日本が国際法を遵守し、礼儀礼節を以て韓国に対応にすれば、日本に味方してくれるはずです。逆に日本が相手と同じ土俵に乗って無礼を働いたり、公衆の面前で相手を罵倒したりするようなことをすれば、「どっちもどっち」と思われます。だからこそ、そういう言動は厳に慎まねばならないのです。

◆韓国のことを知らなすぎる
―― 日本は正しいか間違っているかを抜きに、韓国が何に怒っているのかを理解する必要があります。

石破:まず、今般の輸出管理の変更については、本来は徴用工問題とは何の関係もなく、また関係づける必要もないものでした。あたかも徴用工関連判決と関係があるように取られかねない言い方をしたところから、ボタンのかけ違いが続いており、極めて残念です。

 そのうえで敢えて歴史問題に触れるとすれば、旧大日本帝国が1910年に韓国を併合したことにより、長い朝鮮の歴史を受け継ぐ大韓帝国は消滅し、朝鮮民族は独立を失った。この経験が韓国の人々にどれほどの負の感情を抱かしめたか。我々は国家や文化を奪われた人々の心情を決して忘れてはならないと思います。

 過去、「日本は韓国に良いこともした」と言って更迭された大臣がいました。旧帝国がどれほど朝鮮で教育制度を敷こうと、食料を増産しようと、公衆衛生を向上させようと、インフラを整備しようと、その国に生まれた人々には独立心や愛国心がある。民族の誇りがある。それを奪われた傷は、決して癒えるものではないのでしょう。今でも旧帝国時代の話はデリケートで、先般日韓の会合があった折も「その話題は韓国の出席者が激怒して会合そのものが中止になりかねません」と言われました。この時、私は改めて「まだまだ韓国の心情の複雑さを理解できていなかった」と気づかされました。

 ですから自戒を込めて言うのですが、われわれはあまりにも韓国のことを知らなすぎる。あるいは、韓国のことを知ろうとする努力が少なすぎる。それゆえ誤解が誤解を呼び、すれ違いにすれ違いを重ね、必要以上に関係が悪化しているのではないか。そして逆もまたしかりです。

◆相手の言い分の背景を理解しない愚かさ
 これまで日本は「韓国の言うことは間違っている」と主張してきました。しかし、そこには「どうして韓国はこういうことを言うのか」という理解が欠けていたようにも感じます。韓国の言い分の背景を理解した上で日本の立場を主張するのか、それをせずに日本の立場を主張するのか。この二つは結論は同じでも韓国に対する向き合い方が全く違います

 われわれは日本の立場を主張し、韓国の誤りは正すべきです。しかし、本当の意味で韓国と向き合っていなければ、たとえそれが正論であったとしても、相手には伝わらないのではないか。そして韓国と向き合うとは、韓国のことを知ることに他なりません。私も改めて韓国のことを勉強し直していますが、「これも知らなかった、あれも知らなかった」ということばかりで、自らの不勉強を恥じています。

 日本から見ても立派な韓国人はいます。韓国から見ても立派な日本人はいます。そうやってお互いに信頼し合える個人と個人の関係をどれだけ作れるか。政府同士が対立しても、個々の議員と議員、国民と国民の絆がなくなるわけではない――10年、20年、50年かけてでも、そういう人間関係を築いていく努力だけはやめてはなりません。
(聞き手・構成 杉原悠人)

【月刊日本】
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

石破茂氏 (撮影/菊竹規)