―[インテリジェンス人生相談]―


 “外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報のプロ・佐藤優が、その経験をもとに、読者の悩みに答える!

◆インテリジェンスの力で人を見る目を養いたい

★相談者★匿名希望 元会社役員 男性 55歳

 インテリジェンスの世界に身を置いた佐藤さんにお聞きしたいことがあります。人を見る力を養うにはどうしたらいいでしょうか? 私は何度も騙され、裏切られ、嘘をつかれ、人間不信になるようなトラブルに巻き込まれてきました。もはや親しい友人以外は信用できません。今後、信頼できる人間や一緒に事業を起こしてもいいと思える人間、安心してお金の貸し借りができるような人間を見つけたいです。

佐藤優の回答

 人間を見る上で役に立つのがキリスト教の人間観です。キリスト教では、人間は原罪を持ちます。さらに、さまざまな罪を積み重ねます。罪が具体化すると悪になります。人間は、1人の例外もなく、悪を犯します。また人間が形成する社会にも悪があります。アメリカプロテスタント神学者ラインホールド・ニーバーはこんなことを述べています。

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 人間は生命力と理性との統一体であるゆえに、生の社会的調和は、決して、純粋に合理的なものではありえない。そこには、合理的であると同時に情緒的で意志的でもあるあらゆる力や潜在力の相互浸透がある。しかし、合理的自由の力は、人間の共同体に、自然的な共同体よりも高い次元をもたらす。不確定に退行する自然の限界を超える人間の自由は、兄弟愛の純粋さや広がりの限界を固定することができないことを意味する。人間は、歴史の中で、そのような兄弟愛を求めて奮闘努力しているのである。兄弟愛についてのいかなる伝統的達成も、それらより高次の歴史的視点からの批判を免れるわけではなく、また、それぞれの新たな達成段階において堕落を免れているわけでもない。

(『人間の運命――キリスト教的歴史解釈266頁)
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 人間の社会は、合理的にできているわけではありません。そこには悪の要素があります。あなたは、ビジネスパートナーに何度も騙され、裏切られ、嘘をつかれ、人間不信になるようなトラブルに巻き込まれたということですが、それが人間の自然な姿なのです。人を軽々に信じてはいけません。人間には悪に傾く性向があるということを、冷静に見つめることが重要です。

◆自力でお金を稼いだほうがいい

 安心してお金の貸し借りをしたいならば、友人は避けたほうがいいです。相手の資産を確認して、返済できる範囲で貸すべきです。借りる場合も、自分が担保できる枠内で借りるべきです。金銭貸借に友情を絡ませてはなりません。万一、お金の貸し借りをせざるを得なくなった場合には、公証人役場で公正証書を作成するといいでしょう。

 一緒に事業をするときも、単に気が合ったからという理由だけで共同事業を行うと、トラブルが起きることが多いです。儲かっていないときは協力関係が順調に進んでも、多大な利潤が出るようになると、その分配をめぐってトラブルが生じます。事業に関しては人間的に信頼できる人よりも、仕事ができて、ビジネスライクな人のほうがいいと思います。事業を興す場合には、誰かの資金に期待するのではなく、自力でお金を稼いだほうがいいと思います。

 あなたはもう55歳ですから、今から新規の人脈を構築することは現実的でありません。過去に付き合った人の中から、ビジネスの能力が高く、性格的にもやっていけそうな人を選ぶのが得策と思います。事業を始める場合も、出資金に応じて株式を発行し、互いの責任を明確にしておいたほうがいいでしょう。

★今週の教訓……時に悪に傾くのが人間の自然の姿です

佐藤優
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数

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