日本の大企業が、米国を始め欧米のアニメマンガ関連企業の買収を急ピッチで進めている。海外のアニメ企業に日本の資本が強力な影響力を持つようになってきたのだ。日頃、中国や米国などの海外資本が日本アニメに参画するようなニュースを目にしているファンにとっては、意外な流れかもしれない。だが、世界のエンタメ産業が激変を迎える中、日本のコンテンツ産業もグローバルな生き残り戦略を通じ、勝負に出ようとしているのだ。

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●「京アニ」支援も手掛けた米アニメ配給大手を買収

 8月、官民ファンドクールジャパン機構は米国で日本アニメを配給するセンタイ・ホールディングス(HD)への出資を発表した。センタイの株式の一部を約32億円取得する。経営は引き続きCEOのジョンレッドフォード氏ら現経営陣となるが、株式保有比率はクールジャパン機構がマジョリティー(多数派)になる。少なくとも資本面ではクールジャパン機構が主導権を持てることになる。

 日本ではほとんど取りあげられず、アニメ業界ですらあまり話題にならなかったニュースだが、米国の日本アニメ業界やファンにとっては日本以上に大きなニュースだ。これにより米国にある日本アニメマンガ流通を手掛ける大手企業のほとんどが、ハリウッドメジャーか日本企業のグループ会社になったからだ。 

 センタイは日本アニメマニアックな作品に定評がある会社として、ファンや業界関係者におなじみだ。『けいおん!』や『メイドインアビス』『ポプテピピック』『バンドリ!』『ハイキュー!!』などの人気タイトルを多く北米で展開している。作品タイトル数は700以上、独自の動画配信プラットフォーム「ハイダイヴ」も運営する。

 同社は「萌え」や「日常」「ロボット」「お色気」といった、コアファンに支持の高いジャンルを得意とする。数ある米国の日本アニメ会社でもとりわけファンの目線に近い。

 先頃は、京都アニメーションの放火事件に際して被災救済のクラウドファンディングをいち早く立ち上げたことでも注目を浴びた。まさに米国のアニメファンコミニティーの中核が買われたと言っていいかもしれない。

 アニメファンや業界関係者にも突然なM&A劇ではあったが、実はこうした日本企業による海外のアニメマンガ関連企業の買収は近年急増している。今回のクールジャパン機構=センタイに限ったことではない。海外展開を目指すアニメマンガ関連の日本企業は、海外進出にあたり現地で実績を持つ企業への買収戦略を積極的に進めている。

●大手出版やアニプレックスが欧米企業を次々傘下に

 中でも大きなニュースとなったのが、17年8月にソニー・ピクチャーズテレビジョンネットワークスが米国最大の日本アニメ配給会社ファニメーションを約1億5000万ドル(約165億円)で買収したことだ。ソニー・ピクチャーズは米国企業だが、親会社のソニーが日本企業であることは言うまでもない。さらにファニメーションは19年、英国最大の日本アニメ配給会社マンガエンタテインメントを子会社化している。

 ソニーグループでは、ソニーミュージック系のアニプレックスもM&Aを活用した海外事業の拡大に積極的だ。アニプレックスは05年に設立した米国法人アニプレックス・オブ・アメリカを中心に海外で最も成功した日本企業の1つである。15年にフランスの日本アニメ配信会社ワカニムに出資しグループ会社化、またドイツの大手日本アニメ配給会社ペパーミントと共同出資会社ペパーミントアニメを設立している。19年にはオーストラリア最大手の日本アニメ配給会社マッドマン・アニメに出資するなどその勢いは衰えない。

 フランスでは09年に早くも小学館集英社グループが、現地の有力会社KAZEグループを買収した。講談社と大日本印刷は11年、米国で日本書籍を翻訳する出版社ヴァーティカルを傘下にし、KADOKAWAは米出版大手から日本マンガの翻訳出版第2位の事業部門エンプレスを分社化、株式51%を取得して16年にグループ会社化している。ホビー関連でもバンダイナムコグループが18年、北米企業が手掛けるコアファン向けの玩具販売事業「ブルーフィン」を2700万ドル(約29億円)で取得している。日本アニメマンガ関連の現地企業で日本資本が入る会社は驚くほど急増した。

 日本企業によるM&Aは、規模で言えばマーベルルーカス、21世紀フォックスを飲み込むディズニーやAT&Tとタイムワーナーの経営統合に比べればはるかに小さい。ただし海外における日本アニメマンガは、元が小さな市場だけにそのインパクトは大きい。

 とりわけ目立つのはマーケットの占有率である。典型的なのは北米の日本マンガ翻訳出版業界だろう。小学館集英社グループのVIZメディア講談社USA、そしてエンプレスと上位企業は全て日系出版社が占めることになった。市場の占有率は軽く9割を超える。15年前、北米で日本マンガブームと言われた時代は、逆に日系企業のシェアは2割にも満たなかったはずだ。

 日本企業以外でも、日本アニメ専門の動画配信クランチロールが、M&Aが繰り返されるなか18年にハリウッドメジャーの一角ワーナーメディアグループの傘下に入っている。日本アニメマンガ業界の主要企業は今回のセンタイも含めて、ほとんどが日本企業とハリウッドメジャーの傘下に入った。

●米国でファンが培った市場に「後乗り」

 これは米国における日本アニメマンガの時代の大きな変わり目を感じさせる。もともと米国の日本マンガアニメビジネスは、1980年代から2000年代初頭にかけて地元米国のファンが築き上げた面がある。今や1回で何十万人も集める巨大なアニメコンベンションや関連する企業も、熱心なファン活動から始まったものが多い。日本コンテンツは日本の企業側から積極的にプッシュするのではなく、ファン側が自ら開拓してプル型(ユーザーが能動的に動く)の発展を遂げてきた。

 米国の古いアニメファンには、自国のアニメ文化は自分たちが築いてきたとの自負がある。「大企業は自分たちが作ったものに後乗りをしてきた」という意識が強い。

 相次ぐ欧米の老舗コンテンツ企業の買収は、まさに大企業による後乗り戦略に当たる。市場が十分成長したところで、そのシステムをまるごと傘下に置く。その一角に日本企業も存在する。15年にDeNAアニメマンガファンの巨大コミュティMyAnimeListを買収したのはその典型だ。現在は日本のデジタル出版流通のメディアドゥHDの傘下にあるMyAnimeListアニメマンガファンの膨大な投稿から構成されているが、現時点で十分収益化できていないはずだ。それでも買収側は、大量のファンが集まるシステムビジネスの可能性を期待している。なぜならそれは、日本企業には作れないものだからだ。

 大企業が豊富な資金で時間や新しいアイデアを買い、新規事業立ち上げのリスクを低減するのは他業界、とりわけ海外でよく見られる。日本アニメマンガもそうした市場の原理と無縁ではない。

●日本企業、かつて「現地法人」で失敗

 相次ぐM&Aが示すのは、日本アニメマンガの海外事業のビッグビジネス化かもしれない。その背景には10年代に世界的に広がった人気もあるに違いない。日本企業にとっても海外市場はかつて考えられていたような“ちょっとしたボーナス”でなく、もはや「メインターゲット」として自ら貪欲に取りに行くものである。まさに米国、そして世界全体でも日本アニメマンガ業界のビジネスは大きな転換点にある。

 逆に00年代半ばまでは、日本企業は海外進出にあたりゼロからビジネスを立ち上げるケースが多かった。VIZメディアアニプレックス・オブ・アメリカといった成功例はあったが、ビジネスが続かず早々に撤退した例の方がむしろ多かった。直近で大胆なM&Aを実施したバンダイナムコHDとKADOKAWAに共通するのは、かつてこうした現地法人の立ち上げで失敗している点だ。

 1998年に米国でアニメキャラクター事業を目的に設立されたバンダイエンタテインメントは2012年に事業を停止、05年に設立されたアニメ配給のバンダイビジュアル USAは08年に清算されている。00年代アニメ事業で進出を目指したカドカワピクチャーズUSAも09年に事業を停止している。いずれも00年代後半の米国の日本アニメ不況の煽りを受けたが、その裏には企業体力の不足があった。その教訓を得ての現在のM&A戦略と言えるかもしれない。

ビジネスが「日本からの視点」に寄りがち

 実は先のクールジャパン機構も同じ失敗をしている。14年に出資したアニメコンソーシアムジャパンである。アニメコンソーシアムジャパンは、国内アニメ会社・出版社が連合して日本アニメを世界に配信する映像プラットフォームの運営を目指した。ゼロからプラットフォームを立ち上げたが、十分なユーザーを集めることが出来ずに大きな損失を出して事業を清算している。

 日本企業の直接進出がうまくいかない原因には、ビジネスが日本からの視点になりがちな点がある。現地のニーズを十分引き出せず、ユーザーとのコミュニケーション不足が効果的なマーケティングを阻む。そのため近年は、ユーザーとの関係を既に構築している現地企業のノウハウをそのまま手に入れようとしている。

 実際にこうした買収はどの程度、各日本企業の事業に貢献しているのだろうか。海外出資の成功例はあるのだろうか。バンダイナムコグループの場合、ブルーフィン買収後の20年3月期第1四半期の米国事業の売上高と利益は2桁の伸びとなっており、少なくとも買収は業績にネガティブではないようだ。KADOKAWAも北米のアニメ原作・コミカライズ電子書籍について「好調」としている。それでも実態はよく見えておらず、その真価が分かるのはもう少し先かもしれない。

 もちろん企業買収にも大きなリスクがある。一般的な海外M&Aが成功する確率は3分の1以下といった調査もあるほどだ。コンテンツ関連だと近年では、タカラトミーが11年に買収した米国玩具会社RC2が巨額の特別損失を迫られた。IMAGICA GROUPも15年に買収した米国映像ローカライズ会社SDIメディアの事業の立て直しに手間取っている。

 海外事業は買収前に見えなかったリスクが、買収後に明らかになるケースが少なくない。さらに人材流出で思ったように業績を残せないケースも多い。あるいは買収先とのコミュニケーションの不足が予想以上に経営悪化を招くこともある。

 センタイを経営するジョンレッドフォードCEOは、以前はADヴィジョンという別のアニメ会社を運営していた。06年に日本の総合商社・双日と日本政策投資銀行は投資ファンドを通じてADヴィジョンに出資したが、00年代後半の北米アニメ市場の不況を受け、09年にADヴィジョンは事業停止している。この結末は日米双方にとって後味の良いものではなかった。ビジネス環境の悪化もあったが、意思相通が欠けていたことも理由にあっただろう。

 ではなぜクールジャパン機構はあらためてセンタイへの出資に取り組んだのだろうか。そしてセンタイは、クールジャパン機構を受け入れたのか。

●激動のエンタメ業界、「金で時間を買う」日本勢

 センタイは、近年急激に強まる業界各社の大資本化に懸念を募らせていた。巨大化するアニメマンガ産業に資金力で追い付かない。年商数兆円を誇るハリウッドメジャーNetflixAmazonの市場参入で加速する、独立系企業各社に共通する悩みだ。そこで日本企業を含めた外部資本を求めるようになった。

 しかし例えば、ファニメーションのようにどこか大きな企業の傘下になるのは躊躇(ちゅうちょ)する傾向がある。ある特定のグループ企業になることは、別の企業から反発を招くからだ。センタイは多くの取引先企業があるから、特定の企業の色がつくことでこれまでのビジネスが縮小する可能性があった。

 それはクールジャパン機構も同様だ。クールジャパン政策で何かとやり玉にあがることの多いクールジャパン機構だが、そもそも組織のミッションである「日本のクリエイティブ産業の振興」と「投資利益の確保」は矛盾する。企業のミッションは「公共性」なのか「利益」なのか。もちろん両方と言えるし、さらに国のお金も投入される以上「中立性」も求められる。

 業界に対して中立な立場にあるセンタイの企業カラーは、クールジャパン機構のミッションに合う。さらに日本の多数の企業から多様な作品のライセンスを取得し、市場に流通するセンタイはクリエイティブ産業振興という目的にも合致している。クールジャパン機構のセンタイへの出資という意表をついた取り組みは、双方が「どこの企業グループにも属さない」という点で互いに都合が良かった。

 M&Aの目的で「金で時間を買う」とよく言われる。ゼロから育てるリスクと時間を、買収によってカットすることだ。

 アニメだけでなく、今や世界のエンタメ業界は大激動の中にある。日本アニメはこれまでハイティーンから20代の青年層に強いと言われ、この分野で圧倒的なシェアを誇ってきた。しかし現在、この青年向けマーケットは各国のエンタメ企業が目をつける成長市場だ。青年層をターゲットにした作品は世界的に急増している。

 だからこそ日本は一歩も二歩も先を行かなければいけないが、残された時間はさほど多くない。時間を買わなければいけない理由がここにある。

 日本アニメマンガの海外普及が進む一方で、その人気拡大の重要なツールとなる映像配信やデジタル書籍のプラットフォームは海外企業に大きく依存している。映像配信であればNetflixAmazonプライムビデオマンガで言えばAmazon Kindleといった具合だ。放送や映画配給も海外に関しては外資依存が相変わらずだ。

 コンテツの流通システムが外資に押さえられているからこそ、商品や周辺サービスだけは日本が市場を取りにいくべき、という構造もある。コンテンツ流通の大元が外資に押さえられる一方で、その周辺産業においては、M&Aにより日本企業の影響力が強まるという、対称的で不思議な状況が進んでいる。

 海外市場では現地企業・外資系企業に押されがちと思われている日本だが、相次ぐM&Aはコンテンツビジネスがそれほどシンプルな構造でないことを示している。まだまだ日本のビジネスプレイヤーが海外市場で活躍する余地は大きい。昨今のM&A状況はそれを示しているともいえるだろう。

数土直志(すど ただし アニメ・映像ジャーナリスト

【画像】米国のアニメ・漫画の祭典「アニメエキスポ」