京都アニメーション・京アニ

7月に発生した、京都市のアニメ制作会社「京都アニメーション」(以下、「京アニ」)での火災事件。

犠牲者は35人にのぼったが、今回の事件をめぐっては、報道機関側が犠牲者の実名を報道しようとしていることに対し、ネット上で批判の声が集まっている。

■京アニ側は取材を自粛

京アニは事件発生後、「7月18日に発生した事件について」と題した声明文を発表。メディア対応を弁護士に一任し、マスコミ各社に対して遺族・親族らへの取材を控えるよう求めた。

だが複数の新聞社は3日、揃えて紙面で実名報道の意義を強調。20日には京都府内の報道各社で構成される、在洛新聞放送編集責任者会議が犠牲になった35人のうち、25人の身元を公表していない京都府警に対し迅速な公表を求める申し出を提出。こうした動きに対し、ネット上では批判の声が根強い。

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■取材した記者は実名報道に前向き

今回の事件を取材している、ある媒体の記者は実名報道について「遺族の了承が得られれば公表は当たり前」と、実名報道に前向きな姿勢を示した。

「名前の公表は、遺族の了承を得られたり、警察の発表があれば公表は当たり前。名前、年齢は取材上ものすごく大事な情報で、匿名だと現実感がなく、記事の内容が薄くなってしまう。

前例を作って名前の公表をしなくなると、その人が生きてきた証を残せない。名前というのはそれほど重要な記事の要素」

■名前を出すことの意義

名前を出すことの意義は今後2度とこうしたことが起こらないようにするためだとも述べる。

「名前が出せないのは、その人自体のこれまでの人生を否定してしまうことになる。そっとしておいてほしいという気持ちもわかる。だが、亡くなった人が残した功績を残すことは社会的な意義があるし、今後このようなことを起こさないためにも啓発に繋がると考える」

■多角的な視点からの報道が必要

こうした悲惨な出来事が今後起こらないよう、啓発に繋げるためには加害者に焦点を当てた報道を行うべきでは、という指摘もネット上でなされていることに対しては「多角的な報道が必要だから」だと回答する。

「加害者についてはもちろん取材はする。ただ加害者一辺倒では見えてこないこともあり、いろんな目線から事件を捉えるのは大事。

被害者についても、どのような人の命が奪われたのか、何を残したのか、アニメにかける思いなど1人の身勝手な行為で失われてしまったものを何らかの形で残す必要がある。感動ポルノにはなってはいけないが」

■部数・PV伸ばしは否定

ネット上では、実名報道をするのは部数、PVを伸ばすためではないか、という指摘もあるがこれについては否定し、「理解してほしい」と訴える。

現状、被害者に焦点が当たった報道が続いているのは加害者がなにも喋れる状況にないことも影響しているという。殺人などの容疑で逮捕状が出ている青葉真司容疑者は重篤な状態が続いていると報じられている。

■実名報道の利点

読者が実名報道を知りたいと思わない、遺族も実名報道をされることを望んでいない現状。メディア側、遺族側、読者側から見て、実名報道はどのような利点があるのか、以下のように記者は述べた。

メディア側:事件の凄惨さ、大きさを伝えられる。その人が生きた証を残すことができる。

遺族側:自分の親族が残したものをなんらかの形に残すことができる。取り組んだことや思いを後世に残せる。

読者側:情報を知ることが中心だが、「メリット」という意味では無いかもしれない。だが事件の大きさを知り、市民活動をしてもらうなど、次につながるアクションを起こすきっかけになる。

■読者が求めていない情報を伝える意義

このうち、読者の「知る権利」に応えるのが主な理由だと述べる。だが上記にも書いた通り、ネット上では実名報道された記事を読むことに「必要ない」という声がみられる。

それでも実名報道が必要な理由について聞くと「取材してる側も手探りでやってて、迷いはある」としながらもこのように述べる。

「読者が知りたいことだけを知らせるのは違うと思う。知りたい情報だけを伝えようとすると、世の中芸能ニュースばかりになり、誰も政治・経済に目を向けない」

「悲惨なことは誰も好き好んで知りたいとは思わない。知る権利に応えるというのは、今起きていることがどうなってて、どのような影響があるのか。どんな人が被害を被っているのかを正確に伝えることだと思う」

■遺族の意向は大事にしている

警察発表がない限りでは、各社が取材を積み重ねて犠牲者の実名にたどり着くことが考えられるが、「すでにわかっている」とした上で遺族の了承が無い限りは実名報道することができない、と遺族の意向は考慮していると話した。

「むやみにインターホンを鳴らさない、手紙を入れて反応を待つなど、取材は抑え気味にし遺族の意向を大事にしている」

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(文/しらべぇ編集部・亀井 文輝

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