「やっぱり、ラブ&サウナ&ピースですなぁ」

みんなでサウナに入れば戦争なんかなくなるはず。そんな深遠なメッセージをさらりと伝えているのが、テレビ東京のドラマ25「サ道」

「サ道」と書いて「さどう」と読む。「サウナ道」と「茶道」をひっかけたわけだが、原作者のタナカカツキ(「コップのフチ子」を考案したイラストレーターにしてサウナ大使)は「サウナと茶道は近い」とわりと真剣に語っている。

「サ道」は、サウナ愛好家(サウナーと呼ぶ)のナカタ(原田泰造)と偶然さん(三宅弘城)とイケメン蒸し男(磯村勇斗)が、ホームサウナの「サウナカプセルホテル北欧」のサウナで蒸されたり、外気浴をしたりしながら、全裸にタオル一丁の姿でサウナ体験談を語り合う(だけ)のドラマである。

サウナといえば、酒を飲んで終電を逃したおっさんが集まる場所というイメージもあるかもしれないが、それはもはや過去の話。現在は「サウナカルチャー」とでも呼びたくなるようなサウナに関する新しい波が次々と起こっている。その中で「サ道」が果たした役割は大きい。自他ともに認めるサウナーの原田泰造が「(サウナの)歴史を語る時に“タナカカツキ前”、“タナカカツキ後”といわれるくらい、『サ道』はものすごい影響力のある漫画なんです」と語るほどである。

まず、「サ道」はサウナの入り方をレクチャーした。サウナ、水風呂、外気浴(あるいは休憩)を3セットほど繰り返すと、えもいわれぬディープリラックス状態、つまり「サウナトランス」を味わうことができる。これを「ととのう」と呼ぶ。「ととのう」は「サ道」以前から使われていた言葉だが、「サ道」によってより広まった。タナカカツキのイラストによる「サウナの入り方」のポスターは大きなサウナのほとんどに貼られていると言っても過言ではない。

「サ道」と「孤独のグルメ」の比較
ドラマ「サ道」は、観ているだけでサウナトランスを疑似体験できるようなドラマだ。ナレーションも務める原田泰造の語り口は極力抑えめで、ささやき声のよう。コーネリアスによるテーマソング、「MUSIC FOR SAUNA」というサウナ音楽CDを出している音楽家・とくさしけんごの劇伴音楽も心地良い。

お話といえば、ナカタが有名なサウナ施設を訪ね歩き、名物サウナで蒸され、水風呂に体を浸し、外気浴で安らいで、「ととのったー」(タナカカツキによるCGで表現される)というだけのもの。だが、それがいい。「孤独のグルメ」の食事シーンがサウナに置き換わったようなものとも言えるが、「孤独のグルメ」に比べて実在のサウナ施設の紹介に力が入っている。

また、ドラマ部分はほとんどなく、サウナの入り方などの「サウナリテラシー」やサウナカルチャーを伝える部分がさりげなく強調されている。先週放送された5話では、神奈川県平塚市にある「太古の湯 グリーンサウナ」にある「テントサウナ」が紹介されていた。また、長野県小海町で9月に開催される「SAUNA FES JAPAN 2019」にも言及している。

ロウリュ(サウナストーンにアロマを含んだ水をかけて蒸気を起こす)、熱波師(ロウリュで起こした蒸気をタオルなどで客に送る仕事)、ヴィヒタ(白樺の枝を束ねて体を叩く)などの言葉を「サ道」で初めて知った人も少なくないだろう。知っている人が見れば、「ああ、気持ちよさそうだ……」となり、週末はサウナに行こう、と思うようになる。サウナ施設で食べられるサウナグルメの紹介を欠かさないのも心憎い。上級者は気持ちよさそうなサウナの情報を見るだけでととのうらしいので、ドラマ「サ道」を観ながらととのう人もいるのかもしれない。

大の大人が全裸にタオル一丁で外気浴しながらディープリラックスを味わっている姿は、ひたすらだらしなくて無防備でのんきなものだ。そこには虚勢も虚飾も利益誘導も何もない。「これだけ同時にみんなでととのえれば、戦争はなくなるな」というセリフの通りである。週末は「サ道」を観て、サウナへ行こう。それが平和への道にもつながっている。

今夜放送の6話は、ついに「サウナの聖地」と呼ばれる静岡県の「サウナしきじ」が登場。これは観るだけで絶対にととのうぞ。サウナーは必見。0時52分から。
(大山くまお

『サ道』タナカカツキ/パルコ(2011)