横浜市磯子区「ローソン氷取沢町店」で0時から5時まで無人営業

横浜市磯子区「ローソン氷取沢町店」で0時から5時まで無人営業

〈深夜は酒・たばこ・ファストフードの販売なし〉
ローソンは深夜に売り場を無人にする「スマート店舗(深夜省人化)」の実験を、8月23日0時から、横浜市磯子区の「ローソン氷取沢町店」で開始した。0時~5時の深夜時間帯は、入店にQRコードなどの認証システムを必要とし、決済は現金も使用できるセルフレジまたはスマホレジで顧客自身が行う。コンビニ業界で大きな課題となっている人手不足への対策として、営業時間の短縮ではなく、あくまでも24時間営業維持を前提に、客数が大きく減少する深夜時間帯にIT技術を投入することで、物流など現在のオペレーションを変更することなく、現実的に水平展開できるモデルを検証していく。
決済はスマホレジかセルフレジ。セルフレジでは現金も使用できる

決済はスマホレジかセルフレジセルフレジでは現金も使用できる

0時~5時は入口のドアを自動施錠する。入店にはローソンアプリで事前登録する入店用のQRコード、近隣の顧客に配布したQRコード付きの入店カードをかざす必要がある。ただし、それらを持たない通りがかりの顧客も、入口で顔撮影をすることで入店できる。「限られた人だけではなく、どなたでも利用できる店舗であるべき。顔を撮影することで、トラブルがあった時も特定できる。撮影したデータは防犯カメラと同じ扱いで、一定期間経ったら削除する」(ローソン業務システム統括本部システム企画部の長澤拓弥氏)という。

入り口横の入店管理機器でQRコードをかざすか、顔写真を撮らないと扉は開かない

入り口横の入店管理機器でQRコードをかざすか、顔写真を撮らないと扉は開かない

完全無人ではなく、バックヤードに従業員1人が勤務する。万引きや迷惑行為防止のため、通常8台の防犯カメラを17台に増やし、新たに360度カメラ12台を設置し、監視センターとバックヤードの従業員が常に監視する体制を取る。店内は無人のため、対面販売が必要な酒類、たばこ、店内調理のファストフード(FF)は販売しない。切手や収納代行、マルチ端末「ロッピー」で注文してレジで発券するチケット販売、宅配便の発送や受け取りも深夜時間帯は利用できない。顧客がセルフで使う銀行ATM(現金自動預け払い機)とコピー機は利用できる。深夜時間帯はレジカウンター、酒売場はカーテンやシャッターを閉めて施錠する。

深夜は品揃えやサービスが限定されることになる。特に酒とたばこは深夜の売り上げの半分を占めるため、販売出来なければ、売り上げは確実に下がる。それでも実験する理由について、宮崎純専務執行役員コミュニケーション本部長は、「(売り場が無人の店舗が)顧客に受け入れてもらえるのか、反応を観たい。すべてがうまくいくとは思っていない。どんな課題がでてくるのかを検証したい」と話す。実験は来年2月末まで約半年間行う。

レジカウンターはカーテンで覆って施錠、酒売り場はシャッターを閉めて施錠

レジカウンターはカーテンで覆って施錠、酒売り場はシャッターを閉めて施錠

実験のために新たに導入した技術や設備の総額は1,000万円台で本部が負担した。「費用をかけようと思えば、最新技術はいろいろある。しかし、コストが高ければ横展開できない。必要最低限の技術に絞り、拡大する時にもっと安く導入できるようにする。人員ゼロにもトライする」(宮崎専務)という。夜間の人員は基本は2人体制だが、これをバックルーム勤務の1人のみを基本モデルにしていく考えだ。夜間の商品納品は物流ルートや納品時間は変更せずに、あくまでも既存のしくみの中にスマート店舗も組み込んでいく。売場に人がいない深夜は、店舗裏の鍵付き倉庫に置き配のような形で納品する。

今回実験店に選んだ「氷取沢町店」は、ローソンの加盟店オーナーで構成する共済組織「オーナー福祉会」の前田明理事長がオーナーの店舗。前田理事長は横浜市内で「ローソン」「ナチュラルローソン」20店を経営する。「氷取沢町店」は住宅地立地で、0時~5時の平均客数は約30人と、深夜の売り上げ構成比が比較的低い店舗になる。ローソン側も「深夜の売り上げが低い店舗と人手不足の店舗」(宮崎専務)をスマート店舗の対象にしていく考えだ。実験店を直営店にしなかったのは、「直営店では社員が実験を成功させてしまうだろう。加盟店なら(課題など)本当の意見を言ってくれる」(宮崎専務)とみるため。

前田理事長は、「酒とたばこは、お金をかけて自販機を導入すれば無人でも販売はできる。しかし、それでは売り上げは取れるが、実験する意味がなく、水平展開もできない。夜間に人員が1人減れば、時給1200円で5時間で6000円、1カ月で18万円のコストが下がる。売り上げが下がっても、その分コストが下がればカバーはできる。何より人手不足が深刻なオーナーにとっては、こういったことを率先して実験していくことに大きな意義がある」と話した。

ローソンが24時間営業維持を基本にする背景には、10数年前に時短営業の実験をして、客が離れてしまい、失敗した経験がある。「閉店時間があると、閉店前に売り切るという廃棄コントロールが必要になる。売り切るために発注を制限してしまい、本来は一番売れる閉店前の1時間に商品がないという事態が起こり、顧客が他店へ流れてしまった」(宮崎専務)という。

ローソンは原則24時間営業だが、時短営業の契約パッケージもあり、国内約1万4600店のうち、500店余りが時短営業。長野県軽井沢町のように条例で深夜営業が禁止されている地域、ビル内で深夜はビルそのものが閉鎖される場所などが大半。加盟店の都合の時短営業は、今春の41店から現在61店に増え、約50店が24時間営業から時短に移行するかどうか本部と相談中だという。

横浜市磯子区「ローソン氷取沢町店」で0時から5時まで無人営業