8月15日『科捜研の女』テレビ朝日系)の第13話が放送された。今回の主役は、“科捜研の茶の達人”宇佐見裕也(風間トオル)である。

第13話あらすじ
宇治川のほとりで、宇治茶の老舗「久住茶寮」の職人・橋本俊介(川野直輝)の遺体が発見された。榊マリコ(沢口靖子)らが検視した結果、死因は鈍器で頭部を殴打されたことによる急性硬膜下血腫と判明。しかし、殴打されてから死亡するまで1時間ほど空いており、別の場所で襲われた後、自力で移動して発見現場で絶命したものと考えられた。また、遺体のズボンのすそ部分に数種類の細かい茶葉が付着していたが、職場である久住茶寮が扱っている茶葉とは一致しなかった。
「久住茶寮」主人・久住博之(藤田宗久)に事情を聞いたところ、元職人・角倉長治(松澤一之)が捜査線上に浮上。ギャンブル好きの角倉は、足を洗うと久住らに約束したにもかかわらず、こっそり賭けマージャンに興じているところを橋本に見つかり、5年前に解雇されたという。その角倉が1年前から京都で開いている緑茶カフェにマリコと宇佐見は訪ねるが、宇佐見は角倉から「茶の道をなめている」とたしなめられ、すっかり消沈してしまった。
そんな中、“宇治茶グランプリ”が開催される。久住は自身が合組した茶を出品するが、その茶は苦すぎて大不評を買った。この日、会場に姿を見せていた角倉。実は久住は味覚障害で、角倉は久住の茶を橋本が合組したものと入れ替えるつもりだった。
橋本は半年前から角倉の元を訪れ、合組を習っていた。その過程で「角倉さんは久住茶寮になくてはならない人」と確信し、戻ってもらうよう久住を説得すると決意。角倉の緑茶カフェに出資する稲山雅代(楠見薫)は橋本からその話を聞かされ、「あんたなんかに角倉さんは渡さへん!」と鈍器で殴打し、橋本を殺害した。

目が死んでいる風間トオル
今回は、完全なる“宇佐見回”だった。橋本のズボンのすそに茶葉が残っていたことを説明する際、「ちゃば」ではなく「ちゃよう」と読むことに宇佐見はこだわる。
「お茶の専門家は、茶葉と書いて『ちゃよう』と読みます」(宇佐見
科学だけでなくお茶の専門家でもあると自認する宇佐見

日野 「悪いけど、『ちゃば』でお願い」
宇佐見 「ああ……わかりました」

以降、宇佐見断腸の思いで「ちゃば」と口にした。このやり取りが後の展開に効いてくる。角倉のカフェでおいしいお茶を飲んだ宇佐見はどんな合組なのか質問した。すると、10万円を要求する角倉。驚く宇佐見に、角倉は言い放った。
「とっておきの合組を教えろって言うんだからそのぐらい当たり前でしょう。お客さん、茶の道をナメてるんじゃない?」
ただのぼったくりの料金設定なのに、気の毒なほどしょんぼりする宇佐見。お茶の専門家を自認していた彼のプライドはズタズタになり、それからはお茶を淹れることを拒否! ペットボトルのお茶を用意するほど、心が折れてしまった。
「もう、お茶は淹れられません。私はお茶のことを何もわかってなかった……」(宇佐見
心なしか、宇佐見目が死んでいる

でも、これでは終わらない。何と言っても、13話は“宇佐見回”なのだ。茶畑を訪れ、チャノキを見ることで、角倉が真摯な思いで茶に向き合っていると察した宇佐見。お茶を愛する彼の知識がなければ、今回の事件は解決できなかった。

いつも以上のツッコミどころの多さ
最初から怪しい匂いをプンプンさせている者は、大抵が悪人ではなく、それどころか逆に悲しい事情を抱えていることさえ多い。“科捜研あるある”だ。

今回は三角関係のもつれで起きた殺人事件だった。なんと、橋本と雅代が角倉を取り合うという図式! まさかの角倉ヒロインである。
「角倉さんとは雀荘で知り合って……。いい男でしょう?」(雅代)
雀荘に入り浸り、賭けマージャンをやめられない男を“いい男”呼ばわりするのはさすがに無理があると思う。個人的に松澤一之と言ったら『紳助の人間マンダラ』(関西テレビ)など島田紳助の番組でよく見た、気のいいおっちゃんというイメージが強い。

常にツッコミどころの多い『科捜研の女』だが、今回はいつも以上だった。まず、雅代の殺人動機があまりにクソすぎるのだ。近年まれに見る、ひどい動機。ペラペラ過ぎた。
「このままずっと彼と一緒にいられると思った。それなのに、橋本さんが現れて状況が変わった……。角倉さん、急に付き合い悪くなって。私はただ、角倉さんと幸せになりたかっただけやのに!」(雅代)
こんな理由で唐突に鈍器で殴りかかり、人を殺すこともないだろうに。ワケがわからな過ぎて、雅代が犯人だと予想することはできなかった。取調べ中、雅代を見る土門の目も怒りに満ちている。

橋本も橋本で無神経だ。それなりに立派なカフェなのに、問答無用で閉めろと迫るのも酷というもの。他人の事情を考えず、お茶のことしか頭にない職人っぽさはいかにも。というか、角倉がどうするつもりなのかを橋本と雅代は確認していない。本人の意向を聞かず、勝手に揉め、勝手に殺人沙汰をやらかした2人。「ちょっと落ち着け」と、思わず両者に助言したくなる。

何より大前提として、早急に久住に味覚障害であることを告げなきゃダメだ。
「どうしても口にしたくなかった。師匠にはもうお茶の味がわからないなんて……」(角倉)
そんなこと言ってる場合じゃないと思う。秘密にするなんて、角倉と橋本は一番残酷なことをしている。

マリコは「久住茶寮に戻ってきてほしい」と橋本が願っていたと、角倉に伝えた。いかにもいい話として着地した風である。でも、それ以前に角倉はギャンブル中毒を治さなきゃダメだ。ぼったくりカフェを出店するなど、昔以上に性根を腐らせている角倉。だから、根こそぎ人間性を変える必要がある。それをしなければ、きっとまた同じことを繰り返すだけ……。

お茶を淹れるだけで周囲を警戒させるマリコ
久住の味覚障害を角倉に認めさせるため、マリコはフラスコとビーカーを使い、自らお茶を淹れた。

土門 「お前が淹れたのか?」
マリコ 「ええ、そうよ」

マリコがお茶を淹れただけで警戒する土門薫(内藤剛志)。しょうがなく、土門はゴクッと飲んだ。

蒲原 「うっ、まずい」
土門 「一体、どういうつもりだ?」

バカ正直に「まずい」と口にする蒲原勇樹(石井一彰)に若さを感じる。一方、「どういうつもりだ?」と真意を探る土門。さすがである。マリコが淹れたお茶がまずい理由はマリコが淹れたから……じゃなく、合組した久住に味覚障害があったから。これぞ、マリコと土門の絆を表す場面だ。

例によって、13話のエンディングはマリコと土門のツーショットだった。遠くを見る土門はマリコに言った。
「俺たちも飲みに行くか」(土門)
土門がマリコをデートに誘った!? いや、宇佐見が淹れたお茶を飲みに行こうと呼びかけただけである。ただ、2人の関係性には裏設定がある。16日放送『金曜ロードSHOW!』(日本テレビ系)が放映したのは、映画『千と千尋の神隠し』。実は千尋の父・明夫の声は内藤が、母・悠子の声は沢口が務めている。科捜研ファンの思いを具現化したような起用法ではないだろうか。もはや、2人は夫婦みたいなものなのだから。

土門 「科捜研の茶の達人はどうした?」
マリコ 「また、お茶を淹れるようになったわよ」

科捜研の父と母が気にする“科捜研の茶の達人”宇佐見が復活するくだりは粋だった。事件解決後、宇佐見は角倉から声を掛けられた。

角倉 「俺のとっておきの合組、今度教えてやる」
宇佐見 「自分で研究します」
角倉 「いい根性だ。ハハハハ」
どうやら、彼は立ち直った模様。それにしても、宇佐見はどこを目指しているのだろう。

マリコだけでなく、宇佐見や日野和正(斉藤暁)が特性を活かし活躍する姿を見せてくれるのが、『科捜研の女』のいいところ。13話を観ていたら無性にお茶が飲みたくなった。宇佐見にお茶を淹れてほしい人生だった。
(寺西ジャジューカ)

木曜ミステリー『科捜研の女』
ゼネラルプロデューサー:関拓也(テレビ朝日
プロデューサー:藤崎絵三(テレビ朝日)、中尾亜由子(東映)、谷中寿成(東映)
監督:森本浩史、田崎竜太 ほか
脚本:戸田山雅司、櫻井武晴 ほか
制作:テレビ朝日、東映
主題歌:今井美樹「Blue Rain」ユニバーサル ミュージック/Virgin Music)
※各話、放送後にテレ朝動画にて配信中

イラスト/サイレントT