◆夏のオフィスは室温調整が難しい

 夏のオフィスでは、社員のストレスもたまりがちだ。外から帰ってきた社員が「暑くてたまらない!」と冷房の温度設定を下げ、内勤の社員からは逆に「冷房が強すぎて寒い!」と不満が出るような場面も少なくない。

 ただ、オフィスの温度調整は一般の住宅よりも難しい。ひとつは大空間のため、温度ムラが出やすいこと。もうひとつは、人によって温度の感じ方が異なることだ。

 どちらも、大勢が密集して働くオフィスならではの課題と言える。室温は高すぎても低すぎてもストレスとなり、仕事の能率が落ちることがさまざまな研究により実証されている。「ガマンしない省エネ」を実践して、仕事効率を高めるにはどうしたらよいだろうか。

◆温湿度計を数か所に置き、部屋の“温度ムラ”を把握

 オフィスでは、なぜ温度ムラが発生しやすいのか?まず、パソコンプリンターなどのOA機器は熱を発している。特に大型プリンター複合機などは1000W以上にもなる。これは電気ストーブ並みの発熱量なので、周辺の室温が上がる要因となっている。

 また、エアコンの風が直接当たる所と当たらない所が分かれるため、場所によって温度が大きく変わってくるという要因もある。さらに壁や窓に直射日光が照りつけると、そこだけ温度が極端に上がってしまう。

 具体的な対策の一歩目は、温湿度を“見える化”することだ。まずは温湿度計を複数台手に入れ、直射日光の当たらない所を選び数か所に置いてみる。すると、思った以上に場所によって温度差があることがわかるはずだ。オフィスの“温度ムラ”の状況を把握したうえで、全体が適温になるよう作戦を練ろう。

◆エアコンの設定温度ばかりにこだわっていては快適にならない
 次に、そのオフィスの快適な温度の基準を定める。厚生労働省の「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」及び「事務所衛生基準規則」の基準では、建物内の室温を17℃〜28℃、相対湿度を40%〜70%に保つよう定めている。しかしこの値は最低限度の基準でしかない。

 夏季の「職場快適基準」で推奨されているのは、温度は24℃~27℃、相対湿度は50~60%だ。よく「エアコンの設定温度は28℃に」と定めている職場があるが、それにこだわっていては快適なオフィスは達成できないことになる。そもそも、「エアコンの設定温度=室温」というわけではないことも意識しておきたい。

 なお、暑さの感じ方は温度だけでなく湿度によっても大きく影響される。同じ28℃でも、湿度が70%以上だと暑く感じるが、60%以下では比較的涼しく感じる人が増えるという調査もある。「湿度が20%違うと体感温度が4℃違う」とされているだけに、エアコンの除湿運転や除湿機を活用して適切な湿度コントロールを心がけよう。

◆部屋の中にある熱源を減らし、分散させる

 温度ムラを解消する主な対策は3つある。1点目は、熱源をできるだけ減らしたり、集中を避けたりすることだ。パソコンプリンターなどが密集し、一部だけ温度が高いエリアができていると、人間だけでなく精密機械であるOA機器にも悪影響を及ぼす。可能な範囲で分散させる工夫が大切だ。

 特に大きな熱源となる大型プリンターは、できればデスクから遠ざけて配置してほしい。また、熱を発する冷蔵庫、ポット、コーヒーメーカーなどの家電は、できる限り別の部屋に移動させよう。

 照明に白熱灯や蛍光灯を使っていたら、発熱量の少ないLEDに交換したい。特に白熱灯は、エネルギーの9割を熱にして捨てている。エネルギーがもったいないだけでなく、真夏に小型暖房機をいくつもつけているようなものなので、早急に交換しよう。

 熱は人間からも発せられている。安静時でも一人あたり100Wほどになるので、オフィスに30人いる場合は3000Wの暖房機があるのと同じことになる。そのため、人が密集しないよう座席やデスクの並びを工夫することで効果が出る場合もある。

◆窓まわりの対策と、エアコンの冷気が循環する工夫を

ドイツオフィスビルの窓の外側には、たいてい日射よけのブラインドがついている

 2点目は、窓まわりの対策だ。最も効果的なのは、直射日光が照りつける窓の外側に、すだれやオーニングなどを設置することだ。日射は窓の外側で対策すれば、およそ8割の熱をカットする効果がある。

 それが難しい場合は、ヘチマやゴーヤを茂らせて緑のカーテンをつくるという手もある。水やりなどの手間はかかるが、葉っぱからは水分が揮発して冷却効果も生まれる。外側には手を付けられないのであれば、室内側に遮熱カーテンや遮熱シートなどを設置しよう。もっとも効果が高いのは、窓の外側と内側の両方に対策を施すことだ。

エアコンの風よけカバー

 3点目は、エアコンの風を均一に行き渡らせる方法だ。冷たい空気は下の方にたまりやすく、空間の上の方が熱くなりやすい。そこで大型扇風機サーキュレーターなどを複数台使用して、空気をかき混ぜる。

 また、エアコンの吹出口に回転ファンなどを取りつけることでも、空気が循環しやすくなる。なお、エアコンの直風が当たって寒くなる人がいれば、エアコンに風よけカバーを設置するのがいいだろう。

◆温度設定の管理者とルールを決める

 最後に、人によって暑さの感じ方が違う場合の対策についても触れておきたい。もっとも良いのは、各人が体感で勝手に空調の設定をするのではなく、空調を設定する管理者とルールを決めることだ。

 外から帰ってきた人が暑いと感じ、急激に設定温度を下げたとしても、オフィスの温度は急には下がらない。逆に温度ムラが極端になったり、強い風が当たって不快と感じたりする人が増えるという悪循環にもつながる。もちろん、エネルギーロスも大きくなる。

 そこで、例えば「温度変更は周囲の了解をとって、30分間で1℃上下できる」というルールをつくるのはどうだろう。そして、30分後に周囲に確認しつつ再設定すればいい。いずれにせよ、互いに嫌な気持ちにならないために、設定温度を変更する際には声掛けを忘れないようにしたい。

 いろいろ工夫しても体感の違いが大きい場合は、暑がりの人と寒がりの人とでデスクを交換してもいい。たまに席替えをすることが、気分転換にもなるかもしれない。

 もし徹底的に対策をしたいのなら、職場環境を根本的に見直しすることをお勧めしたい。窓の内側にもうひとつ窓をつける内窓の設置や、壁の内側に断熱材を補強するなど、大掛かりなリフォームを実施すれば、省エネはもちろん、暑さや寒さに悩まされることも格段に減る。ストレスの少ない職場環境を実現して効率的に仕事をするために、社員同士で議論してみてはどうだろうか?

◆ガマンしない省エネ 第15回

<文/高橋真樹>

【高橋真樹】
ノンフィクションライター放送大学非常勤講師。環境・エネルギー問題など持続可能性をテーマに、国内外を精力的に取材。2017年より取材の過程で出会ったエコハウスに暮らし始める。自然エネルギーによるまちづくりを描いたドキュメンタリー映画『おだやかな革命』(渡辺智史監督・2018年公開)ではアドバイザーを務める。著書に『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)『ぼくの村は壁で囲まれた−パレスチナに生きる子どもたち』(現代書館)ほか多数。