夏の終わりの陸上自衛隊恒例行事富士総合火力演習」にて、「19式装輪自走155mmりゅう弾砲」の試作品が初披露されました。従来の155mmりゅう弾砲などとの比較から、陸上自衛隊が目指すものや、その内情などが垣間見えます。

「総火演」の新顔、「19式自走砲」

毎年夏、富士の裾野にある東富士演習場において実施される、陸上自衛隊最大の実弾射撃訓練である「総火演」こと「富士総合火力演習」。2019年の同演習にて、初めての参加となったのが「19式装輪自走155mmりゅう弾砲」、通称「19式自走砲」です。

この19式自走砲、旧式化したけん引式である155mmりゅう弾砲(FH70)の更新用として導入が予定されている新装備で、ドイツ製8輪式大型トラックの荷台に、国産の日本製鋼所製155mmりゅう弾砲を組み合わせています。この砲は基本的に従来の「99式自走155mmりゅう弾砲」、通称「99式自走砲」と同じ性能のもので、そのため射程や威力は同等で、砲弾や装薬も同じものが使用可能とのことでした。

ただしそれらを装てんするシステムだけは、99式自走砲が砲弾と装薬(砲弾発射に用いる火薬)の両方を完全自動で装てんできるフルオート式なのに対し、19式自走砲については車重やサイズとの兼ね合いもあり、砲弾のみ自動で、装薬は人力装てんの半自動式とのことでした。そのため、乗員(操砲人員)は99式自走砲が4名なのに対して、19式自走砲は1名多い5名となっています。

また99式自走砲と同じく、火力戦闘指揮統制システム「FCCS」、通称「フックス」などから得た目標の位置情報や座標などを、タブレット端末でタッチパネル入力するだけで照準が可能です。照準眼鏡(コリメーター)などは、システム故障や情報伝達が難しい場合などに対応するため、装備はしているものの基本的には使わなくても射撃できるそうです。

19式自走砲の特徴は?

ベース車両はドイツMAN社製のHX44Mで、全長11.4m、全幅2.5m、全高3.4m。ドイツ車のため原型は左ハンドルですが、イギリスオーストラリアニュージーランドにも輸出されているため右ハンドル仕様も用意されており、19式自走砲にはこの右ハンドル車体が用いられています。

エンジンは排気量1万500ccの直列6気筒水冷ディーゼルを搭載し、変速機はなんと前進12段、後進2段のオートマチックです。

99式自走砲が装軌式(いわゆるキャタピラ式)で、装甲で完全密閉された車体と砲塔を持つのに対し、19式自走砲は基本的に大型トラックへ砲を積んだものであるため、比較すると後者はやはり、悪路走破性や防御力の点で劣ります。他方、99式自走砲は装軌式のため移動のスピードが出せず、また重量も40tあるため、長距離を移動する際は戦車輸送用の特大のトレーラー運搬車が使用されるなど、機動性は格段に劣るといえるでしょう。その点19式自走砲ならば、タイヤで走る装輪式なので一般道を民間のトラックと同じように通行することができ、同じ装輪式の16式機動戦闘車96式装輪装甲車などに追従して行動することが可能です。

従来の155mmりゅう弾砲などと比較すると…?

一方、旧式化した155mmりゅう弾砲(FH70)はトラック(中砲けん引車)によるけん引式だったので、移動こそ高速道路を使用することもできましたが、射撃までの準備や陣地変換はトラックから切り離して人力で行うため、時間がかかり、なおかつ操作する要員も8名と、99式自走砲の4名と比べて倍の人数が必要でした。

また移動に際しても、「けん引式」ということはトレーラーなどと同じく、けん引する側のトラックを動かすには特別な免許が必要でした。それが19式自走砲ならば、8輪式とはいえ普通の大型トラックと同じ免許で運転でき、要員も前述したように5名で済むため、そこのメリットは大きいのです。

まとめると19式自走砲は、99式自走砲とけん引式である155mmりゅう弾砲(FH70)の、ちょうど中間の性能を有しているといえるでしょう。よくいえば両者のイイとこどり、悪くいえば中途半端ともいえるのですが、即応性と省力化を目指す一方で予算に余裕のない陸上自衛隊にとって、19式のような装輪自走砲はベターな装備であり、すでに2019年度予算において7両の調達が決まっています。

なお、今回の「総火演」で披露された19式自走砲はあくまでも試作品であり、量産車はもう少しブラッシュアップされるのではないかと、案内説明役の自衛隊員は話していました。

陸上自衛隊の19式装輪自走155mmりゅう弾砲。タイヤで走行する「装輪式」であることが大きな特徴(2019年8月22日、月刊PANZER編集部撮影)。