*写真はイメージです photo by mits / PIXTA(ピクスタ)

◆国を挙げて行われる不正義、技能実習制度
 現在、日本で働く外国人労働者は約146万人。そのうち、技能実習生は32万8360人、留学生は29万8980人である。いずれもアジアから来た20~30代の若者が大半だ。改正入管法の施行に伴い、今後5年間で最大34万人の外国人労働者が新たにやって来る。だが、これまで本誌で伝えてきたとおり、すでに深刻な問題が起きている。

 技能実習生や留学生は多額の借金を背負い、アジア各国から日本へ出稼ぎに来る。だが、制度的欠陥や不正の横行により、始まったばかりの人生を台無しにする若者が後を絶たない。日本人は国を挙げてアジアの若者たちを喰い物にし、安い労働力として使い捨てているのだ。これは現在の日本社会が抱える最大の不正義の一つである。

 ジャーナリズムの使命は国民の耳に届かない「声なき声」を伝えることだ。そして今、日本社会で最も声をあげづらく、最も助けを求めにくいのは外国人労働者である。「外国人労働者」という無味乾燥な六文字の裏には、顔と名前を持った一人ひとりの人間がいる。保守系論壇誌『月刊日本』では、22日に発売したばかりの9月号より、毎号その声なき声を伝えるという。
 今回はその連載第一回目を紹介したい。

◆衝撃の給与明細
 ここに一枚の給与明細書がある。ある技能実習生が実習先の企業から受け取った、平成30年8月分の給与明細である。そこに記載されているのは「出勤日数1日」、「支給合計7141円」、「控除合計2万7316円」、「差し引き支給額マイナス2万0175円」……。

ある技能実習生の給与明細。その衝撃的な数値

 そう、これは給料がマイナスの給与明細なのである。技能実習の現場で何が起きているのか。7月下旬、ベトナム人技能実習生・留学生を支援している東京都・港区の浄土宗寺院「日新窟」で、実習生2人を取材した。

「私たちは仙台の内装・建築会社で働いていました。これはその時の給与明細書です」
「会社は嘘つきです。今はもう日本人が怖い」

 こう話すのは、ベトナム人技能実習生のグエンさん(25歳男性・仮名)とホアンさん(24歳男性・仮名)。2人はベトナム南部のホーチミン市出身で、本国の日本語学校で机を並べて勉強した仲だ。彼らは2016年に来日後、仙台の内装・建築会社の実習先に配属された。だが、そこで待っていたのは「奴隷労働」だった。

 まず賃金である。2人は同社で1年半~2年近く働いたが、この間「給料をいくらもらったかは分からない」という。会社が給与明細書を発行してくれなかったからだ。昨年、何とか頼み込んで給与明細書を発行してもらったが、そこには衝撃の数字が記載されていた。

 ホアンさんが昨年3~4月、6~8月分の給与明細書を持っていた。3月分給与は14日出勤で支給額は8万2362円、4月分は17日出勤で8万7627円だった。しかし実際の出勤日数は25日以上だった。会社側に抗議したところ、さらに出勤日数と支給額を減らされた。
 その結果、6月分は1日出勤で6948円、7月分は8日出勤でマイナス4220円、そして冒頭で紹介したとおり8月分は1日出勤でマイナス2万0175円だった。さすがにマイナス分は徴収されなかったというが、支給額がマイナスの給与明細書など前代未聞である。

 なぜ5月分の給与明細書がないのか。ホアンさんの記憶は定かではなかったが、支給日を確認すると4月27日に3月分給与が、5月27日に4月分給与が支払われたあと、6月27日に5月分給与を飛ばして6月分給与が支払われていた。さらに詳しく見ると、6月分給与が6月27日に支払われたあと、7月分給与は7月27日ではなく8月27日に支払われていた。おそらく5月分給与は元から支払われておらず、その帳尻を合わせるために7月27日の給料日はなくなったのだろう。

 いずれにせよ、ホアンさんが昨年3~8月の6カ月でもらった給与は手取りで17万6937円、マイナスを加味した額面で15万2542円だった。毎月20日以上、つまり半年間で120日以上働いて給料が18万円にも満たないとすると、日給は1500円以下である。「低賃金」どころの話ではない。2人は食費にすら事欠き、寮の近くに住む他のベトナム人に食料を分けてもらったり、畑の道端に捨てられている野菜を拾って食べたりしていたという。

「出勤日を1日にされてからもう一度抗議したら、部長からもの凄く怒られました。その後、『切符を買ったからベトナムに帰れ』と言われました。監理団体にも連絡しましたが、何も言いませんでした」(ホアン)

 その後、本制度を統括する外国人技能実習機構(通称「機構」)が査察に入り、2人は突然仙台の実習先から群馬の監理団体に預けられたという。

「実習先の会社からは『解雇だ』と言われ、機構と監理団体からは『技能実習は活動停止だ』と言われましたが、詳しい事情はよく分かりません。とにかく何も分からないまま会社を辞めて群馬に行きました」(グエン)

 本誌はこの点について事実確認をするために機構へ問い合わせたが、「個別の事例については情報を公開していません」の一点張り。当該企業にも取材を試みようとしたが、すでに倒産していた。

◆殴る、蹴る、怒鳴る
 問題は他にもあった。技能実習生は制度上、従事可能な職種や作業が定められており、グエンさんとホアンさんは「内装」の職種で技能実習を認められ、会社との契約書でも従事すべき業務は「表装(壁装作業)」と明記されていた。しかし、実際の労働内容は違った。

「建築現場での運搬作業や解体作業など、職種とは無関係な雑用ばかりやらされました。日本人がやりたくない仕事ばかり押しつけられる」(グエン)
「それ以外にも社長や部長の自宅を建てさせられたり、社長が持っている田んぼ田植えをさせられました。昨年は半月以上かけて手作業で田植えをしました。どれくらい広いか、ですか? ……とにかく広かったです」(ホアン)

 労働時間はどうだったのか。

「朝8時から現場で仕事をします。休憩時間は1時間。日本人は昼食をとったあと時間一杯まで休むけど、ベトナム人はご飯を食べたらすぐ仕事に戻る。仕事が終わるのは夕方6時。日本人は定時で帰るけど、ベトナム人は夜中12時まで仕事をする。残業手当はつかない。現場が遠いと寮に帰るのは朝2時。やっと夕食をとって、次の日のお弁当を作ってから寝る。起きるのは朝5時。睡眠時間は1~2時間だけ」(グエン)

 契約書では「休日 定例日:毎週土、日曜日、その他」と記載されていたが、休日出勤もざらであり、当然のように休日手当はもらえない。

「でも、それは我慢できる。辛いのは、日本人の態度が悪いこと。木材で殴る、安全靴で蹴る、顔に向けて吸い殻を投げる、『アホ』『バカ』『死ね』『現場から出ていけ』『仕事を辞めろ』『ベトナムに帰れ』と毎日怒鳴られる。会社の人はパチンコで勝つと優しくて仕事をくれるけど、負けると厳しくて仕事をくれない。仕事がもらえず、何もしないで過ごした時間も沢山ありました」(ホアン)

 この実習先では6人の実習生がいたが、1人は帰国、2人は失踪、グエンさんとホアンさんを含む3人は様々な事情から群馬の管理団体に預けられているという。だが、彼らには借金が残っている。家族に事情を打ち明け、日本で得た僅かばかりの賃金とベトナムで両親がコツコツ蓄えた貯金を返済に充てているが、完済には足りない。

「私は一人っ子で、両親を支えたくて日本に来ました。でも、両親は『日本はテレビで観るのとは違って怖い国だから心配している。いつでも帰ってきなさい』と言っています」(ホアン)
「私は4人兄弟の長男です。両親は65歳以上の高齢で働けない。自分が家族の生活を支えるしかない。30代の姉は乳ガンで、その治療費も稼がないといけない。でも、日本でいくら働いても渡航費用の借金すら返せない。『もう死んだ方がいい』と自殺も考えたけど、家族のことを思ってやめました」(グエン)

 この時、グエンさんのビザの期限は8月上旬に迫っていた。グエンさんは「どうにもならなければ失踪します。その後のことは分かりません」と切なそうに微笑んだ。

◆「日本人は怖い」
 後日、日新窟から連絡がきた。2人は監理団体からそれ相応の和解金を得て帰国することになったという。帰国前にもう一度彼らに会った。

「皆さんのおかげで借金の心配はなくなりました。ベトナムに帰ったらまた勉強します。『特定技能』の枠でもう一度日本に来て、今度こそ技能を身につけたい」と語っていた。その表情は先日よりも少しだけ明るい気がした。

 彼らは日本で何を手にしたのか。確かに借金の返済に十分な和解金は得た。しかし家族を支える金額は稼げず、技能は何も習得できなかった。再び日本に来られる保証もない。彼らの手元に残ったのは、若い時代の貴重な3年間が無駄になったという事実と日本に対する恐怖や不信だけではないか。

 取材中、日本人である筆者を前に、彼らは終始怯えるような目つき、弱々しい声音で話をしていた。「日本人は怖い」――アジアの若者から言われたこの言葉、その声の響きが忘れられない。

<取材・文・写真/月刊日本編集部>

【月刊日本】
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ある技能実習生の給与明細。その衝撃的な数値